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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
最終章 墜ち往く陽、真なる勇気に向かいて
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VS.勇者アルバート・エリュシオン①

 隣に並び立つクモラの手を握る。二人して目を見合わせて、心をひとつにする。


「クモラ!太極だ!」

「うん!」


 存在を結び付けて漆黒の影となった俺たちを見て、アルバートはつぶやく。


「それが魔と力を合わせた姿か……だが残念ながら、全盛期の魔王モラクレスほどではないようだな」


 聖剣ユースティティアを担ぎ上げながら言っている。


「おそらくその少女の肉体と魔力の釣り合いが取れていない。肉体が幼いゆえに生まれる魔力にも限度があるのだ。それに魔王の力の根源である七大罪の化身が、長年の封印の影響で弱体化していることも影響しているだろう。それで俺に勝てるつもりでいたとは、とんだお笑い草だな」

【……】


 奴の言うことももっともであった。

 だがこれ以上俺たちにやりようがなかったことも事実だ。勝負を挑むのは時期尚早だったか?それとも他に手段でもあったのか?


 俺たちが立ち尽くしていると、ハインリヒがアーケディアを投げ捨てて、懐からなにやら透明の容器を取り出しながら近づいて来る。容器の中には深い黒紫色に染まった結晶が収められている。


「全盛期の魔王の力か……取り戻す術はある」

【ハインリヒ……?】


 不思議に思って見ている内に、容器から結晶を取り出して掲げた。容器に魔力を制限する効果でもあったのか、外に出した途端に結晶から強烈な瘴気が放たれて、辺り一面に立ち込めた。


【こ、これは!?】

「これは(モルス)の大地で回収した魔王モラクレスの魔力の結晶だ。驚異的な闇の魔力が結晶化して残存しており、その影響でかの地は今なお深い闇に閉ざされ続けていたのだ」


 結晶を手に、俺たちの方を向いた。


「本当は貴様に敗れ、魔王の魂を得られなかった代わりに、この結晶を用いて闇の力を得るつもりでいた…………だが、貴様にくれてやる!」


 結晶を投げる。それは空中に留まると、大量の闇の魔力に分解されて、吸い込まれるように俺たちの体に入り込んでいく。


【ハインリヒ……どうして……?】

「ふん、私なりのせめてもの罪滅ぼしだ。さあ行け!お前たちの力を見せてやるがいい!この私をも打ち負かした力をな!」


 す、すげえ!どんどんと魔力が高まっていく!

 そしてハインリヒの計らいに呼応するように、アレクスがグーラを呼び出した。


「よーしグーラ!七大罪の化身よ!今こそ時が来た!お前たちの魔王に、ありたっけの力を注ぐんや!」


 勇者を前にしながらも、普段の怯えた表情が嘘のように、グーラはここ一番の気合を見せた顔をする。


 次いでハンナがルッスリアを、シューザがアヴァリティアを、ダニヤンがイーラを、ラヴィアンがスペルビアを呼び出す。キアラは抱いていたインヴィディアを高く掲げた。ハインリヒは眠りそうなアーケディアを蹴っ飛ばした。


 すべて揃った七大罪の化身――魔王の力の根源が、創造主たる魔王に力を送り込んだ!


(す、すげえ……!気が高まるぅ……溢れるぅ……)

(パワー全開だー!)


 魔力の迸る俺たちを見て、勇者は表情を引き締める。


「ほう……!これは……なるほど、たしかに、あの時の魔王以上だな。だがそれは俺とて同じこと。易々勝てるなどとは思わないことだな!」




 ついに、戦いの火蓋は切られた。


 聖剣を振りかざして、勇者は一気に駆け出してくる。

 そして鋭い斬撃を放って来るも、俺はなんとかそれを受け止めることができた。その隙に”破戒”を打ち込もうと拳を繰り出すが、即座に後退されて避けられてしまう。


 やはり、そう簡単に勝負は決められないか。

 まあそれも分かっていたこと。俺もまた隙を与えないようにすぐさま飛び出して、勇者に怒涛の連撃をお見舞いする。しかしそのすべてを、奴はなんなくいなしてしまう。


「なかなかやるな……ではもう少し本気を出すとしようか」


 言った直後、動きが更に加速した。

 続けざまに雨あられのような斬撃が飛んで来る。そのすべてを回避することなど到底できず、俺は吹き飛ばされる。


【ぐうっ……!】


 魔法を使っているような様子はない。

 もちろん俺たちのように太極をしているわけでもない。素の身体能力でこれなのだ。俺はなんとか動揺を抑え込んで、戦闘を継続していく。


【ちくしょう!闇魔法:”暗夜行路”――!】


 右手から真っ黒い霧が発生して、相手を包み込む。


 どうにかして敵の身体能力を落とさなければならなかった。

 外界の情報をシャットアウトするこの魔法が通用すればよかったが、勇者は霧に巻かれた後も平然と駆け出して聖剣を振るい、俺たちに会心の一撃をお見舞いする。


【ぐあああっ!】

「感覚阻害の魔法か……かつては苦しめられたが、今の俺にそんなちゃちなモノが通用すると思うな!」


 追撃が来る前に、急いで後退して距離を取る。

 やはり搦め手は通用しないか……なら大火力でむりやり隙を作るしかねえ!


