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主食戦争!  作者: 唐紅
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僕らの日常

更新が不定期でありますがよろしくお願いします。

あと、今回の話はちょっとだけ、ほんのちょびっとだけ恋愛じみてますが、ストーリーの全体的にはガッツリ恋愛に手は出しません。

ご了承ください。




「だ、だから君のことは嫌いなんだ! 半径5メートル以内に寄らないでくれ!!」

「何を言ってるんですか、全く。 その台詞も何回言えば気が済むのですか? 今月に入ってもう3回目ですよ」

「う、うるさい! そんなんだから君は!!」

「『そんなんだから』何なんですか? 図星だから言い返せないんでしょう」



布団の中からこんばんは、米倉俊平です。

草木も眠る丑三つ時と言っても差しさわりの無い時間であるのに、わいわいがやがやとうるさく騒がれて正直眠れません。

さて、さっきから続いているこの言い争いですが、一度や二度じゃなく毎日やっています。

いつもであればリビングでやるはずのこのやり取りを、なぜか今日は僕の部屋に乗り込んで繰り広げています。

仲がよろしいことで何よりですが、僕としては『よく飽きないな』と思います。

毎日毎日違う話題で言い争いをする姿に博識なのか馬鹿なのかと思っていることは、いつも通り心の奥にしまっておきます。

気にしないことで得られる幸せもこの世には存在しますからね。

まぁ、でも「あいつら」を初めて見た時はびっくりしました。

なぜか? それは………















―――――彼らが米とパンだったからです





僕は生まれ持ったこの体質のせいで「あいつら」が物心つく前から見えていました。

家族を含め誰にも見えないものだから、周りの人からは気味悪がられていましたが、今では時間が風化させてくれたのかそんなこともあまりありません。

両親が他界し遠い親戚しかいない僕は、なけなしの金をやりくりして誰しもが一度は憧れるであろう自活というものをしています。

そんな僕の家に住み着いた「あいつら」は好き放題暮らしています。

『米とパン』と言っても人の姿をしているせいか、小人が動いてしゃべっているようなもので、手足の生えた食材が動き回るシュールなものではありません。

ちょっとどころじゃなくて『かなり』うるさいやり取りや、毎日続くラブコメもどきにストレスが溜まって正直迷惑です。

こっちの安眠妨害なんて何回されたことか………。 数えることはとっくの昔に諦めました。

でも、まぁほどほどに暮らしています。



今だって



「俊平!君は『米はパンに劣る』と思うかい!? こいつは米はアジアでしか食べられていない限定的な食べ物だ、とか言うんだ」


黒い長髪を後ろでひとつに束ねたクールビューティな女性[千代]が、茶髪の長身で見るからにやさしそうな好青年[アルフレッド]を指差して声を荒げてこちらに訴えてくる。

今日はいつもよりもまともな話題であることに少し感動を覚えてしまいました。


「事実は事実でしょう。 最近では『米離れ』という現象が起きているそうですね。 まぁ、米は調理方法がどうしても構造上限られてきますからね、仕方ありません」


アルフレッドの励ますような声に、馬鹿にされたと思ったのか鬼のような形相で振り返り、


「仕方なくなんかない! 米は栄養価も高く非常に優れた食品だ、米こそ主食にふさわしい。 それに君だって『日本食ブーム』で最近は私に負けているじゃないか」とすかさず口にする。

「『ブーム』はあくまでブームでしょう。 時がたてばパンにまた戻ってきますが、果たして米はどうでしょうかね」とからかう様な声色で千代を挑発する。

「お前なんか知らん、ここは第三者である俊平に決めてもらう。 もう一度聞くがどうなんだ、俊平」



うわぁ、予想通り飛び火しました。

早く寝かせて欲しいからどっちでもいいんだけど、ここは中立な立場とらないとあいつがなぁ………、と一種の恐怖政治のような威圧感を思い出して目が遠くを見つめてしまいそうになります。

予想通りの嫌な気配がびんびんに伝わってきます。

発生源は見なくとてわかる彼の人。 とりあえず早く答えよう。



「ぼ、僕はどっちでもいいと思うよ。 米には米の、パンにはパンのよさがあると思うし。 てか、寝かせ・・」

「この裏切り者め! もういい!!」


突然そう叫び、僕とアルフレッドを一睨みしてから、千代は自分の部屋にズカズカと足音を立てて帰ってしまいました。

部屋に帰る、と言ってもまさしく幽霊のように音も無く消えていくので、最初に見たときはとりつかれたと思って大騒ぎした記憶があります。

いつも思いますけど、『自分の部屋』は一体何処にあるのだろうかと疑問に思っています。











「ご協力ありがとうございます」


アルフレッドはニコニコと人の良い笑みを湛えながらこちらへやってきます。

もともと顔が良いせいか、現実にいたら僕とは絶対に係わり合いが無いことは必須だろう、と思わせる力があります。

絶対女の子の黄色い声援を受け続けて育つタイプだと想像してしまいます。

でも実際は、社交辞令で固めた笑顔なので、人が良いわけでも何でもありません。

趣味は『千代で遊ぶこと』というのが見ていてわかります。

アルフレッドは人の良い笑みのまま口を開きます。

そこそこの付き合いなので何が言いたいのかはなんとなくわかります。


「もし俊平さんが『僕は日本人だし米の方が好きかな。』などと言って、千代の興味を引こうとするものなら大変なことになっていましたね」


思ったとおりの言葉で、内心当てた喜びに浸りつつ毎度のことだと呆れてしまいます。

昔から千代と対立するようなことを言いつつも、他の誰かに関心が向くことには極端に心が狭い奴。

出会ったばかりの頃は信用していないということが丸出しで、僕への態度ももっとキツい物でした。


「そんなことしないからもう寝かせて……」

「わかりました。 では、そろそろ失礼します、おやすみなさい」

「おやすみ……」


言っている内容とは正反対の爽やかな笑顔とともに彼も自分の部屋に消えていきました。

最初は怖かったアルフレッドには耐性がついてしまって、今となってはすっかり慣れてしまいました。

でも、ただの嫉妬に僕を巻き込まないで欲しいです。

明日も学校があるのにどうしてくれるんですか、成績下がったら「あいつら」のせいにしてやるからな。

そんな声も聞かれると何されるかわからないので、とりあえず飲み込んでおきます。



千代、あなたは厄介な相手に惚れられてしまったようです。

人種(?)の差なんか越えて早くくっついてください、こっちの心臓と健康に悪いです。



2012/12/24 改訂しました。

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