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紅時雨と砂の味  作者: 來夢
第二章:壊される魂と、偽りの家族

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第7話:浅葱の深淵 —— 焦がれた光への憎悪

NEXUS要塞、最深部の管制室。無数のモニターが青白く発光する中、浅葱は優雅にワイングラスを傾けていた。その背後には、影のように寄り添う一人の男――歪の姿がある。


「歪。御門の一行は、随分と威勢がいいようだね。……特にあの父親、朔夜の動き。視界が混濁しているはずだが、死に物狂いの執念だけは認めてあげよう」


浅葱の言葉に、歪は手元のタブレットへ無機質に視線を落としたまま答える。


「朔夜のバイタルサインは不安定です。紅時雨による精神汚染、および脳への過負荷……。計算上、彼が最深部まで正気を保てる確率は12%以下。しかし、それこそが浅葱様の望む『絶望のデータ』の収穫時かと」


「ふふ、君は相変わらず合理的だ」


浅葱はモニターに映る、血路を切り拓く朔夜の姿を忌々しそうに睨みつけた。彼が御門家を憎む理由は、単なる商売敵だからではない。


かつて、浅葱は御門の家系を「羨望」の眼差しで見つめる側の人間だった。 彼は御門の分家、あるいは没落した血筋の末裔。幼い頃、彼は本家の人間が振るう『紅時雨』の、美しくも禍々しい輝きを間近で見たことがある。それは、選ばれた者にしか許されない神の如き力だった。


(なぜ、私ではない?)


その問いが、数十年かけてドロドロとした憎悪に変質した。自分はどれだけ努力し、どれだけ知識を積み上げても、御門の「血」という理不尽な壁に阻まれる。「紅時雨」という特異な刀を、ただの古臭い骨董品だと言う者もいた。だが、浅葱だけは知っていた。あれは、世界を支配し得る純粋な暴力の結晶であることを。


「御門は、その力を持ちながら平穏を望んだ。……反吐が出る。豚に真珠、御門に紅時雨。……その不均衡を、私が正してやるんだよ」


浅葱の手が、震えるほどの怒りで拳に握られる。


「歪。ろみなの洗脳強度はどうなっている?」


「問題ありません。彼女の自我は深い霧の底です。現在は『ろみな』という人格を完全に遮断し、純粋な戦闘プログラムを上書きしています。彼女にとって、今や朔夜たちは『排除すべきバグ』に過ぎません」


「素晴らしい。……家族を繋ぐ強い愛があればあるほど、それが壊れた時の絶望は良質な燃料になる。朔夜が、最愛の妻にその目を貫かれ、絶叫する瞬間が楽しみだよ」


浅葱の目的は、「御門」という存在を自らの傘下に収め、ひれ伏させること。そして、その象徴である「紅時雨」を手にし、その力を自分の物にすること。ろみなの拉致も、子供たちの追跡も、すべては浅葱が描いた(いびつ)な復讐劇のシナリオに過ぎなかった。


管制室のモニターの中で、朔夜がふと立ち止まり、上方を――まるで浅葱と歪の視線に気づいたかのように――鋭く見据えた。


「……来い、御門朔夜。君たちが大切に守ってきた『家族』という幻想を、私がこの手で美しく解体してあげよう」


浅葱の冷笑が、無機質な室内で反響した。

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