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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
最終章 墜ち往く陽、真なる勇気に向かいて
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VS.古の武人②

 ハインリヒは得意げに燃え盛る火炎を叩きつける。

 しかし命中する直前、”勇者の杖”は赤いバリアーを纏った。火炎に巻かれるもまったくダメージが入っている様子がなかった。


「何っ!?」

【カカカ、火属性のバリアーだ。同属性の攻撃はどれだけ強力でも無効化してしまうぞえ!】


 敵は高度な魔法障壁を展開できるようだった。

 それを破壊すべく、ハインリヒは今度は巨大な水塊を空中に生み出す。


「これは恐れ入った、なかなかの魔法技術だな。だがおそらく反属性で攻撃すれば打ち破れる……!」


 言いながら水塊を叩きつける。

 しかしまたしても命中する直前、”杖”は展開していたバリアーを赤から青へと変じた。勢いよく水の一撃に晒されるも、やはりダメージはない。


「……なるほどな、バリアーの属性は瞬時に変更可能なのか」

【カカカ、その通りだ!これこそ小生の秘儀、バリアチェンジ!小生にダメージを与えることはできぬものと知れ!】


 意気揚々と、今度は敵が攻勢に打って出る。

 頭上から火の雨を降らせて、辺り一帯を焼き尽くそうとする。その時、シューザが一目散に駆け出して敵へと向かっていった。


「風魔法:”瘴窃真髄”――!」


 彼が敵の横を通り抜けたあと、今に降らんとしていた火の雨は消えた。代わりに、彼の右手に特大の火球があった。


【ほう、小生の魔力を奪ったか……】

「安易に反属性で攻撃したな!喰らえ!」


 間髪入れずに振り返って、火球を投げつけるも結果は予想通りだ。”杖”はバリアーをまたもや青から赤に変じて、飛んできた火球を無効化してしまう。


「くそっ!バリアーを打ち破るには反属性で攻撃するしかねーが、そのバリアーを瞬時に切り替えられちまう!」

「圧倒的にこちらの攻撃速度が足りていないな。それにおそらく生半可な火力では、反属性をぶつけたところで打ち破れないだろう。だが魔力を練って火力の高い攻撃をしようとする限り、いかんせん攻撃速度は落ちてしまう」


 二人は強大な古の魔法使いを前に立ち尽くし、歯噛みしていた。

 なんとか打開策を模索するべく考え込む。ハインリヒはおもむろにシューザに近づいて耳打ちをする。


(こうなればなんとか消滅魔法を当てるしかない。どうにか敵の隙を作ってくれ)

(了解した)


 ふたたび短剣を抜いて、シューザは”勇者の杖”に向き直った。


「風魔法:”韋駄天”――!」


 自身に速度上昇の魔法を掛けて飛び出す。

 そして短剣を振るうが、赤いバリアーが火を吹いて彼を返り討ちにする。


「ぐっ……!」

【無駄ぞえ、このバリアーには自動迎撃機能もあるのでな!】


 ”杖”は調子づいていたが、恐るべき魔力の波動を感じて視線を転じた。

 シューザが引き付けている内に、ハインリヒは死角に逃れつつ白い光球を作り出していた。


「消し飛ぶがいい!」


 ハインリヒは消滅魔法を打ち放つ。

 空間が揺らぐほどの絶大なエネルギーが飛んで来るも、"杖"に動揺の気配はない。


【ほう、これは……火と水の合成魔法だな。カカカ、まさか今の世でも、この魔法を使える者がいるとはな。たしかに、まともに喰らえばバリアーもろとも消し飛ばされてしまうだろうが……】


 知った口ぶりであった。

 そして”杖”は慣れたように両腕を広げ、それぞれに火魔法と水魔法を展開すると、それを合成させる。生み出された白い光球を放って、なんとハインリヒの消滅魔法を相殺させてしまった。


