家族が増えました 1
僕はぐったりしている犬を抱えて動物病院へと急ぎます。
暴れようにも気力がないのか体をびくっと反応させてから動きがありません。
走るたびに血が道路に垂れていきます。
やっとたどり着いた病院の扉をたたいて空けてもらって診てもらいます。
しばらくして出てきた医者の顔は険しいもので最悪の状態かとドキッとしました。
「せ、先生。容体はどうですか?」
「大丈夫です。しばらくは安静ですが今は安定していますので、しばらくすれば歩けるようになるでしょう。」
ホッとしました。
でも、次の一言に衝撃が走ります。
「この犬、虐待受けてたみたいですね。下手したらアキレス腱が切れて二度と歩けなくなるところでしたよ。」
―――――思い出すのは苦くて苦しい昔の記憶
「気味が悪いわぁ。なんだかいつも一人でぶつぶつ言って。この間も人がいるとかなんとか・・・。」
「子供の遊びだろ。真に受けるなよ、両親が死んでさびしいだけだって。」
―――――違うよ!ホントに居るんだって!!
「見ろよあいつ、また変な嘘ついてるぜ。頭いかれてんじゃねーのか!?」
「あはは! それ言えてるっ!!」
―――――嘘なんかついてないよ!どうして見えないの!!そこにいるのに・・・
「せんせー、米倉君がまた変なことしてるー。」
「きっと米倉君もいろいろ大変なのよ。・・・そっとしておきましょう。」
―――――僕は変でもおかしくもない!!
どうして気づいてくれないの…。誰か助けてよ…。
違う学校に転校してからはいろいろあってうまくやっていく方法も分かったし「あいつら」ともり愛を付けられるようになったから、ちゃんと友達もできて毎日が少しずつ楽しいと感じるようになったけど、あの犬は違います。
周りが信用できなくて疑心暗鬼になってどんどん傷ついていく姿は、何時かの自分と重なってつい口が動いてしまいました。
「この犬、僕がもらってもいいですか。」
妙に決意した僕の顔を見て「どうぞ。」と医者は一言かけてくれました。
「でも、せめて今日一日はこの病院で過ごしてください。明日の朝以降であればいつでもいらしてください。」
そういわれてうなずいた僕は犬に一言かけてから帰ります。
明日は餌とかいろいろ買わないといけないな。
そうだ、家に帰ったらあいつらにも報告しないと―――――
―――――新しい家族が増えるって
やっと日をまたげます。