夢?
目の前に天井が見えた。
シーリングライトの端にアンティーク調のツタ模様が施されている。
よく似た趣味の奴もいるもんだ。と思ってよく見ると俺の部屋の天井だった。
ぼんやりとしたままの頭で体を起こす。
なんだか体が重い……。
脳みその代わりに鉛を詰められたかのような倦怠感がする。
寝不足が数日間続いた時のような気分だった。
溜息をついたとき、不意に一つの映像が甦ってきた。
白い少女……。
悲しみに満ちた少女の漆黒の瞳が見開かれ、驚愕の色に染まっていく姿。
ただ、その光景が脳裏に残っている。
あれは夢だったんだろうか?
学校帰りに……、雨が降ってきて……、それから?
あれ? ――どうやって帰ってきたんだっけ?
いつ頃? 帰ってきたんだっけ?
困惑に満ちた目を時計に向ける。
七時四十七分だと!?
さー、と一瞬血の気が引いた後、これはやばいと脳がフル回転を始めた。
ジャージのズボンを脱ぎ捨てて、制服のズボンを履きながら、今日の授業について頭をめぐらせる。
特別な用意は必要ないと判断し、上着のボタンを留めながら階段を駆け下りると、台所から出てきた母に出くわした。
「もう、大丈夫なの?」
「大丈夫、まだ間に合う」
心配そうに顔をしかめる母に告げて、俺は家を飛び出す。
電波式の腕時計を確認すると、七時四十九分を回ったところだった。
どうして起こしてくれなかったんだ? と、内心毒づく。
空はどんよりとしていたが雨は降っていない。
しかし、道路の端々には水溜りが作られていた。
水溜りがあるってことは、昨日は確かに雨が降っていたってことだ。
だとしたら、どこまでが現実でどこからが夢だというのだろう?
町外れの学校へと続くアーチ橋に差し掛かったとき、再びあの映像が浮かび上がった。
微かに残る映像を頼りに地面を観察してみても、足を滑らせたような痕跡は見つからない。
橋の下を覗き見る。
この高さから落ちることを思うと、正直なところ生きた心地がしない。
高所恐怖症なら下を見るのも嫌になる高さだった。
首を振って、意識を元に戻す。
あれは夢だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は走ることに集中した。