友情はピンバッジから
「なぁ後藤。金子君って金持ちだよな」
「奇遇だな牧田、それ俺も思ってた。」
それは、小学校の給食中に起こった話。二人の間で話題になっているのは、まだ馴染みのない転校生の金子への興味だった。
彼はひとりで黙々と給食を食べている。
牧田は分析するように口元に手を当てながら言った。
「だって、バナナの端っこ残してる……」
「そうだな。俺だったら残さないで食うもん」
今日は海老フライの日。二人はバリバリと尻尾を食べながら『これも栄養だもんな』と談笑をしながら、金子の皿を見た。
……ない。海老フライの尻尾が!
「金子君は、ビンボーなのか?」
「そうだよな。金持ちなら残すもん」
二人の中の常識が揺らいでいる。海老フライの尻尾を食べるけど、バナナの端っこは残す。お金持ちは皆そうなのか。牧田と後藤がヒソヒソ話していると、もっとビックリすることが起こった。
「金子君、お代わりした!」
「ほんとだ。しかもひじき!」
二人にとって、ひじきは『お爺ちゃんの食べ物』という認識であった。だから、金子へのイメージは【年金暮らしのお爺ちゃん】となっていく。
どんどんおかしな方向へと話が進んでいくので、近くで話を聞いていた女子が「ふふ」と牛乳を噴きかけた。
当然、その話は金子にも渡っていて、居づらくなった彼はその場を去ろうとした。しかし運悪く金子の足元にバナナの皮があって、勢いよくコケてしまう。
心配した生徒が複数駆けつけた。それを見ていた牧田と後藤は『骨折だ』と言って笑った。さすがにその会話は面白くなかったようで、聞き耳を立てていた女子が怒る。
金子は、
「いやいいよ。興味を持ってくれたんだろ? ボクはお金持ちじゃないし、お金に困ってもいない普通の小学生だよ。趣味はピンバッジ集め」
そう言って牧田と後藤に近づいて行った。二人は金子の『ピンバッジ集め』が気になり、その情報を聞いた。
特に後藤は金子の筆箱についているピンバッジに大変興味を示した。
「へぇ〜、ギターにスニーカー、ピンバッジってめちゃくちゃカッケーじゃん!」
「うん、これは特にお気に入り。海外サイトで買ったんだ」
海外という言葉を聞いて、牧田と後藤は、「やっぱりお金持ち?」と首を傾げる。金子は首を振って家の制度を語る。
「ボクの家にはお小遣い制は無くて、成績と地域ボランティアを両立できたら、月に一度だけピンバッジを買ってもらえるんだ」
牧田はこのクラスの中で成績がいいほうだ。転校したての金子にポジションを奪われるかもしれない焦りと羨ましさで内心嫉妬を覚えた。
後藤はというと、金子を「すげぇ人格者」と認め始めている。
「ぴ、ピンバッジならボクも持ってるよ!」
それは牧田の些細な足掻き。『僕だって負けてない』そう言いたいのであろう。しかし彼が見せたのは、100均で買ったミニトマトのピンバッジ。
「トマトってお前www」
クラスの大半が笑った。片や海外のギターやスニーカー柄。片や100均のミニトマト柄。勝ち目など、端からなかったのだ。
「くそー!」
牧田は悔しくてたまらなかった。自分の優等生ポジションも取られてしまう。こんな気取ったやつに。
そう考えていたら、金子がミニトマト柄のピンバッジを見ながら、
「意外と100均のって種類や棚替えが多くて揃えられないんだよ。ボクのと交換してほしいな」
と、牧田に言った。
「い、良いの? 100均のと外国のだよ!?」
「良いよ。好きなの選んで」
自分の妬みなど気付いていない。牧田は、悔しがりながらも、ワクワクしてスニーカーのピンバッジを選んだ。
後藤は、「俺も欲しいなー」と口をすぼめた。金子はそんな彼にピンバッジの売っているサイトを勧めていた。
その日から、金子は牧田と後藤とよく話すようになった。時に同じボランティアに参加したり、ピンバッジを集めたり交換したり。夏休みの宿題を一緒にしたり。
三人は、とても充実した学生生活を送れたという。それは、中学生になっても続く。友情の数だけ増えるピンバッジ。それは彼らの青春の証明だ。
おしまい
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