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四郎勝頼の天下取りは東濃より始まる  作者: カバタ山
第二章:迷惑な隣人

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逆転の連鎖

 平井 頼母(ひらい たのも)の討ち死に。これにより美濃(みの)平井家の軍は総崩れとなり、ついには降伏をする。父親の平井 光行(ひらい みつゆき)は、進退窮まったのか降伏の直前に自害をした。


 こうして御嵩(みたけ)城は開城をする。


「誰もが生き残りたいし、勝ち戦に便乗したい。俺がこんな危うい戦を選ばなければ、平井親子も裏切らなかったろうに。少し責任を感じるな」


「お言葉ですが四郎様。全ての元凶はあの木下 藤吉郎です。平井親子もその犠牲者。ですので、四郎様が今する事は、この難局をどう乗り切るかでしょう。戦での勝利。これが平井親子への弔いへとなります」


「良い事を言うな利三(としみつ)は。確かにその通りだ。本命の岩村遠山(いわむらとおやま)家を何とかしなければ、この戦に勝利した意味も無くなるか」


「して、これからどのようにされるのですか?」


「取り敢えずは軍の再編だな。降伏兵を軍勢に組み込む必要がある。その後は美濃平井家が管理していた小原(おばら)城を攻めるとするか。そうそう、信濃木曽(しなのきそ)家と鶴ヶ城の馬場(ばば)殿に『裏切り者は始末した。もうすぐ鶴ヶ城に援軍に向かう』と伝令を出してくれ」


「はて? 鶴ヶ城は分かりますが、何ゆえ信濃木曽家にまで」


「信濃木曽家を動かす最後の一手だな。さっきも言ったろう。『誰もが勝ち戦に便乗したい』と」


「理解しました。早速手配致します」  

  

 俺はまだ、信濃木曽家の援軍がやって来たとの報告を受けていない。


 確かに軍の編成には時間が掛かるだろう。兵自体もすぐに集まる訳ではない。物資も揃えなければならない。一日や二日で、戦をする準備が整う筈がないのは当然の話だ。


 しかしながら遠山六頭が鶴ヶ城を攻めている今、何の反応も無いのは、援軍に躊躇していると見た方が良い。大金を弾み、信濃木曽家当主の正室  真理にも手回しをしている。普段から信濃木曽家の産物を購入し、両家の付き合いはある。これで軍を動かさないとすれば理由はただ一つ。高遠諏訪家がこの戦に負けると考えられているのが最も妥当だ。


 誰だって命は惜しい。それは将も兵も。幾ら俺が甲斐武田家 武田 晴信の息子だとしても、命をなげうってまで救う価値があるかどうか。それに俺は甲斐から左遷された身だ。見捨てた所で、甲斐武田家からの処罰は軽いと思われていても不思議ではない。


 ──そんなに大事な子供なら、最初から東濃に左遷するな。


 こう言われてしまえば、何も言えなくなる。


 そんな危惧が当たってしまったようだ。今一度俺が別動隊として動いたのが功を奏した形となる。木下 藤吉郎が描いた絵図には、信濃木曽家の動向も考慮していたのが今ようやく浮き彫りとなった。


 だからこその最後の一手。これで白が黒へと変わる。


「木下 藤吉郎よ、この世には連鎖という言葉があってな。それをこれから見せてやろう。さしずめ『ぱよえ~ん』という所かな」


「四郎様、今何か言われましたか?」


「いや何にも」


 危ない。危ない。連鎖の言葉でつい往年の落ちゲーを思い出してしまったようだ。この時代にやって来て一〇年以上経っているというのに、意外と覚えているものだと驚いてしまう。 


「さあて、ここからは忙しくなるぞ。何せ戦が続くからな。しっかりと準備をしておけ」


 たかが一戦場の一勝利。高遠諏訪家を中心として起きた戦でも、最も小規模な戦い。俺が率いた兵の数はたったの一〇〇。それが戦いを経て、七〇程度にまで目減りした。


 これが逆転の始まりとなるのだから、戦はやはり怖い。


 神は細部に宿る。明らかに誤用ではあるが、今回ばかりはこの言葉がしっくりくるような気がした。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 ここからの俺達は快進撃が続いたのは言うまでもない。


 連鎖その一 小原城。平井親子の討ち死にを城主に伝えた所、あっさりと降伏をする。御嵩城を出発した時には四〇〇だった兵の数が、一〇〇〇にまで膨れ上がった。


 城主を任されていた将も陪臣とは言え、元は高遠諏訪家の家臣である。平井親子がこの世に居ない今、どんな身の振り方をすれば良いのか悩んでいたのだろう。そんな心の隙を突くように命は取らない、高遠諏訪家に戻って来れば歓迎をするとと約束したからか、一戦も交えずに戦いは終了した。


