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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
最終章 墜ち往く陽、真なる勇気に向かいて
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勇者アルバート・エリュシオンとの対峙

 四つのクリスタルを破壊した後、俺たちは再び通れるようになった階段を登って、城の一階部分まで戻って来ていた。ちなみにアーケディアとインヴィディア以外の七大罪は、相方の中に戻っている状態だ。


 螺旋階段への入り口を塞いでいた光の壁は消えていた。

 俺とクモラ以外はみな大なり小なり消耗していたが、それでもどうにか試練を切り抜けることができてひと心地だった。


「よかった、通れるようになってるぞ!」

「やったね!」

「苦戦はしたが、ちゃんとステッドとクモラの二人を温存しつつ、しかも誰ひとり欠けることなく無事に乗り越えたんや。結果的には上出来やな。ほいみんな、コイツでちっとは消耗した魔力を回復しとき!」


 アレクスは言いながら、懐から魔法の聖水の入った小瓶を幾つも取り出して、戦いに参加したメンバーに分け与えていた。どこからこんなに出したんだコイツ。


 みな一息に魔法の聖水を飲み干す。

 全快とはいかないまでも、ある程度の魔力回復ができたようだった。


「ぷはあ~、あー沁みるわぁ」

「消耗した体に魔力回復薬はありがたいですね」

「まったくだ」


 ハンナ、ラヴィアン、シューザ。

 先の戦いで特に疲れた様子だった三人が、聖水の癒しに恍惚とした表情を浮かべていた。


「さて、この階段を登れば、いよいよ城の最上階へと辿り着けるだろう」

「ガハハッ、ついに決戦の時がやって来たのだな!」


 ハインリヒとダニヤン、あまり疲れた様子のない二人が言う。

 片や魔力バカ、片や体力バカだからだろう。


「ここからはアンタたち二人の正念場よ。覚悟はいい?」


 キアラが俺たちに信頼に満ちた視線を向けてくる。

 俺はクモラの手をそっと握りながら応える。


「ああ!行こうぜクモラ!俺たちは伊達にここまで来たわけじゃない!俺たちの力をアルバートの奴に見せつけてやろうぜ!」

「うん!ようやく来たんだね、わたしたちの旅の終わりに……」


 二人して先頭に、長い長い螺旋階段を登り出していった。


 ――――

 ――


 しばらく靴の鳴る音だけが響き続けていた。

 その間、俺は何を思うでもなく無心であった。緊張しているわけでもなければ、気楽な気持ちでいるわけでもない。谷川の清水のように深く澄んだ心の中に力強さだけがあった。それはクモラも同じだろう。俺たちは停滞しつつある世界に再び流れをもたらす為にここまで来たのだから。


 階段を登り終えて、まず目に映り込んだのは血のように赤い、暮れ間際の空であった。もう夕闇が近づいている。そして遥か下の方に通過した庭園や正門、山間の樹林が朽ち葉色に染まっているのが見えた。ずいぶんと高いところだった。城の最奥の、最も高い塔の頂上に俺たちはいた。


 思ったよりも広い場所だった。それだけ大きな塔だということだ。

 そんな場所の縁に、山の彼方に沈みかけた夕日を背にして、待ち構えている一人の男がいた。


「ついにここまで来たか。魔王の魂を継し者たちよ」


 黄金の長い髪を靡かせ、白銀の聖剣を打ち立て、赤銅のマントを身に付けた端正な顔立ちの男。かつて魔王モラクレスを討ち世界を救った男――勇者アルバート・エリュシオンであった。


「……待っていたぞ。ここまで無事切り抜けてきたことは褒めてやろう」

「約束通り来てやったぜ、アルバート!魔王の力は取り戻した!今度こそ決着を付けるとしようぜ!」


 啖呵を切りながら、俺もクモラも並んで身構える。

 他の連中も、かつてのパーティリーダーを前に覚悟を決めたような顔をした。


 アルバートは初めに俺とクモラの顔を見たあと、今度はかつての仲間たちの姿を見回していた。


「ある意味壮観だな。まさか十年前に旅路を共にした仲間たちがすべて反旗を翻すとはな……」


 眼を閉じて呟くも、あまり哀しげな顔ではなかった。

 覚悟を決めていたのか、こうなることが分かっていたのか。


「俺は完璧な世界を求めた。魔王を倒したからといって、それだけで安心する気になどとてもなれなかった。魔王が恐怖を振りまいていたあの時代、社会を混沌とさせていたのはなにも魔族や魔物ばかりではなかった。人間にもロクでもない者が大勢いたのだ。混乱に乗じて悪事を働く者もいれば、人間を裏切り魔族に与する者もいた」


