表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅時雨と砂の味  作者: 來夢
第二章:壊される魂と、偽りの家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/16

第10話:違和感の正体

激闘は、すでに十分を超えていた。広場には数体のアンドロイドが残骸となって転がっているが、残された個体は依然としてその鋭さを失っていない。対して、人間である三人の疲労は色濃く、桜猟の太刀筋には僅かな乱れが生じ始めていた。


「ハァ……ハァ……。親父、こいつら……なんか変ばい……」


桜猟が、肩で息をしながら呟く。


「刀を合わせるたびに……なんだか、自分と戦ってるみたいな……嫌な感じがするっちゃん」


その言葉に、朔夜は己が抱いていた疑念を確信へと変えた。先ほどから自分の『紅時雨』と打ち合っている一体のアンドロイド。その重心の移動。一瞬の溜め。そして、斬撃を放った直後に生じる、わずかな「引き」の癖。


(……間違いない。これは、機械が偶然生み出した動きじゃない)


朔夜は、かつて自宅の稽古場で、あるいは共に汗を流した山での修行で、幾度となく目にした「それ」を思い出していた。ろみなが好んで使っていた、流麗でありながら力強い剣筋。 蹴鞠が幼い頃から真似ていた、重心を一瞬で切り替える足捌き。


「桜猟、蹴鞠……!今すぐ距離を取れ!こいつらにこれ以上、俺たちの技をさらすな!」


朔夜の怒号に近い叫びに、二人が戸惑いを見せる。


「どういうことっちゃ、親父!?」


「こいつら……浅葱の作ったこのガラクタどもは……ろみなの、お前達の母の『戦闘データ』をそのまま詰め込まれてやがるんだ!」


「……え……?」


蹴鞠の声が震えた。


「ママの……動き? ……じゃあ、うちは今……ママを蹴り飛ばそうとしとったと……?」


その瞬間、一体のアンドロイドが、ろみなが最も得意としていた奥義――『十六夜』に酷似した軌道で、朔夜の懐に潜り込んだ。目にも止まらぬ神速の突き。 朔夜は紙一重でそれをかわしたが、頬に熱い感触が走った。


「……浅葱ィィッ!!」


朔夜が天井の監視カメラに向かって、血を吐くような咆哮を上げる。最愛の妻の技術、魂とも言えるその武の記憶を奪い、無機質な鉄の塊へと流し込む。それがどれほど彼女の尊厳を傷つけることか。そして、そのコピーに家族を殺させようという歪んだ悪意。


「お前だけは……お前だけは、人間の死に方じゃ済ませねえぞ……ッ!」


口の中の砂が、鉄の味と混ざり合い、真っ赤な毒となって溢れ出す。朔夜の怒りに呼応するように、紅時雨が禍々しい光を放ち、周囲の空気が重圧で軋んだ。


すると、広場を支配していた機械的な警告音が止まり、静寂が訪れた。 アンドロイドたちが一斉に左右に分かれ、跪くように姿勢を低くする。


広場の最奥。そこにある巨大な重厚な扉が、これまでの電子音とは違う、不気味なほどの静けさで左右に開いた。


その暗闇の奥から、一歩、また一歩と。アンドロイドたちの足音とは違う、確かな「生」を感じさせる、しかしあまりにも冷え切った足音が聞こえてくる。


「……来んな。……違う……っ!」


桜猟が祈るように叫ぶ。 だが、その願いは届かない。


暗闇の中からゆっくりと姿を現したのは、紅い瞳を明滅させ、大鎌『月蝕』を静かに引きずる、三人が何よりも愛し、そして今、最も恐れていた「彼女」の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