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再会

「なに朝からぐったりしてるのよ」

 HRが始まるまで、残すところは後一分足らず。

 机にぐったりと倒れこんだ俺に声を掛けてきたのは、幼馴染でクラスメートの千歳だった。


 千歳との最初の記憶は幼稚園、それから気がつけば隣に彼女がいた。

 母親同士が同級生ということらしく、生まれて間もない俺達が一緒に写っている写真を見たこともある。

 つまり、かれこれ十六年の付き合いということになるわけだが、彼女が白いワンピースを着ていたという記憶はまったくない。

「白いワンピースって着たことあるか?」

 顔を上げるなり、千歳の質問を無視してこっちから問いかける。

「あるわけないでしょ」

 即答だった。

 そして、予想していた通りの答えだ。

「だったら……、白いパンツは?」

「なっ、ななな、ないわよ!」

 お、狼狽している。これは少し予想外の反応で面白い。

「だっ、だって、白なんて……」

「ニ、三度洗えば、汚れて着られなくなる。だろ?」

 千歳は呆れ顔で、溜息をついた。

「知ってるのに質問してるわけ?」

「ああ、なんとなく確認したかったんだ」


 世界を蝕む『翠緑の涙』


 水と食料を確保することが最優先とされる今、洗濯するために綺麗な水を使える人なんていない。

 水道局は政府の管理下に置かれ、不正な水の使用が発覚すれば罪を問われることさえある。

 綺麗な水が使えるのは、飲料水とバイオプラントくらいだろうか?

 学校の制服に限らず、手持ちの服は紺・茶・黒系のものばかりだし、淡い色の服なんて支給品のリストにはなかった筈だ。

 だったらあれは何だ?

 脳裏に焼きついて離れない、あの白い少女の姿。


 夢……。

 論理的に考えれば、それが一番納得できる答えだった。

 しかし、あの生々しい惨劇が果たして夢でありえるのだろうか?

 悲しい瞳、冷たい指先。

 心のどこかで、あの少女にもう一度会ってみたいという自分がいる。

 だけど、もしあれが現実だったなら、あの少女は今頃……。

 夢にしても現実にしても、叶わぬ願いだと気づいて、溜息を吐いた。


「おーい、今日はどしたの? なんか変だぞ」


 俺の顔を覗き込む千歳の呟きに、どう説明するかと迷っていると、HRの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

 千歳はちらりと時計を見ると、腑に落ちないといった面持ちのまま自分の席に着く。

 それから間もなく、教室の扉を開く音が聞こえたかと思うと、生徒の間にどよめきが起こった。


「誰あれ?」

「すげー、可愛い」

「ひょっとして、転校生?」


 と、それぞれ思い思いの言葉を口にしている。

 なんだ? と顔を向けた俺の目にも、その姿が飛び込んできた。

 呼吸が止まる。

 心臓が締め付けられる気がして、言葉がでない。


 白い少女。

 今は学校指定である紺色の制服を着ているけど、見間違いとは思えなかった。

 黒い瞳はどこか憂いに満ちていて、哀愁を漂わせている。

 結んだ三つ編みが頭の左右でクルクルとぜんまいのような団子を作った後、肩まで垂れている。

 小さな少女は、しばらく落ちつかなげに周囲を見回し、

「『葉月まなか』です。よろしくお願いします」

 と、緊張気味な自己紹介をした。

 もはや、男共はお祭り状態だった。

 なんだかわからん騒ぎに気圧されながら、少女が頬を染める。

 俺の手に汗が滲んだ。

「水無月の列の一番後ろに座ってくれ」 

 担任が俺を指差して名前を呼んだ。

 確かに、俺の後ろは先月から空席だったけど……。

 ちらりと後ろの席を見やり、視線を戻した瞬間に少女と目が合った。

 淡い桜色の唇が音もなく何かを呟いた後、

「はい」

 と、短く答えてこちらに歩いてくる。

 思わず身を硬くする俺の横、すれ違いざまに彼女が耳元で呟いた。


「あなたを許さない。これからは背中に気をつけて歩くことね」


 心臓を鷲づかみにされたように背中に冷や汗が流れる。

 そーっと、ぎこちなく振り返ると、

「よろしく、水無月くん」

 と、少女が天使のように微笑んだ。

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