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紅時雨と砂の味  作者: 來夢
第二章:壊される魂と、偽りの家族

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第6話:決戦の地、NEXUSへ

夜明け前の蒼い光が、岐阜の山々を微かに照らし始める。紅蓮庵の門前で、朔夜、桜猟、蹴鞠の三人は、深く頭を下げる女将・香に見送られ、静かに歩み出した。目的地は、地図上には存在しない鋼鉄の要塞——ハイテク企業を隠れ蓑にした地下拠点「NEXUS」だ。


「……親父、あれがNEXUSの入り口か?」


旧御門邸の敷地内。あの日の惨劇のまま時が止まった場所。桜猟が指差したのは、切り立った崖に同化した巨大な搬入口だった。一見するとただの採石場跡だが、流華から送られてきた座標は、ここが地下へと続く「喉元」であることを示している。


「ああ。ここからはもう、客扱いはされねえぞ。……行くぞ」


朔夜の合図とともに、三人は影となって動き出した。 要塞の警備は、人ではなく高度なセンサーと無人機(ドローン)が主だ。しかし、蹴鞠の超人的な跳躍と、桜猟の冷静な太刀筋が、増えていく警備網を音もなく無力化していく。


搬入用の大型エレベーターに潜り込み、深く、暗い地下へと降下していく。下降するにつれ、空気は冷たく、無機質な機械油の匂いへと変わっていった。


「……なんだか、嫌な感じがする」


蹴鞠が、不快そうに肩をすくめた。


「ママと同じ匂いがする。……けど、もっと冷たくて、気持ち悪い匂い…」


エレベーターが停止し、重厚な扉が左右に開く。目の前に広がっていたのは、見渡す限りの鋼鉄の廊下と、幾重にも重なる電子ロックの扉だった。NEXUSの要塞内部。ここは、人の情念が届かない、合理性だけが支配する迷宮だ。


(……砂が、騒ぎやがる)


朔夜は口の中に広がる「砂の味」が、一段と濃くなるのを感じていた。視界の端にノイズが走る。白濁した霧が、まるでこの要塞のシステムと共鳴するかのように、朔夜の神経を逆なでしてくる。


「侵入者を検知。……排除シークエンスを開始します」


廊下のスピーカーから、感情を欠いた合成音声が響き渡った。同時に、通路の天井や壁から無数のレーザー照準が赤い線を伸ばし、三人に向かって一斉に照射される。


「桜猟、蹴鞠! 俺から離れるな!」


朔夜が妖刀『紅時雨』を抜くと同時に、赤い閃光が通路を埋め尽くした。桜猟は二振りの刀を風車のように回転させて弾丸を弾き飛ばし、蹴鞠は壁を蹴って三次元的な軌道で自動機銃の砲塔を破壊していく。


その光景を、要塞最深部にある管制室で、一人の男が楽しげに見つめていた。 豪華な椅子に深く腰掛け、指先でモニターを弄ぶ男——浅葱だ。


「おやおや、野蛮な客人が到着したようだね」


浅葱の傍らには、まだ起動していない一体の女性型アンドロイドが置かれている。その顔立ちは、ろみなに酷似していた。浅葱はモニターに映る朔夜の苦しげな表情……時折、視界の濁りに顔を歪めるその様子を見て、満足げに口角を上げる。


「紅時雨の呪いか、あるいは家族愛という名の不治の病か。……どちらにせよ、朔夜。君がここまで辿り着く頃には、その目は何も映さなくなっているだろうね」


浅葱の手が、コンソールの一つのスイッチに触れた。


「さあ、始めようか。御門家という『古い幻想』を終わらせるための、合理的な処刑を」


要塞のさらに深い区画のシャッターが開き、無数の赤い光——アンドロイドたちの電子眼が、暗闇の中で一斉に灯った。 激しい爆鳴音とともに、三人の行く手に新たな「壁」が立ちふさがる。 ろみなを取り戻すための戦いは、まだ始まったばかりだった。

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