表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

1日目ー2 行方不明者

 それから月瀬は、魔法少女に質問責めをしていた。それの概要が以下である。


Q:あなたの名前は?

A:ない。


Q:……変身前の名前は?

A:なにそれ?


Q:自分が何歳かわかる?

A:わかんない!


Q:家族の事とかも覚えてないの?

A:家族って何?


Q:どこから来たの? 家はどこかわかる?

A:遠いところ。あと家って何?


Q:遠いところについて何か覚えてる事とか……。

A:んー……ぼろぼろなとこ!


Q:そういえば、なんで倒れてたの?

A:ちょっと休もうと思って?


 質問を開始してから十分も経っていなかったが、月瀬が盛大に頭を抱えたのは言うまでもない。

 彼女の情報を引き出すのには役に立たない回答ばかりで、記憶喪失という単語でまとめるには動揺や落ち込みが無さすぎる。彼女がそこまで気にしない性格である可能性も存在するが。


「……目撃情報探してみるか……」


 こんな問答じゃどうにもならない事を確信した月瀬は自分のPCを起動させ、手頃なSNSの検索欄に『魔法少女』『コスプレ』『怪我』などの単語を入力してみた。

 ここ数日の投稿をさらっと確認したが、この子とは似てもつかないコスプレイヤーの発信やアニメ、ゲームの話題しかない。検索範囲を自宅周辺に絞ってみても同様だ。


 続いて、検索欄に『迷子』と入力してみる。こちらはロストしてしまったペットやぬいぐるみの情報ばかり。

 この子本当にどこから来たんだ――そんな疑問に頭を支配されかけた時、ある投稿が目に入った。


「『息子を探しています』? 一昨日から連絡つかず……十一歳……場所は……隣の市。電話番号は……警察署! 捜索願の受理番号もある。本物だ……!」


 どうやら、家出したまま帰ってこない小学生の目撃情報を求める投稿のようだ。投稿したのはその子の家族のようで、他の投稿からは強い動揺と後悔が読み取れる。釣りではなさそうだ。

 ただ一つそこそこ大きい問題がある。月瀬は無言で視線を魔法少女へ向けた。


 ――男の、子?


