思い出した日 2
あまりのアクシデントについ固まってしまいます。
さぁ探りにいこう、としていた本人が今まさに目の前に居るこの状況はかなりマズいです。
『内部組で役職持ち』というだけでもかなり立場に差があるのに、さらに下心まで加わるともうどうしようもありません。
内心、冷や汗まみれで気を失いたいところですが、それをやると一緒に居る時間が増えてボロが出やすくなるうえにファンクラブにまで目をつけられ………ゴホンっ、考えないでおこう。
ちらちらと目的地の方にも目を向け、これからの行動を決めていきます。
何にせよ逃げるのが得策だと心得た僕は決死の離脱作戦に挑みます。
「本当にすみませんでした。 では、僕はこれで失礼します。」
足を食堂に向けて踏み出します。
よしやった!、と喜んだのもつかの間。
「待て。」
ハイっ失敗!!
「そちらには食堂しかない。 用件は何だ。」
あなたのことを調べにきました、とは言えません。言ったらすべてが終わります。
「ち、ちょっと忘れ物をとりに。」
ありきたりな嘘をつくと、若干先輩の眼光が鋭くなった気がします。
口を開こうとした先輩を見て作戦を完遂できないかも、と覚悟を決めます。
何しようとしていたか知られたら、たぶん学校追い出されるだろうから学校探さなきゃいけないな。
せっかく馨が友達になってくれたのに申し訳ないことをしたな、あとであやまっておこう。
馨は優しいからきっと友達は続けてくれるだろうから、問題が転校先か・・・。
私立は厳しいから公立のどっか良い所がないか家に帰って探してみよう。
できればこの学校みたいに、通学路で「あいつら」の声が聞こえないようなところが良いな。
僕は少し遠い目をしながら先輩の一言を待ちます。
……あれっ?何も聞こえてこない。
待てど暮らせど反応がなく、先輩のほうを向くと違う方向を向いていました。
曲がり角になっているため僕からはよく見えませんが、なにやら騒がしいようです。
だんだん騒ぎ声が大きくなっていくのに比例して、先輩の眉間のしわもだんだん険しくなっていきます。
これは作戦を完遂するチャンス!と思って「失礼します」と小さめの声で言い逃げをして食堂に逃げ込みます。
声はかかってこないので今度こそ成功だ、と心の中で歓喜の絶叫。
やっぱり小心者にはあんな状況一度で十分ですよ、もう二度経験したくありません。
―――――――――――side荒木
「1年3組米倉俊平…」
今走っていった生徒の生徒手帳を通して名前が知れた。
おそらくぶつかった時に誤って落としたのだろう。
それにしてもおもしろいやつだったと、騒ぎの元に向かいながら回想する。
放課後の巡回中に偶然生徒とぶつかった。
見ると一般生徒で少しうんざりしそうだ。
今しがたファンクラブの人間を撒いてきてすぐだったからか、そんな感情が頭を占めていく。
俺自身の立場のせいかおかげか、話をするのは大抵気の知れた連中か、ファンクラブの人間のみだ。
ファンクラブは統率されているらしく、特に大きな問題を起こしはしない。
だが裏を返せば、それは表には見えないように問題を起こしていく、ということであるのでたちが悪い。
ファンクラブによって性質が異なるらしく、たまに抗争が起こる。
この程度なら怪我人も居ないうえにすぐに鎮火するのだが、ファンクラブの人間が親の権力を我が物顔で使い、俺のクラスの人間に圧力をかけていると知った時はファンクラブの永久解散を命じたくなった。
こんなばかげたことが学校内だけで留まればいいのだかそうはならない。
ファンクラブのほとんどが内部組であるがゆえに、親の企業間での問題に発展していった事例が過去にな
いわけでもない。
ぶつかった生徒が男であることにひとまず安堵する。
こちらが謝ると向こうもすかさず謝ってきた。
見たところ1年生で、おそらくファンクラブからの圧力は受けていないものの、風紀委員であることに畏怖しているのだろうと結論付けた。
しかし、何か違う気がした。
ただ純粋に急いでいて早く会話を終わらせようとしているように見受けられた。
その態度に少し新鮮さを覚えた。
なんにせよ、あんな態度はあまりいないので話せてよかったと思う。
今度生徒手帳を返す時に少し話をしてみたい、といつもの自分と違うことに気づき、それもいいかと考えた。
初めて俊平サイド以外のの話を入れてみました。
あと、まだ未定ですが『主食戦争!』の紹介文とタグを変えようと思っています。
変更してから次の話で報告させていただきたいと思います。