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2日目ー7 まだ気づかないふりができると思っていた

 そんなこんなで商店街を出た月瀬と少年。幸いにも商店街の側に人はおらず、ここ一連の騒ぎに気がついた人とすれ違いはしなかった。

 気温は家を出てきた時よりも高くなっている。誰も彼も家に引きこもっているのだろうか。普段は忌々しい夏の気温と湿度に今は感謝しかない。


 一番近い場所にあった店でスマホの有無と少年の事情を話し、ひとまず店主に迷子発見の形で通報してもらった。この間、月瀬と少年、店主は軽い世間話をしていたのだが、それが少年の心に効いたのだろうか、少年の顔は大分明るいものへとなっていた。


 通報してもらってから十分足らずしてパトカーがやってきて、事情の説明と連絡先の提出を求められる。だがそれも三十分もかからず、少年は一旦警察署で保護される事となった。


「僕、親と話してみます。皆さん、いっぱい迷惑かけてすいません。……そして、本当にありがとうございました」


 二人に頭を下げ、パトカーに乗る少年。そのまま少年を見送ろうと店先に立っていると、先ほど少年を座席に乗せた警察官に声をかけられる。


「そこのお嬢さん、まだ日は高いけど、気をつけて帰るんだよ。最近物騒だからねぇ。……実際、東にある交番に居た警察官が行方不明なんだ」

「えっ!?」


 東にある交番、それは月瀬が昨日行った交番である。

 一瞬、月瀬の知らないところでシグニーミアが何かやらかしたのではといった疑念が浮かぶ。そういえば昨日、帰ってきた時の記憶が無い。


「私も詳しくは知らないけど、なんか、突如姿を消したらしい。しかも防犯カメラにはなんか、動く肉塊みたいなものが複数映っていたとか……。いつからここはグロゲーの世界になったのやら。……まぁ、ゴミ被ったクマとかそこらへんだと思うけど」


 だが、すぐに払拭する。動く肉塊なら彼女ではない。それどころか、先程見たスライムの色違いなのではないかと思う。

 疑念が顔に出ていたのか、固くなった月瀬の表情に気がついた警察官が慌てて言葉を繋いだ。


「おっとっと、怖がらせちゃったね。ごめんねお姉さん変なこと言っちゃったね。……とにかく、こっちもパトロール多めにするから、お嬢さんも早く帰りなよ。変なものと遭う遭わない以前に、こんなクソ暑いところに突っ立ってたら体の水分全部なくなるからねー」


 それじゃあ、と言い残してパトカーに乗った警官が去っていく。

 程なくして、月瀬も店主に礼を言った後店を去った。


 ――さてこの後どうしよう。カバンは回収したけど、自転車置きっぱなんだよね……。アレどうやって持って帰ろう……。流石に放置はまずいよね……。


ツキセ(・・・)!」


 一人そんな事を考えながら歩いていると、直ぐ側から声をかけられる。横を見ると、歪んだ空間――まるで写真を円状に範囲選択して、そこだけぐにゃりと歪ませた上で赤みを加えたかのような空間――からシグニーミアが上半身だけ出していた。平然とした様子の彼女から察するに、これも彼女の使える魔法の一種なのだろう。

 赤とピンクの(・・・・・・)オッドアイ(・・・・・)と目が合ったと同時、月瀬の肩が大きく跳ねた。


「うあぁあああぁあああ!? ……な、何してんの!? てかあなた私と一緒に居なかった!? ……あっ居なかったねそういえば!!」

「ツキセ、これ置いてったから」


 そう言い、歪んだ空間から普通に抜け出たシグニーミアは、空間に再度手を入れ、そのまま引く。その小さな手に握られていたのは、ペダルを中心に歪んで可愛そうな事になっている月瀬の自転車であった。

 そういえば、商店街を出てからシグニーミアの姿を見ていない。これを回収してくれていたのだろうか。


「あ! それ! 今どうしようか悩んでたの! 持ってきてくれたんだねありがとう! 家に帰るまでその中に入れっぱなしとかできる?」

「できる。……それよりツキセ、ぼーはんかめらって何?」

「え? あー、えっとね。家とか建物の玄関についているカメラ……って言ってもわかんないか。ええと、建物に誰がいつ入ったのかとかを常に記録して、もし建物に泥棒が入っていた場合にそれの記録を見ることで、誰がいつ侵入したのかとかを確認できるもの。うちの玄関にもあるよ。見ればわかると思う」


 シグニーミアの喋り方は先程とは違う、幼子のような、ちょっと舌っ足らずなものに戻っていた。

 彼女は自転車を歪んだ空間の中に収納する。赤く歪んだ空間は自転車を全て入れ終わると、音もなく消失していった。


「じゃあ、防犯じゃないかめらもあるの?」

「あるよ。普通の写真撮る用のカメラとか。家に帰ったらタブレット見せるね。アレにもカメラついてるから」

「ん。ありがとう。他にも姿、映るものある? 水、鏡とか」

「え? うーん、他は無いような……? 電源のついてないモニターとか……? ……とりあえず帰ってから確認しない? お腹も空いたし、お昼食べてから考えよう」

「ん!」


 月瀬が歩き出すと、シグニーミアも彼女の隣を歩き始めた。

 太陽の位置は頭のてっぺんからずれたものの、まだ空高い場所で光を振りまいている。おそらく午後一時から二時くらいの間だろう。ただでさえお昼を食べていないのに、色々な出来事があったせいでいつも以上に腹ペコである。


 今日の昼はどうしようか。もう手抜きでいいかななんて事を考えながらちらりとシグニーミアを見る。視線に気がついた彼女のオッドアイと目が合う。何でもないよと軽く微笑んで前を見た。


 彼女が何者かを考えはや丸二日。昨日見つけた捜索願が出されていた子はちゃんとした男の子であった。しかも魔法少女ではなかった。


 ――じゃあこの子は……一体何者?


 数日前から薄々感づいていたし、今日男性相手に言い争っていた際に変身済であった事から察していた。この子は変身前と変身後で姿があまり変わらない系の魔法少女だ。

 あえて知らんぷりをしていた事実を目の前に突き出される。月瀬の紺色の瞳が震え、隠していた本音が顔を覗かせた。


 ――私、本当に、異世界から来た魔法少女を拾っちゃったの?


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