 昨日一緒に風呂に入ったが、魔法少女の胸にはわずかな膨らみがあったし、何と言っても生えていなかった。


 ――マジで? いやまさかな……。生えてなかったし……胸あったし……。ちっちゃかったけど……。


 勿論、変身したら性別が変わる系魔法少女という可能性もあるが、あまり考えたくはない。


「……あ、あなたって、男の子……だったりする?」

「おとこのこ? ……オス?」

「お、オス!? いやまぁあってるけど、言い方――」

「ん!」


 刹那。

 魔法少女が月瀬の手を掴み、己の胸に当てる。柔らかい感触がした。……ほんのちょっとだけ。

 月瀬の頭に、かつてクラスメイト達が着替えの最中にふざけて胸を揉み合っていたシーンがよぎる。まさか自分が揉む側に回る日が来るとは。

 固まってる月瀬をよそに、魔法少女が見上げる。真剣そうな顔つきで。


「ワタシ、メス……女。……もっとさわる?」

「いや、いい! 大丈夫! 胸触ってごめんね!?」


 魔法少女が月瀬の手を股ぐらに持っていこうとしたので、慌てて腕を引っ込める。

 いくら相手が同性であるとはいえ、流石にそこまでできない。昨日出会ったばかりなら尚更。

 昨日とは別のベクトルで大胆な少女に色んな意味で危機感を覚える。


 ――無防備すぎる……。拾ったのが(おんな)でよかった。男だったら性的に食われてたぞこの子。……いやそんな事無いか。


 昨日のスマホ殺害現場が頭をよぎったと共に、危機感が全部吹っ飛んでいく。そうだこの子は一般男性にヤられるほどヤワではない。むしろ殺り返すだろう。

 一方、魔法少女は不思議そうに首を傾げていたが、やがて、デスクトップを指差した。


「これなに?」

「あーっと……何かを調べたりするのに使う道具。今はあなたの目撃情報が無いか探してるの。まぁ、それっぽいもの全然ないけど……」

「なんで探してるの?」

「あなたが何者であるか知りたいからだよ。魔法使えるっぽいし別世界の人って言われても納得できるけど……中途半端に記憶喪失系プリ◯ュアかもしれないから……」

「ぷいきゃー?」

「不思議な力を使える正義の味方の事」

「正義の味方……? ワタシ、そうだよ!」


 ぴくり、と心の奥底に眠っていた幼心が反応した。それに気づかないふりをしつつ、月瀬は質問を重ねる。

 今欲しい情報はこの子が何者なのか――異世界産なのか、地球産変身ヒロインなのかだけでも――である事だ。


「……そうなの? じゃあ、それについて何か覚えてることとかある? 仲間とか、敵とか、魔法を使えるようになった理由とか……」

「りゆー……?」


 口元に指を当て、考え込む仕草をする魔法少女。

 一方で、月瀬の心の奥底から幼心がひっそりと顔を出す。

 いつの間にか彼女から目が離せなくなっていた。もし、彼女が地球出身の子であるのならば、それは幼き月瀬の願いを叶えられる存在が居るという証。

 なぜ一人で倒れていたのだろう。敵が居るとしたらどのような奴なのだろう。どうやって魔法を使えるようになったのだろう。


 この世界はアニメや漫画の世界ではない。魔法少女が居るのならSNSで目撃情報が出ているはずなのに見当たらない。だから、この子が地球出身とはとても思えない。


 本名不明。住所も不明。なんなら昨日は会話すら成立しなかった。相手は月瀬を傷つけてきた挙動不審我儘女王。今ここで下手を打ったら今度こそ殺されるかもしれない。

 なのに、どうして鼓動が止まらないのだろう。

 とうの昔に殺した心が、熱を帯びているのだろう。


「頼まれたの」

「頼まれたって……誰に?」

「わかんない。……世界ほろぼす、助ける、てつだえ……って」

「……滅ぼす? 助ける? ……世界が滅ぶからみんなを守れ……的な? ――えっじゃあこの地球危なくない!?」


 知らぬうちに月瀬は声を張り上げていた。この子の言葉に嘘が無いのであれば、この世界は間違いなく危機に瀕している。

 そして思い出す。今こそだいぶ治っているように見えるが、この子は最初会った時に酷い怪我を負っていた。


「ね、ねぇ。私と初めて会った時、怪我してたよね。それってさ、敵にやられたの?」

「とってもつよかったの」


 拾ったばかりの怪我だらけだった魔法少女と、今の彼女を重ねてみる。あれだけ酷い怪我を負っていたというのに、淡々と報告する様子は慣れから来るものなのだろうか。

 かつて月瀬がよく見ていた魔法少女ものアニメに出ていた年長キャラだって、ここまで淡々としていなかったのだが。


 恐怖を覚えつつも、確信しなおす。地球産だろうが異世界産だろうが、目の前の少女は自分の手には余る存在であるという事を。この子の言葉が本当であった場合は言わずもがな、嘘であった場合でも誰か信頼できそうな大人に預けるのが一番であるという事を。


 では誰に預けるべきか。

 現実を重視している方のぷち月瀬――いわゆる心の声――が真っ先に思いついたのは最寄りの交番に居る警察官だ。


 一方で、先ほど心の奥底に押し込めたばっかりなのに這い上がってきた方のぷち月瀬が甘い言葉を囁いてくる。

 『いいじゃんこのまま保護しようよ。異世界出身なら戸籍とかないでしょ』

 『漫画でさ、よくあるじゃん。この子が実はこっそり研究されてできた子で、何らかの理由があってそこから脱走。からの主人公が拾って事件に巻き込まれとかさぁ』

 『そもそも魔法少女拾っちゃった時点で敵とか来るんじゃない? 特等席で戦いが見れるかもよ』

 と。


 ――冗談じゃない!! 本物の迷子の情報見たばっかでしょ!!


 雑念を追い払う為、両手で両頬を勢いよく叩く。ぱぁん! と乾いた音が響いて、魔法少女が目を丸くさせた。

 頬のひりひりした痛みが心の自分を胸の奥に追いやる。思考が少しスッキリしたところで、ふと、かつての推しを思い出した。

 毎週日曜の朝、画面越しに応援していた魔法少女――リヴァーフィ・キャンディを。


 ――そういえばあの子、中学生だったな。……中学生活を満喫していたら、悪の組織が起こした事件に巻き込まれて、逃げようとしたら逃げ遅れてる小さな子見つけて、その子を庇って……。最終的に他の魔法少女に助けてもらった後、自分も魔法少女になったんだっけ。


 まだ痛みの続く頬から両手を離した月瀬は、魔法少女をじっと見つめる。

 彼女の身長は月瀬の肩よりちょっと上くらい。月瀬の身長が百七十一センチだから、この子は百五十五センチ前後のように見える。

 もしこの子が、変身前後で体格があまり変わらないタイプの魔法少女であるのなら……。


 ――普通に中学生……いや、小学校高学年で通じる大きさだなぁ……。


 大人から見れば変わらないように見えるが、子供から見た高校生と中学生は雲泥の差がある。小学生ともあれば尚更だ。

 自分はもう大人で、相手は守らなくてはいけない子供。たとえそれが魔法少女であったとしても、だ。


「……ねぇ、着替えたら交番行こうか。親御さん心配してるかもだし」

「なにそれ」

「警察って人の居る場所。警察は私よりずっと頼れる人で、親御さんってのは大事な人の事だよ。お父さんやお母さんって言ったほうがわかるかも」

「ぅー……?」


 魔法少女は、考えるような仕草を取ったものの、きょとんとした表情を浮かべていた。やはり、動揺していないだけで記憶喪失なのだろうか。

 もしこの子が地球出身系魔法少女だとして、この子の今の状態を知った親御さんはどんな気分になるだろう。

 少なくても、手放しで喜べはしなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