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気まぐれバス

作者: 木の実
掲載日:2011/01/09

ふと、隣を見る。


今はバスの中。一番後ろの席に座っている。窓側には20代前半のスーツを着た男性が眠っている。最初は混んでいたけれど、田舎に近づくにつれて、人がどんどん降りていき、今では5、6人しか乗っていない。


もう一度、見る。


今、私を見る人はいない。みんな私より前にいるからだ。隣のスーツの男性を除いては。


別に欲求不満なわけじゃない。

ただの好奇心。

ただの疑問。


もし、私がこの男性にキスしたらどうなるだろう。


頭がふわふわしてきた。

もう全てがどうでもいい。


身体を静かに寄せる。

ゆっくり顔を近づける。

すやすや、という効果音が似合うような。

心地良さそうな寝顔。

ああ、引き寄せられる。


そっと。

彼の唇と私の唇を合わせる。

ほんの、2秒。

息を止めて、目を閉じる。

離したとき、まだ男性は眠っていた。


物足りない。

物足りない。

気付いて。

私を感じて。


今度は強引に、唇をつける。

さすがに、男性は目が覚めた。

驚いた表情。

当たり前だ。

セーラー服を着た女子高生がキスをしているのだ。

しかも、見たことのない人間。

顔を背けようとする彼を。

なぜだか、引き留めるように。

私は顔に両手を添えて、深く唇を合わせ続ける。

最初は押し返すように私の肩を握っていた男性も、だんだん力が抜けて、腰に手を回す。


一方的だったものが、お互いを求め合うように。

口を開いて、舌を絡ませる。

甘い吐息。

ただひたすら、相手を感じる。


満たされてゆく。


身体の奥から熱が溢れ出す。

ああ、生きている。

活き活きと、生き生きと、身体が疼く。

それを確認して、安心する。


もう一度軽く唇を合わせて、右手でピンポンを押す。

運転手の気だるい声。


私は彼から離れる。

彼は私を見る。

私も彼を見る。

深々と頭を下げて。


もう、会うことはないでしょう。

心の中でそう伝える。


なぜなら、これは気まぐれ。

このバスは絶対乗ることのない方向。

降りたあとは、反対方向のバスに乗るまでだ。


何事もなかったかのように。

私は席を立つ。

まだ、素っ頓狂な顔をしている彼を乗せて。


バスは、私の知らない場所へと走りつづける。



バスの中って、他人がいっぱいいて、なんだかふわふわします。

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