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紅時雨と砂の味  作者: 來夢
エピローグ

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16/16

砂の味の消える日

岐阜の山間に佇む『紅蓮庵』。

戦いから数ヶ月が過ぎ、庭の木々は穏やかな木漏れ日を落としていた。縁側では、朔夜が静かにお茶を啜り、その傍らには桜猟の親友であり恩人の流華が、ノートパソコンを膝に置いて座っている。


「……朔夜さん、もう一度言うけど、要塞のメインフレームをあそこまで物理破壊されると、データの復旧は絶望的。僕の努力が台無しだ」


流華はわざとらしく溜息をついた。だが、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。


「流華、お前は理屈ばっかバイ! 親父が勝ったっちゃから、それで良かろうもん!」


庭で竹光を振っていた桜猟が、汗を拭いながら快活に笑う。


「俺たちの勝ちバイ。……なあ、流華。今度は戦いじゃなくて、遊びに来いよ。苺飴、山ほど買うてやるけん!」


「ふん、糖分の過剰摂取は脳に悪いよ。……まあ、気が向いたらね」


流華はぶっきらぼうに返し、画面に視線を戻した。そこへ、奥の座敷から賑やかな声と共に、盆を持った女将の香と蹴鞠が現れる。


「さあ皆さん、手が止まっていますよ。せっかくの料理が冷めてしまいます」


香の落ち着いた一言で一同を促す。その眼差しは温かい。


「蹴鞠ちゃん、そんなに急がなくても、おかわりはたっぷり用意してありますからね」


「香さん、大好き! うち、これ食べるために修行頑張ったとよ!」


蹴鞠が弾むような足取りで料理を並べる。


「ふふ、良かったです。……朔夜さんも、そんなに難しい顔をしないでください。あなたが笑わないと、皆が安心できませんよ?」


香が優しく微笑み、朔夜の湯呑みに新しい茶を注いだ。


やがて、最後に台所から出てきたのは、少し照れくさそうに、けれどもしっかりとした足取りのろみなだった。


「……お待たせしました。お口に合うとええんやけど」


ろみなは朔夜の隣に腰を下ろした。その瞳には、かつての冷徹な光ではなく、家族を愛おしむ温かな光が宿っている。朔夜は懐から一粒の苺飴を取り出し、ゆっくりと彼女の口に運んだ。


「……甘いか?」


ろみなは飴を転がし、溢れる涙を拭いもせずに微笑んだ。


「……甘いて。すごく、甘いて、朔さん……。こんなに甘いもん、私、初めて食べた気がするわ……」


その言葉を聞いた瞬間、朔夜は二十年間の重荷を下ろし、心の奥底に隠していた自分を解き放った。張り詰めていた肩の力が抜け、故郷の言葉が自然と溢れ出す。


「……そうか。……よがったな。……みんな揃って、本当に、よがったっぺよ……」


砂の味は、もうしない。 バラバラだった家族が、一粒の飴の甘さの中で一つに溶け合い優しく包み込んでいた。


空はどこまでも高く、澄み渡っている。 御門家の新しい物語が、今、ここから始まっていった。


ーFinー

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