 連鎖その二 鶴ヶ城。救援に向かった俺達は、敢えて急がずにゆっくりと進軍を行う。しかも自分達の存在を敵味方に知らせるように太鼓を叩き、法螺貝を吹きながら。


 それに呼応するかのように、遠山の連中は鶴ヶ城との合流を邪魔する形で俺達を待ち構えてくれる。鶴ヶ城には押さえの兵を残し、必勝の構えで陣を張って一捻りに潰さんといきり立つ。兵の数は三〇〇〇を超えていただろう。


 この時点で俺は勝ちが見えたとニヤリとする。強襲を行っていれば、また違った可能性もあったろうにと思いながら。


 俺達の派手な行軍は手品と同じである。本命に注意を向けさせないよう、自身が囮となって陽動の役割に徹した。遠山六頭も馬鹿ではない。信濃木曽家の行動には警戒をしているだろうし、特に木曾地区と隣接する苗木城は備えをしている筈。だが待てど暮らせど濃木曽家の軍勢は東濃に姿を現さない。そうかと思うと今度は、俺という因縁の敵が何の緊張感も無く不用意に近づいてくる。しかも兵の数は、遠山六頭の三分の一程度と数は少ない。


 きっと遠山の連中は、カモがネギを背負ってやって来たとほくそ笑んだ事だろう。信濃木曽家の軍勢がやってくる前に全てを決めてしまえば良いと、考えを変える程に。高遠 四郎の死。これで戦には片が付くと。


 そんな邪な考えが透けて見える中、両軍は激突する。


 幾ら敵の数が上回り士気が高いとしても、当家の軍勢が簡単に崩れる事はない。何せ今俺が率いている者達は、一度は裏切った元美濃平井家の将兵が殆どだ。その汚名をそそごうと躍起になっているのだから、少々の不利を物ともしない強者ばかりである。


 加えてこの戦を勝利で飾れば、特別に褒美を出すとも約束をした。更には守りさえしっかりと固めてさえいれば、勝利は転がり込んでくると発破も掛ける。


 その甲斐があってか遠山六頭の軍勢は攻めあぐね、勢いに任せた突撃から数の有利を生かした半包囲へ戦法を変更しようとする。


 しようとするが、それは起こらなかった。


「ようやく来たか。ヒーローは遅れて登場する。そんな感じだな」


 結論から言えば、信濃木曽家の援軍が遠山六頭の軍勢の後背を突いた。俺のお膳立てに勝ち筋を見出し、参戦を決めてくれたのだろう。信濃木曽家に派遣した百戦錬磨の室住 虎光(もろずみ とらみつ)様なら、俺の意図を理解してくれると信じていた。


 物見の報告では数は五〇〇程度と小規模ながらも、機動力を重視した騎馬隊のみの部隊である。馬の産地である木曽地区の特性を生かした割り切った編成と言えよう。まあ俺も苗木遠山家の領地を突っ切って瑞浪地区の鶴ヶ城までやって来いと無茶な要求をしたのだから、想定よりも兵が少ないのは仕方あるまい。


 とは言え、この局面を好機と見た人物が参戦を果たした事で、戦は呆気なく終局を迎える。


 その人物とは、鶴ヶ城の守備を任せていた馬場 信春(ばば のぶはる)殿であった。城門を開いて突撃を敢行。遠山六頭が城の押さえに残していた兵も本隊の混乱によって浮足立っていたのか鎧袖一触され、散り散りとなる。勢いそのままに遠山六頭の軍勢本隊にも殴り掛かった。


 勿論これを見て黙っている俺達ではない。この波に乗り遅れてはならないと、予備兵力を残さない全軍での攻撃を開始する。結果、遠山六頭の軍勢は崩壊し、負けが確定。俺達はこの難局を何とか乗り切った。木曽 義昌(きそ よしまさ)殿や室住 虎光(もろずみ とらみつ)様、馬場 信春殿とは事前の打ち合わせを一切行っていなかったにも関わらず、こうも見事な連携となったのは流石と言うしかない。

 

 連鎖その三 明知(あけち)城。ここでは予想外の出来事が起きていた。多分岩村遠山家が働き掛けていたのだろう。三河(みかわ)国の(すずき)家が国境を越えて兵五〇〇で攻めていた。遠山六頭が鶴ヶ城攻めに集中するために、明知城の動きを封じる策である。三河国鱸家の存在は完全に盲点であったため、岩村城に押さえの兵を残して急いで駆け付けると、あっさりと兵を退く。


