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第2話 荒涼の心

ただ、それだけで良かった

ただ、それだけで辿り着くと思っていた


何もわからず歩みだした…


あの時はただ…






 


 相手の顔など見なかった。もうすでに見ているからだ。目を閉じれば奴の顔が

思い浮かぶほど俺は奴を見ている。

「先輩、久しぶりですね」

「………」

 無言で返事をする。

「けっ、相変わらずだ…。うっとうしい…」

「それはお互い様だろ、浩行」

 獣のケンカのようにお互い牙を剥き出しにしたまま、相手の隙をうかがうよう

に話を続ける。

「まさかおまえがここに戻ってきているとは思わなかったよ」

「あんなのただのお遊びですよ。先輩もそう思っているでしょう?」

 本当に腹が立つ奴だ。何を言っても皮肉しか返ってこない。

 月奈と同級生の浩行。こいつが高校に入学する前から付き合いがある。ライバ

ルと言ってもいいほど、お互いの存在を認め合っていた。これはもうすでに過去

形になっているが…。

「なら、なぜなんだ?」

 そのとき眠っていたはずのナニかが目を覚ました。手のひらに爪が喰い込んで

脳を刺激する。

「だからお遊びだって言ってるでしょう。それだけですよ」

「他の部員に悪いと思わないのか?」

「だ〜か〜ら〜、お遊びだって言ってるじゃないですか。何度言わせないでくだ

さいよ」

 自信に満ちた笑顔からは、真実を告げる事しか知らないということが読みとれ

る。本当に腹が立つ野郎だ。

 今度は奴が質問してきた。

「なぜそこまで俺に突っかかるんですか?まっ、別にいいですけどね。俺は今のあ

なたに興味ないし。もっとも、あなたも俺に興味などないでしょうが」

 質問をしておいて自分で答えるなんて、こいつも何も変わっていない。人なんて

そうそう変わるもんでもないから別にどうでもいい。

「浩行、わかっているなら言う必要がないだろう?」

 こいつと話していると溜め息をつくことさえも忘れてしまう。

「ふっ、ははははっ。本当に相変わらずだ。無意味なことが嫌いなんですね」

 腹を抱えて笑っている目の前の敵を今すぐにでも殴りたくなる。いい加減手が痛

くなってきていた…。もしかしたら血が出ているかもしれない。

「そういえばまだ最初の質問に答えてないですよね?」

 そう言うと浩行の指が体育館に向けられる。

「なぜ‘ここ’に戻ってきたんです?」

「………」

 言葉が出なかった。浩行の言ったことが理解できなかったわけじゃない。むし

ろその逆だ。

「この質問は無意味ではないですよ、先輩」

 薄笑いを浮かべながら言い寄ってくる。足を後ろにのばすことができない。

「答えてみろよ!!!」

 怒号の声が響き渡るが、俺の頭は何も感じとっていない。

 止まった…。

 錆付いても決して止まることはなかった。たった今壊されたのだ。無理に動き

つづけて壊れる寸前だったモノを、奴は一瞬ですべてを破壊したのだ…。

「あれから何が起きたから知らないけどなぁ。見損なったぞ!!!」

 くる…

「やめてっ!!!」

 浩行の拳が俺の顔に襲いかかろうとしたそのとき、二人の間に誰かが立ちはだ

かった。

「浩行君、なんでこんなことするの!?」

 目の前に立っていたのは月奈だった。恐怖のせいか、足がガタガタと震えてい

る。

「月…奈?」

 やっとのおもいで声を出す俺。

「ひどいよ…。浩行君、酷すぎるよ…」

 月奈は声も震えていた。一歩間違えれば強烈な一撃をくらっていただろう。

「ふんっ」

 浩行は去っていった。

 結局何も言い返せなかった。

「健二先輩、大丈夫ですか? 浩行君の言うことなんて気にしなくていいですからね」

「…」

 遠くから歓声が上がっている。その歓声は俺を非難する罵声の声に聞こえた…。 




 心の震えはいつの間にか体にまで伝わっていた………




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