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主食戦争!  作者: 唐紅
8/20

思い出した日 1

いろんなことにも一段落着いて、やっと今までの落ち着きを取り戻してきました。

心に余裕ができたからかバイト先の店長さんに褒めていただいたり、盗られた傘が元の場所に返却されていたりと良い事が起こるようになりました。

ほんの些細なことかもしれませんが、少しずつでも幸運が舞い込んで来ることが嬉しくて最近は上機嫌気味です。

でも、ちょっと上手く行き過ぎていて怖いと感じることもあります。




6月に入り少しずつ期末テストに向けて空気がピリピリしてきたこの頃、梅雨のせいか雨の日が多くなっています。

今日も公共交通機関に遅れが生じかねないほどの豪雨で、『学校休みになれ』と憂鬱な気分になりながら祈ったのはきっと僕だけじゃないでしょうね。

無駄に大きいこの学校には、昇降口にたどり着くまでの長い距離にいつもイライラします。

財力のある人たちはこういうとき昇降口まで車を回すので、水が跳ねるわ、風向きが変わるわで歩きの人がとても大変です。

学校に濡れながらも着いた僕は、あらかじめ持ってきておいたタオルで体を拭いているとある女生徒の胸元に目が留まりました。

……あ、変な意味じゃありませんよ。

僕の目に留まったのは胸ではなくて、その胸の上にあるオレンジ色のリボンの方ですから。


通常リボンの色は赤なのですが、一部、と言っても半数以上の女子は赤ではありません。

だからと言って好きな色を選んでつけていると言うわけでもありません。

彼女たちはファンクラブの会員なんです。

生徒会なら青系統、風紀なら黄色系統という風に、組織ごとに色の系統が変わり一目で所属のファンクラブがわかるシステムになっていて、幹部になると結び方まで指定があるそうです。

ちなみにリボンは特注らしく一本で何万円もするそうです。

などと入学早々ほぼすべてのファンクラブが1年の全教室を回って勧誘していくので、言っていた内容を覚えてしまいました。

どうせならこの部分に英単語の一つや二つ入れたかったものですね。

でも、メンバーがいわゆる『内部組』ばかりなので『一応声はかけるけど…』という感じで『外部組』をあまり快く思っていない様子でした。

ファンクラブ活動じゃなくてほかの事に熱を上げれば良いのに、と思いますが口には出しません。

顔を覚えられて嫌がらせを受けるのは真っ平ごめんですし。


で、結局何が言いたいのかというと、




―――――風紀委員の荒木先輩のこと忘れてた―――――――


ということです。

正直言うとすっかり忘れてました。

コノハのことや将来のお金のこととか生命にかかわる重大なことばかり立て続けに起こっていたので、印象が薄くなってました。

やっぱり生死にかかわらない限りある程度のことはどうでも良くなりますね、いや、どうでも良くはないんですけどね。

急ぎの用事でも、今の自分に必要なものでもないのでとりあえず確認だけとって終わりたいと思います。







放課後になり、行動を開始します。

もちろん行き先は食堂の中にある居酒屋兼情報屋の『共食い』へです。

きっとあそこなら情報があるでしょう。


道中、自分が昔と変わったなぁとふと思いました。

昔の自分だったら、自分以外誰も『見えなく』ておかしいと言われ続けていた以前の自分だったら、他の全てを捨ててでも同じ境遇の仲間を探し出していたでしょうね。

何も知らない人は悪口しか言わないけど、同じ悩みを抱えている人ならきっと自分のことをわかってくれると、それだけを信じて。

いろいろあって整理のついた今ではそんな事は思わなくはなりましたけど。


食堂への渡り廊下に差し掛かったとき、曲がり角から何かがすごい勢いで飛び出してきて左肩を強い衝撃が襲います。

あまりの衝撃に尻餅をついた僕は、瞬時に人とぶつかったとわかりました。

しかも上靴の学年カラーである赤が見えて、2年とわかりすぐに立ち上がって「すみません!」と謝ります。

内部組のお嬢様だったら、と難癖つけられて僕が悪者に仕立て上げられる図にぞっと身震いします。

……決して武者震いじゃありませんから。


「いや、こちらこそすまない。 先を急いでいたものせいか前方不注意だった。」


―――どこかで聞いた鋭い声

嫌な予感がした僕はヒクヒクしそうな顔の筋肉を動かさないようにしながら、ゆっくりと顔を上げてみると案の定でした。


ご本人、荒木透先輩が光臨していました。

今までの幸運から一気に叩き落されました。



だ、誰か助けてぇ!!

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