 この機に乗じて三河国足助も占領したい所だが、この地は駿河今川家の勢力圏のために諦めざるを得なかった。


 連鎖その四 尾張(おわり)品野(しなの)城。ここもあっさりとしたものだった。


 当家の秋山(あきやま)親子、小里 光忠(おり みつただ)殿が率いる軍勢と織田弾正忠おだだんじょうのじょう家の軍勢が対峙していた国境付近へ俺達の軍勢と信濃木曽家の軍勢が駆け付けた所、迷わず軍勢を回れ右して城へと撤退する。


 ここで粘らなければ、織田弾正忠家が本命とする尾張国岩倉(いわくら)城を巡る戦いで不利になるのではと思いもしたが、その解答は翌日に伝令が運んできてくれた。


 連鎖その五 尾張国岩倉城。軍勢を進めるまでもなく終了する。


 美濃(みの)国国境まで進出していた織田弾正忠家の軍勢六〇〇が退いたその日、当主 織田 信長殿が率いる軍勢も退いたという話であった。


 織田伊勢守(おだいせのかみ)家の軍勢二〇〇〇と織田弾正忠家の軍勢二五〇〇は、共に決定力を欠いたまま睨み合いを続けていただけに、参戦できず残念である。


「口惜しいですな。四郎様の軍勢が駆け付けていれば勝てたものを。私の率いた隊では、敵が貝のように閉じ篭ると決定力に欠けましたので……」


「そう言うな。織田伊勢守家の軍勢を側面から突く別動隊を光秀が蹴散らしてくれたから、膠着状態にまで持っていけのだろう? 十分な手柄だぞ」 


 尾張国岩倉城を巡る戦いは、兵の数こそ両軍共に約三〇〇〇と拮抗していた。やはり国外に敵を抱えている織田弾正忠家は、兵の全てを織田伊勢守家との戦いに回せなかったのだろう。なるほど。木下 藤吉郎が当家に中立を保って欲しいと言ってきた理由が良く分かる。


 ただ兵の数では拮抗してはいても、戦い自体は織田弾正忠家が押していたという話だ。その理由が明智 光秀(あけち みつひで)が蹴散らした別動隊一〇〇〇の存在である。この部隊が織田伊勢守家の軍勢を側面から襲い、崩壊一歩手前にまで追い込んでいたという。


「兵器は万能じゃないからな。あの弓は敵が攻め手の時は有効だが、守りに入るとどうしてもな。それに浮野の戦いは手伝い戦だ。依頼分は果たしたのだから十分じゃないか」


「ですが戦に勝利できなかったとして、当主の織田 信賢(おだ のぶかた)様は当家に支払う報酬を減額してきたのです。我等が駆け付けなければ戦には負けていたというのに。それもまた口惜しくあります」


「ははっ。良くある話だな。まあ良いじゃないか。織田伊勢守家は織田弾正忠家への盾。そう考えれば、腹も立たないものさ。それに当家が織田弾正忠家と本格的に戦う時には、援軍をお願いしなければならないからな。貸しにしておく位で丁度良いさ」


「その代わり、家臣の一人 蜂須賀 正勝(はちすか まさかつ)殿と交流を持てました。これが一番の成果かもしれません。織田伊勢守家に愛想を尽かした時は、高遠諏訪家を頼るよう誘いをかけておきましたぞ」


「流石だ。今回の戦で当家は領地も広がり、また人手不足になるからな。これはと思う人物がいたら、どんどん声掛けを頼むぞ」


「そんな蜂須賀殿から、此度幼子を預かりました。何でも出雲尼子(いずもあまご)家の一族との話です。蜂須賀殿が言うには、保護をしたは良いが次また織田弾正忠家が攻めてきたら、死なせてしまうかもしれないとの事で」


「問題無い。当家に遊学中の西堂丸(せいどうまる)や保護をしている菊千代(きくちよ)の良い友になるさ。こちらで預かる。……と、そろそろ岩村(いわむら)城が見えてきたか」


「此度の戦の最も美味しい所ですな。後は遠山の城を全て落とすのみ。溜まった鬱憤はここで晴らしとうございます。ヒヒヒ……」


「程々にな」


 連鎖その六 遠山六頭領の城攻め。それも全て。散り散りとなった遠山の連中は最早烏合の衆だ。後は各個撃破していくだけで良い。楽な戦いと言えよう。


 木下 藤吉郎よ。敵の攻めを凌ぎ、連鎖でひっくり返す。これこそが落ちゲーの醍醐味だ。

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