家族が増えました 2
家に帰るととっくに9時を回っていて、急いで遅めの夕飯を作ります。
一般家庭だとこんな時間まで帰らないと親が怒るのかな、と珍しくそんなことを考えながらフライパンを振ります。
冷蔵庫の中のあり合せで作った炒め物片手にテーブルに向かうと既に「あいつら」がいました。
こんな時間まで待つなんて律儀なのかと見当違いのことを考える自分が、いつもと違う気がしてなりません。
夕飯を食べながら家族になる予定のあの犬について話してみます。
「許せない!!」
と千代が今まで見たことがないくらいの剣幕で突然叫びます。 つい、ビクッと肩を震わせ首を縮こめます。
「動物にそんな仕打ちをするなんて! 飼い主はどこのどいつだ!私がとっちめてやる!!」
耳がキーーーン。 耳鳴りが止まらないせいで何を言っているのかよく聞こえません。
「いつも以上に怒ってるけど千代は動物が好きなの?」
耳鳴りのする耳をいたわりつつアルフレッドに聞きます。
「そうですね、俺たちは動物と共存して支えあった歴史があるので今こうして繁栄しているのです。少し特別なものもいますが、千代に限らず俺も含めて大抵は好きですよ。だから、こういう事は千代と同じで許せないですね。」
怒気の含まれている声から本当に大事なんだと感じ取れます。
確かに畑耕したり、ほかの動物の生存競争から保護されたり、人間を含めた動物の手を借りないとダメだもんね、とか何とか考えていると千代がこっちに向かって
「俊平! いつその犬はやってくるんだ、明日か、明後日か!?」
「あ、明日だけど・・・」
今にも噛み付いてきそうで怖いです。
つい、どもってしまって恥ずかしいです。
「明日だな! ・・・よし、思いっきり甘やかしてやろう。まずは名前からか・・・・」
ブツブツつぶやいてどこかへ言ってしまいます。
嵐が通り過ぎて一息ついてからもう一人に確認を取ります。
「アルフレッド、君も家族が一人増えることに賛成してくれる?」
「もちろんです。」
その一言にホッと一安心です。
話もそこそこに切り上げてさっさと寝ます、今日はいろいろあって疲れました。
そういえば、あの風紀委員の先輩は・・・・・・
と頭を回転させるまもなく意識が飛んでいきます。
次の日の放課後、暇と言ってついてきた馨と例の病院へ行きます。
行く途中で新しい家族のための品を購入したので、今馨は完全に荷物もち状態です。
あの犬の話をして以来何か考え込んでいるようで、口数がとても少なくなっています。
動物が好きなんでしょうかね?
そうこうする間に病院に到着しましたが誰もいないようなので、待合室みたいなところで待たせてもらいます。
すると今までに見たことがない怖い顔をした馨が突然口を開きます。
「・・・その犬の特徴は。」
「黒くて中型犬くらいの大きさだよ。」
「なんか持ってなかったか。」
「いや、確か何も・・・・・・あっ、そういえば書いてある文字が読めないくらい傷のついた変な首輪がついてたよ。ピンクと紫をぐちゃぐちゃに混ぜたような趣味悪そうな色のやつ。」
そこまで言うとすごく険しい顔になってまるで別人のようでした。
目を閉じて長いため息をつきます。
顔が整っているせいかすごく絵になるなぁ、と場違いなことを考えてしまいます。
ギイっと音がして振り向いてみると昨日の先生がいました。
「お待たせしました。これをはずすのに少し手間取ってしまいまして。」
手にはあの首輪がありました。
「人間が近づくと怖がって暴れるので時間がかかってしまいました。・・・ああ、心配しないでください、力で押さえつけたりとかはしてませんから。」
僕の疑うような目に気づいたのか笑って否定の言葉を口にします。
昼なのに少し薄暗い病院の奥へと進んでいき、扉を開けるとあの犬と対面しました。
身体中にこびりついた血は綺麗に拭き取られていて、傷がたくさんあったのか包帯が身体中に巻いてあります。
近づいてくる僕たちに気づいたのか、体力もないはずなのに無理をして虚勢を張ります。
そんな姿は見ていられません。
手を伸ばすとかまれてしまいました。
「っ、おい!」と声と荒げる馨には悪いですが、返す余裕がありません。
血が流れて、歯が食い込んで、肉や神経が悲鳴を上げているのがわかります。
でも手を離したらそこですべて終わってしまう気がしたので、我慢して逆の手を伸ばします。
するとさらに噛む力が強くなって手が貫通してしまいそうです。
僕はそっと頭に触れて撫でました。
「僕の家族になってくれないかな。」
境遇が似ているからとか、可哀想だからとかそんな理由じゃなくて。
ただ僕も「あいつら」も君が必要なだけなんです。
そんな気持ちをこめて目を合わせます。
「気に入らなかったら噛み付いてきてもいい。そのときは喧嘩でもしよう。家族なんだからお互い気に入らないことのひとつもあると思うし。・・・ただ一緒に居たいだけなんだ、だめかな。」
すると、まるで僕の言ったことがわかっているかのようにそっと口をはずして傷口を舐め始めました。
もう一度撫でてやると今度は自分から擦り寄ってくれました。
なんだか、認めてもらえたようでとてもうれしくなって、気づけば血だらけの手のこともすっかり忘れて笑顔になってました。
病院を出て家に帰ると玄関には「あいつら」がいました。
まだ安静の身なので近くに擦り寄っていって軽く話をしていたみたいです。
動物と「あいつら」は何故か話すことができるようで新たな事実を発見しました。
あの犬について聞いたところ、アルフレッドいわく「感情の起伏があまりない女の子」だそうです。
新しい家族を迎えた僕たちは歓迎パーティもどきをして楽しく過ごし、これからに期待を寄せるのでした。
―――――ちなみに犬の名前はみんなで話し合った結果、四季折々で違う顔を見せるようにいろんな顔をして欲しいと言う願いから「コノハ」と名づけられました。
2012/11/27 文章を少し変えました。