第9話:鋼鉄の残影
NEXUS要塞の第9区画。直径五十メートルを超える円形広場は、今や火花と硝煙が渦巻く殺戮の場と化していた。
三人を包囲するのは、黒いセラミック装甲を纏った二十体以上のアンドロイド。それらは一様に、十字型の赤い電子眼を無機質に明滅させ、静止したまま次の命令を待っていた。
「……父ちゃん、こいつら、さっきのドローンとは訳が違う……」
桜猟が『朝梅』と『夜桜』を構え直し、荒い息を吐く。
「ああ。……一体一体が、一流の剣士に匹敵する間合いの取り方をしてやがる。気を引き締めろ」
朔夜の言葉が終わるか終わらないかのうちに、一体のアンドロイドが爆発的な踏み込みを見せた。
ドォォォォン!
鋼鉄の床が踏み抜かれ、一筋の黒い影が桜猟の視界を横切る。
「速っ……!?」
桜猟は反射的に刀を交差させたが、激突の瞬間、全身の骨が軋むような衝撃に襲われた。アンドロイドが振るう特殊合金の太刀。それは、ろみなが打つ刀の鋭さと、機械特有の圧倒的な質量を併せ持っていた。
「くっ……重か……っ!」
桜猟が押し戻される。そこへ、別の二体が左右から同時に襲いかかった。一人が低い姿勢から足を払い、もう一人が空中で身体を捻りながら、脳天を割り振る斬撃を放つ。
「桜猟、下がってろ!」
蹴鞠が壁を蹴り、弾丸のような速度で割って入る。彼女の鋭い回し蹴りがアンドロイドの側頭部に直撃したが、手応えは最悪だった。
「嘘……!? 直撃したとに、首一つ揺れん……っ!」
アンドロイドは表情一つ変えず、空中でバランスを崩した蹴鞠の首筋に、冷徹な手刀を突き出した。
「しまっ……!」
絶体絶命の瞬間、朔夜の『紅時雨』が赤い閃光を放ち、アンドロイドの腕を肘から先まで斬り飛ばした。
「蹴鞠、深追いするな! こいつら、俺たちの動きを完全に予測してやがる!」
三人は広場の中央で背中を合わせる。周囲のアンドロイドたちは、損傷した個体を後方に下げ、新たな個体が隙間なくその位置を埋める。その無機質で合理的な連携は、もはや恐怖を通り越して不気味ですらあった。
「……個体の戦闘効率、維持。第5フェーズへ移行」
加工された合成音声が室内に響く。直後、アンドロイドたちが一斉に刀を構え直した。その構え——切っ先を僅かに下げ、右足を半歩引いた独特のフォームに、朔夜の心臓が激しく脈打った。
(……この構えは、まさか……)
休む間もなく、第二波が押し寄せる。今度は連携の精度がさらに跳ね上がっていた。三位一体の攻撃。一人が囮となり、二人が視角の外から死神の鎌のような鋭さで斬り込んでくる。桜猟の頬を刃がかすめ、蹴鞠の衣装が切り裂かれる。
「クソッ、きりがなかバイ……っ! 叩いても、斬っても、すぐに次が来るっちゃん!」
桜猟が叫ぶ。朔夜は、口の中に広がる「砂の味」に耐えながら、紅時雨から漏れ出す赤い霧を全身に纏わせた。白濁する視界の向こうで、アンドロイドたちの赤い電子眼が、まるで自分たちを嘲笑うかのように整然と並んでいる。
一体、また一体と斬り伏せるたびに、朔夜の胸に広がるのは、勝利への手応えではなく、底知れぬ「違和感」だった。




