第10話:違和感の正体
激闘は、すでに十分を超えていた。広場には数体のアンドロイドが残骸となって転がっているが、残された個体は依然としてその鋭さを失っていない。対して、人間である三人の疲労は色濃く、桜猟の太刀筋には僅かな乱れが生じ始めていた。
「ハァ……ハァ……。親父、こいつら……なんか変ばい……」
桜猟が、肩で息をしながら呟く。
「刀を合わせるたびに……なんだか、自分と戦ってるみたいな……嫌な感じがするっちゃん」
その言葉に、朔夜は己が抱いていた疑念を確信へと変えた。先ほどから自分の『紅時雨』と打ち合っている一体のアンドロイド。その重心の移動。一瞬の溜め。そして、斬撃を放った直後に生じる、わずかな「引き」の癖。
(……間違いない。これは、機械が偶然生み出した動きじゃない)
朔夜は、かつて自宅の稽古場で、あるいは共に汗を流した山での修行で、幾度となく目にした「それ」を思い出していた。ろみなが好んで使っていた、流麗でありながら力強い剣筋。 蹴鞠が幼い頃から真似ていた、重心を一瞬で切り替える足捌き。
「桜猟、蹴鞠……!今すぐ距離を取れ!こいつらにこれ以上、俺たちの技をさらすな!」
朔夜の怒号に近い叫びに、二人が戸惑いを見せる。
「どういうことっちゃ、親父!?」
「こいつら……浅葱の作ったこのガラクタどもは……ろみなの、お前達の母の『戦闘データ』をそのまま詰め込まれてやがるんだ!」
「……え……?」
蹴鞠の声が震えた。
「ママの……動き? ……じゃあ、うちは今……ママを蹴り飛ばそうとしとったと……?」
その瞬間、一体のアンドロイドが、ろみなが最も得意としていた奥義――『十六夜』に酷似した軌道で、朔夜の懐に潜り込んだ。目にも止まらぬ神速の突き。 朔夜は紙一重でそれをかわしたが、頬に熱い感触が走った。
「……浅葱ィィッ!!」
朔夜が天井の監視カメラに向かって、血を吐くような咆哮を上げる。最愛の妻の技術、魂とも言えるその武の記憶を奪い、無機質な鉄の塊へと流し込む。それがどれほど彼女の尊厳を傷つけることか。そして、そのコピーに家族を殺させようという歪んだ悪意。
「お前だけは……お前だけは、人間の死に方じゃ済ませねえぞ……ッ!」
口の中の砂が、鉄の味と混ざり合い、真っ赤な毒となって溢れ出す。朔夜の怒りに呼応するように、紅時雨が禍々しい光を放ち、周囲の空気が重圧で軋んだ。
すると、広場を支配していた機械的な警告音が止まり、静寂が訪れた。 アンドロイドたちが一斉に左右に分かれ、跪くように姿勢を低くする。
広場の最奥。そこにある巨大な重厚な扉が、これまでの電子音とは違う、不気味なほどの静けさで左右に開いた。
その暗闇の奥から、一歩、また一歩と。アンドロイドたちの足音とは違う、確かな「生」を感じさせる、しかしあまりにも冷え切った足音が聞こえてくる。
「……来んな。……違う……っ!」
桜猟が祈るように叫ぶ。 だが、その願いは届かない。
暗闇の中からゆっくりと姿を現したのは、紅い瞳を明滅させ、大鎌『月蝕』を静かに引きずる、三人が何よりも愛し、そして今、最も恐れていた「彼女」の姿だった。