(クモラ!一気に魔力を解放するぞ!)

(うん!任せてー!)


 飛び上がりつつ右腕を下に向かって突き出し、闇の魔力をふんだんに練り上げる。そうして打ち出された魔力は、流星群のような勢いで以ておびただしく勇者に降り注いでいった。


 闇魔法:”闇椿”――!


 我ながら、凄まじい威力だった。

 だが土煙が晴れる頃、目を疑う。勇者は光輝く防御壁を生み出して、傷の一つも負ってはいなかった。


【なん……だと……】

「神聖魔法:”聖域<サンクチュアリ>”――!」


 俺が呆然と立ち尽くしている内に、勇者は防御壁を解いて、次なる手を打ってくる。


「どうした?その程度か?だがなかなかの威力だった。それに敬意を払い、お前たちにも神聖魔法の脅威を体感させてやるとしよう」


 聖剣を持っていない、左腕を天に掲げる。

 神々しい魔力が左手に集まって、凝縮されてゆく。


「あかん!みんな、来るで!」


 アレクスが叫ぶや否や、勇者の掌から耳をつんざくような轟音を伴って、暴れ回る光の奔流が迸った。


 神聖魔法:”雷霆(らいてい)”――!


 光の暴力が、周囲一帯に滅茶苦茶に走り回る。

 俺やシューザ、ラヴィアンはすばやく回避行動をとって、なんとか致命傷だけは避けた。ダニヤンはまともに喰らったが耐え抜いていた。ハインリヒは土魔法で壁を作って命中を避けていた。


 残るハンナとキアラについてだが、なんとアレクスが光の壁を展開して彼女たちを守っていたのだ。


「え!?ア、アレクス、何よそれ!」

「これって、対魔法用の防御壁!?それもかなり高度なものだわ!」


 二人の声を受けて、アレクスが得意げに笑う。

 手には翡翠のアクセサリーのようなものが握られていた。


「ワーハハハハ!コイツはワイのお宝十指の一つ、耐魔の勲章や!魔力を込めると対魔法壁を展開できる優れ物やでー!」

「ア、アンタ!そんな便利グッズ持ってたなら、どうして今まで使ってこなかったのよ!」

「アホ!コイツには使用回数の制限があるんや!ケチりもするわ!せやけど最終決戦となれば、惜しむこともないからな。今日は大判振る舞いやで!」


 アレクスはそう言いながら、ハンナを守るような位置取りに立つ。


「ハンナ、回復役のお前が倒れたら一大事やからな……せやからワイが守ったる。この対魔法壁は超強力やさかい、安心してええで」

「え、なに、そのドヤ顔……キモ……あんた、セリフとキャラが絶望的に合ってないことに気づいてる?」


 キメた風だったアレクスに、ジト目で茶々を入れるハンナ。

 途端に奴はいつものコミカルな調子に戻った。


「うっさいわボケ!せっかく活躍できたんやから、白けることゆうなや!見たところワイらとハインリヒ以外は負傷しとる、さっさと回復に行っとくれ!」

「はいはい、りょーかい!」


 ハンナは鬱陶しそうにしながらもテキパキと動いて、負傷者に回復魔法をかけていく。


 一連の成り行きを見て、どうやら味方の心配はそこまで必要なさそうであった。

 むしろまずいのは俺たちの方だった。勇者は雷の魔法を打った直後も、一切隙を与えずに俺たちに向かってきていた。”雷霆”を受けて負傷した俺たちは動きに精細さを欠き、勇者の振るう聖剣に次々と斬りつけられてしまう。ハンナも勇者の怒涛の攻勢が落ち着かない限り、駆け付ける隙がないだろう。


 みるみる追い詰められていく。

 そしてついに俺たちは、勇者の特大の一撃をまともにもらって、盛大に弾き飛ばされてしまった。


【うわあああ……!】


 う、嘘だろ……ハインリヒや七大罪たちのおかげでずいぶんと魔力を高められたってのに、ここまで為す術もなく追い詰められちまうのか……?


 このままじゃ……このままじゃ……


 気持ちがくじけそうになったその時、俺たちの前に庇うように立つ姿があった。なんとハインリヒであった。奴は俺たちに背を向けて、勇者に対峙するようにして立ちはだかっていた。


【ハインリヒ……】

「無様だな、ステッド……しばらくは私が相手をする。その間にお前たちはなんとか態勢を立て直せ」


 言いながら、ハインリヒは巨大な水のドームを生み出して、自分ごと勇者を閉じ込めてしまった。


 水魔法:”わだつみのいろこの宮”――!

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