表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話 かわいい笑顔

かわいい笑顔

「美奈、次の授業移動だよ?」


 4時間目が終わり、がやがやとしているクラスで、栞里は私に言った。


「ごめんごめん、ちょっとウトウトしてた。昨日寝るの遅くって」

「古典だからってあんまり寝すぎると、成績に響くよ〜」


と彼女が言う。


 重い体を起こし携帯を見ると、栞里から1枚の写真が送られてきている。

 どうやら、消されかけていた4時間目の板書の写真を、私宛に送ってくれたらしい。


 席から立ち上がり、古典の教科書、ノート、単語帳を机のなかにしまう。


 次の化学の準備をし、席を立つ。

 教室を出ると、他の生徒たちで廊下が騒がしい。


「今日、指名されるかな」と私が言うと、

「大丈夫だよ。もし指名されたら私のノート見せたげる」


と、栞里が予習したのであろう、化学の公式などがまとめられたノートを私に見せてくれた。


 私と栞里は中学の時からの友達だ。きっかけは、私が栞里のいる中学に転校したことだった。

 転校初日の昼休み、教室の隅っこで1人で本を読んでいると、栞里が声をかけてくれた。

 彼女は私の手を取り「学校、案内したげる」といってここは理科室だ〜とか、ここは家庭科室だ〜とか、嬉しそうに話してくれた。



 移動教室に着くと、席に座る。栞里は私の前の席だ。


 一宮栞里、髪を肩よりうえで切り揃え、右耳付近にかわいらしいヘアピンをしている。

 彼女は席に着くと、となりの女子とどうやら話しているようだ。

 後ろから彼女の笑顔は見えないが、白い肌にエクボができている。どれだけ聞いても耳が痛くなることはない、かわいらしい笑い声が聞こえる。



 私は栞里が好きだ。いつからかは分からないが、気づいた時には栞里のことをずっと目で追っていた。

 声を掛けるときは緊張するし、少し手が触れるとドキッとしてしまう。

 寝ているところを起こされてしまった、つい5分前も、本当は目の前に彼女の顔があり、ドキドキしていた。


 だけどこの気持ちは、彼女には伝えられない。伝えてしまったら、これまでの関係が壊れてしまう。1番隣で栞里のことをずっと見ていたいから、関係を壊すなんてこと、ありえない。


 廊下にいた生徒たちが駆け込んで教室に入ってきた。どうやら先生が来たようだ。

 廊下の騒がしさをかき消すように、チャイムが響いた。




 放課後、私は栞里の家にいた。家で1人でやっていても、なかなか進まないから、一緒に課題を終わらせよう、と彼女に頼んだ。


「栞里〜これどうやるの」

「うん?」


という会話を何回しただろうか。

 栞里は、私に教えるためにしゃべっている時間が長いはずなのに、いつの間にか、彼女のノートは閉じられていた。


「ちょっと、休憩する?」


と頭を抱えていた私を見て、栞里が言った。

 ちょっと待っててと言い、部屋を出ていくと、お茶が入ったグラスと、お菓子を持ってきてくれた。

 お菓子を食べながら、学校でのことを話していると、


「ねぇ、美奈って好きな人いる?」


と栞里が聞いてきた。


 ドキッとした。いつも栞里と話すときの緊張や恥ずかしさとは違う、バレてしまうのではないか、という焦りからくるものだと分かった。


「うーん、今は居ないかな」


と言うと、


「私ね、好きな人、できちゃった」


と栞里が言った。


 その笑顔は私がまだ見たことのない、彼女の笑顔だった。

 おもしろいものを見て笑う彼女の笑顔ではなくて、幸せそうな「女の子」としての笑顔だった。


 言葉が出てこなかった。

 というより、言葉を出す方法を忘れてしまったみたいだった。

 何を言おう、何か言わなければ。おめでとうかな、変かな。じゃあ、「え、そうなの!!」って大げさに言って、喜んだほうが自然かな。


「美奈、大丈夫?」


と彼女の顔がのぞく。


「え、あ、そうなの! 知らなかった。おめでとう」


と、今出せる精一杯の声で、声が震えないように、私は言った。

ご覧いただき、ありがとうございました。よければコメント、よろしくお願いします。次の更新は1週間後程度を目指しております。早まることもありますが、ぜひ、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