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第壱話:帝國の急襲

 小笠原諸島沖合一三〇〇キロメートル。ここに火炎島という本州ほどの島が存在する。

 西東(江戸)時代中期に発見され、以後火円藩がおかれ琉球のように貿易で栄え、第一次世界大戦末期に大東亜帝国の属国という形で火炎国建国、大東亜帝国の半植民地となったが、国内で独立運動が盛んになり一九二一年には火炎共和国として独立した。

 以後、豊富な資源を背景に欧米諸外国とも積極的に貿易し、高度な技術と文化を得た。

 そして、以前と変わらぬ平和が訪れようとした、はずだった。


 時は世歴(西暦)一九四一年一二月一〇日。

 大東亜帝国が北米連邦に宣戦布告した5時間後……


 午前七時八分 火炎共和国、首都・紅城。統合軍総司令部――

 普段は落ち着きのある司令室だが、今回はかなり慌しい。

「敵攻撃機部隊確認!数は、五十!いや、百!」

「防衛艦隊をそっちへ向かわせろ」

 十五分前、複数の機影が確認され同時に哨戒任務中の潜水艦が大東亜帝国の機動艦隊を発見した。

「駆逐艦・日暮から電信。ワレ、敵艦見ユ」

「哨戒機、撃墜されました」

 管制官、各司令官たちが指示している中、総司令と副司令だけは冷静だった。

「とうとうきましたな、司令。やはり・・・」

 副総司令官の早見が表情も変えず、聞いてきた。軍総司令官の久村は腕組をして黙り込んでいる。

「司令!迎撃部隊の出撃許可を」

 管制官の一人が聞いてきた。

「許可する。ただ、その内十機は首都防衛に当たらせろ」

「確認取れました。間違いなく大東亜帝国海軍第一航空艦隊です」

「数確認。空母三、戦艦二、巡洋艦三、駆逐艦六」

 係員が報告した瞬間、久村は立ち上がった。

「皆よく聞け。たった今、この国の親とも言える大東亜帝国が攻撃を仕掛けてきている。皆の中でも祖国を思う者は居るはずだ。だが祖国は、帝国は我々を裏切り、攻撃しようとしている。負ければ我々は全ての権利を失うだろう。だからこそ国の威信を懸け、全力で迎え撃つ義務がある」

 管制官達は一斉にうなずくと敬礼して職務に戻る。

「これなら確実に士気が上がりますな、司令。自分も最期までお供します」

 久村は軽く微笑み、すぐに指令を出した。

「響艦隊と廻林艦隊を出せ。相手は攻撃が終わる前に引き上げるが、また戻ってくるだろう」

 そう言って、入れたてのコーヒーを一気に飲んだ。

 久村の勘はかなりの高確率で当たる。ただし、勘で熱々のコーヒーを飲むのは危険すぎた。結局、久村は舌にやけどを負って、

 以来ホットコーヒーを飲まなくなったのは言うまでもないだろう。


 同時刻、大東亜帝国海軍、第一航空艦隊旗艦・正規空母赤城、艦橋……

「第二波空中攻撃部隊の準備だ、急げ」

第一航空艦隊司令長官、南雲忠一中将は紺碧の海を眺め、自信たっぷりに言った。

 真珠湾攻撃があまり見事に終わり、すこし浮かれたのかもしれない。もうじき第一波空中攻撃部隊が作戦を開始する時刻だ。

「作戦開始後すぐに第二波攻撃部隊を上げ、それぞれの目標へ。別働隊は山脈から進入させて、首都へ向かわせろ」

 下賎者どもの集まりが。我々が叩き潰してくれるわ。

 

 午前七時二二分、大火炎共和国西部地方都市・沖野市……

 ここには国内最大の鉄鉱石採掘場があるほか、それに隣接している製鉄所も国内最大で、多数の工場がある。

 肌寒い朝の静寂を切り裂くように空襲警報が鳴り響いた。初めは訓練と住民も思い込んでいた。しかしその直後、地響きにも似た音が聞こえ日の丸を刻んだ鉄の鳥の群れが。第一航空艦隊の第一波空中攻撃部隊である。

 大東亜帝国が誇る零式艦上戦闘機は低空で接近し、機銃掃射の態勢に入っていた。そのときだ。三十機の戦闘機が閃光のごとく現れ、機銃を乱射し、街の上空を飛び去る。それを見た住民たちから歓声が沸いた。これこそ火炎共和国が誇る最新鋭艦上戦闘機、一式艦上戦闘機“旋火”だ。

 まず隊長機が先陣を切り、迎撃隊が続く。大東亜の零戦はその機動力を生かして格闘戦をしてくる。だが旋火の方が速度的に有利だ。強力な破壊力を持つ機関砲により数発で火を噴く帝国軍機。零戦の防御力という弱点を狙った連続ヒットエンドラン攻撃により、十数分後、第一空中攻撃部隊は壊滅、生き残ったのは約三分の一だった。

 

 同時刻、中央山脈上空……

 雪化粧をした山脈の上空はなんの障害もなかった。

 まさかの挟み撃ちになすすべも無く、司令部は壊滅。後は陸軍が煮るなり焼くなり好きにするだろう。

「いいシナリオだ……」

 そう呟いて、ニヤリとした隊長はこの後自分たちがどんなに愚かかを思い知ることとなるのは言うまでもない。

 その五分後、別働攻撃部隊が待ち受けていた旋火により全滅したことも……


 十分後、第一航空艦隊旗艦・空母赤城、士官室……

「第一波空中攻撃部隊が壊滅だと。被害は」

 南雲は報告を聞いて唖然とした。

「第二波空中攻撃部隊も目標の遥か手前で壊滅的打撃を負い、別働攻撃部隊は……」

「なっ、なんだと。こちらの手が読めていたとでも言うのか!」

さっきの余裕綽々な南雲は見る影も無かった。

南雲は、狂ったように空のマグカップを床に叩き付け、机を何度も叩いた。

その赤く、血の気の立った顔からは恐ろしいほどの殺気が漂っていた。

「噂では聞いていたがまさかここまでやるとは。ええい、今度こそ叩き潰してくれる!」

 その後第一航空艦隊は戦艦金剛を旗艦とした第一艦隊と合流、補給をし、再度火炎共和国攻略作戦を展開しようとしていた。

 だが、突如本国から帰還せよとの命令を受けた。米国も近いうちに動き出すと推測した軍令部からだ。断るわけにもいかない。

「私の顔に泥を塗りおって。次こそ、あの下賎者どもを地獄の業火で焼き払ってやる」

 そう言って彼は命令を出し、帰路についた。

 復讐を誓って。


 同日、午前九時 火炎共和国、首都・紅城。統合軍総司令部――

「哨戒機によると敵艦隊は回頭ののち、北上を開始。帰路についているそうです」

 司令室の緊張が僅かに綻ぶ。司令長官も胸を撫で下ろした。

「旋火は配備直後で少々焦ったが、上手くやってくれたようですね」

 副長も安心したようだ。

「皆の働きで、今回はどうにか敵艦隊を追い返すことに成功した。だが、これで終わったわけではない。これは始まりなのだ。この戦闘によって、我々は帝国を完全に敵に回してしまった。彼らが国連脱退以降、軍拡を強要してきたことは皆も分かっているだろう。北米連邦は我々の支援のため、着々と艦隊を送っている。到着するまでの数週間、この攻撃を耐え忍んでほしい。この戦、我々が勝つ! 絶対に」

 久村は早くも次の攻撃を予感していた。次の戦いは長くなりそうだと。

アメリカ合衆国→北米連邦

大日本帝国→大東亜帝国

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