 夕闇の空を見渡しながら、アルバートは話していた。


「だから俺は考えた。壊れぬ平和などありはしない。魔王が滅びたとて、いつの日かふたたび邪悪な者が闇より現れるだろう。だがその時、俺は年老いて生きてはいまい。そして人間たちが今のままでは邪悪な者を打ち倒せぬばかりか、足の引っ張り合いで同士討ちをすることさえ考えられる。勇者亡き世では、民のひとりひとりが勇者に足る資質を持たなければいけない」

「……だから創ろうとしたんだな。罪も悪もない完璧な世界を」


 俺の言葉を受けて、アルバートは続ける。


「だが俺は自分が完璧だとは思っていない。だから信頼できる仲間たちに世界の分割統治を提案し、理想的な統治の在り方を模索しようと思ったのだが……」


 かつての仲間たちを見回しながら、失望も落胆も感傷も冷淡さも感じさせない声音でただ一言。


「揃いも揃ってダメダメだったな、お前たちは」


 そう言って、しばらく佇んでいた。

 風が吹き過ぎる音がして、また口を開く。


「これなら世界のすべてを、俺が直々に支配した方がまだよかっただろう」


 アルバートの発言に、ハンナとアレクスが拒否反応を見せる。


「ええ……全世界、あの頭のおかしいスローガンだらけの方がキツいと思うんだけど」

「ワイなら一日で窒息する自信があるわ……嫌やで、そんな暮らしは!」


 麓の街で見てきた光景を思い出す。意識の高い標語だらけの街並み。


 たしかに、大切なことばかりだろう。頭を回し、体を動かし、必死に努力する姿勢を保ち続けなければ何事も為すことはできない。何者にも成れはしない。


 けれども、俺はあの街の有り様を、アルバートのやり方を肯定する気にはなれなかった。大きく一歩を踏み出して、毅然と自分の想いを言い放つ。


「アルバート……アンタの過去は聞いているよ。アンタの気持ちも理解できる。けれどもやり方まで正しいとはどうしても思えない」

「それはお前の心が軟弱だからだ、ステッド」

「……そうさ、俺は弱い男だったさ。ダメな男だったさ。みじめでロクでもない生き方をしてきた。でもな、俺が旅の中で出会ってきた人たちは誰も彼も、心のどこかしらに弱さを抱えていた。欠点のない完璧な人間なんていなかった」


 ゴミ山でゴミを漁りながら暮らしていた日々を思い起こした。次いでクモラと出会ったあの運命の日を思い出し、そこから始まった波乱の旅路が一気に脳内を駆け巡った。

 俺はアルバートの瞳を見つめて、声を張り上げる。


「ダメなのかよ!?心に弱さがあることが!時には罪に負けそうになることが!誰だってつまずきながら歩き方を覚えたように、ダメになることがありながらも、それでもいつかは立ち直っていく!そうやって無様でも格好悪くても、もがきながら生きていくんだろ!それじゃダメなのか!?」

「ダメだ」


 変わらない声音できっぱりと返す。


「俺は甘えを許さん。肉体が強くなければ魔に打ち勝てぬ、そして心が強くなければ魔に飲まれる。俺は弱さというものを許すつもりはない。弱き心は罪を為し、世界を混沌へと至らしめる。だから俺は暴食も、色欲も、強欲も、憤怒も、怠惰も、嫉妬も、傲慢も――人の世を滅ぼし得る罪のすべてを許すつもりはない」


 夕日の光を受けて鈍く輝く、白銀の大剣を構える。


「俺は決して脅かされることのない完全な社会を創り上げる。二度と世界を()かせはしない」


 覚悟に裏打ちされた鋭い眼光を向ける。


「勇者とは闇を滅ぼし、世界に恒久なる光をもたらす存在。俺は指先の一つでも動く限り、最期までその使命を全うする」


「――そうかい。分かったよ」


 言葉での懐柔を、俺は諦めた。

 いや、最初からそれができる相手だとは思っていない。もとより激突する覚悟でここまでやって来ているのだ。


 勇者の凄みに気圧(けお)されまいと、俺もまた決意を述べる。


「アルバート……アンタの光は強すぎるよ。それじゃあ眩しすぎてなんにも見えなくなっちまう。熱すぎてすべてが焦げ付いちまう。アンタがいつまでもその光を弱めないっていうのなら、俺が!俺たちが!アンタの光を曇らせてみせる!」


 俺の口上に、アルバートは不敵に笑った。


「来るがいい、ステッド。太陽は沈まない。勇者の光は、いつまでも世界を照らし続けるのだ!」

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