「な、なんだと……!」


 ハインリヒは驚きつつも、おかしなことではないと思っていた。

 そもそも太極という概念自体、彼が古代の文献から導き出したものであった。古代の大魔法使いともなれば、太極魔法を扱えてもなんら不思議ではない。


【万策尽きたかね?では、そろそろくたばって頂こうか。奥義、四象の乱れ!】


 宙に浮かんでいた杖が強い輝きを放つ。

 それとともに、燃え盛る火炎、逆巻く渦巻、吹き荒れる竜巻、降り注ぐ岩塊が辺り一面に出現した。


「ちっ、風魔法:”浮雲”!」

「おのれ、土魔法:”一握の砂”!」


 シューザは回避率を上げる魔法を使って、ひたすら逃げ惑う。

 ハインリヒは砂で幾つもの腕を生み出す魔法を使って、自身の防衛に徹していた。

 既に防戦一方だった。


 アヴァリティアは危険を感じてシューザの中に隠れてしまった。

 アーケディアだけは魔法無効のベールを纏っているので、この大惨事の中でも吞気にうたたねをしていた。


(くそ、まじで手強い相手だな……このままじゃ)


 シューザは辺りを駆け巡りながら、必死に打開策を思案していた。可能性として考えられるのは、まだ試したことのない自身の未知の力である。


 彼は心の中で、自身の相方に声を掛ける。


(おいアヴァ、聞こえるか?)

(シュ、シューザ!)

(俺たちも太極をやってみるぞ。人間が悪徳に、魔族が美徳に歩み寄るんだ。お前は強欲の化身だから、たぶん対応する美徳は救恤(きゅうじゅつ)だろうな)

(きゅ、きゅーじゅつってなんだ?)


 アヴァリティアの間の抜けた声が脳内に響く。

 外の騒がしさとは裏腹に呑気なやり取りが続く。


(まあ、簡単に言うと人助けだな。自分でなく他人のことを想って行動するんだ)

(まるでシューザのことだね)

(自己中心的な考えで生きてきたテメーには難しいか?)

(そ、そうかもね……でも)


 アヴァリティアは思い出していた。

 それは世界樹の雫を手に入れるべく、弾みで冒険に出かけた時のことだ。自分のせいで崖から転落した冒険者を救うべく、彼はせっかくの世界樹の雫を使ってやったことがあった。


 結局冒険の成果がゼロとなったわけで、彼には益のない行いであった。にもかかわらず、彼はあの時の自分の行いをどこか晴れやかな気持ちで振り返ることができていた。そしてその理由にも、どことなく察しはついていた。


(オイラ、分かってきたような気がするんだ。無理して手に入れた金やお宝なんて、きっとそこまで嬉しいモンじゃない。それを独り占めしたって淋しいだけなんだ。逆に分かち合える仲間がいたら、大したことないはずの物でもきっと嬉しいんだろーなって)

(アヴァ……)

(むしろ助け合うことでそういった仲間が得られたら、それが一番の宝物なんじゃないのかなーって)

(へっ、ずいぶんといい子になっちまったな。強欲の化身失格だな、テメーは)


 知らぬ間に成長した姿に、シューザは感心していた。


(な、なんだよぅ!そう言うシューザだって、盗賊失格みたいなモンだろ!盗んだ物、ほとんど貧民街にバラ撒いてたんだし!)

(そうだな。だがこれからの俺は、もうちっと強欲にいこうかと思ってる)

(へ?)

(今までの俺は格差をなくすことにこだわり過ぎていた。その為には人間性を奪うことも仕方がないと思い詰めていた。だがそれじゃ格差はなくなっても社会が面白くねえ。俺はそれに気づいたのさ)


 シューザもまた思い出していた。

 世界をあるべき姿に、健全な姿に戻すために、あがき続ける一人の男の姿を。その傍らに立つ曇りなき瞳の少女を。


(ダメでもいいのさ、上がればいい。そして上に居る奴もいつかは落ちる。浮き沈みが世の常だ。だがそれさえも楽しめばいい。落ちた日はいつかまた昇るんだからな。そういった姿勢があれば、どんな世界でもきっと楽しめるだろう)

(シュ、シューザ……)

(俺は目指すぜ、人間性を失わず、それでいて皆が楽しめるような世界をな!)

(アハハ!そりゃ、強欲だね!)


 途端に、シューザの体が白黒の光で包まれる。

 光が晴れる頃には、深緑色の帽子とマントを身に着けたモノアイの案山子(かかし)が佇んでいた。


 ”強欲”と”救恤”の太極した姿であった。




 離れたところで、ダニヤンとイーラもまた太極をしようとしていた。

 存在を結び付けて黄金の聖騎士となる。そして分厚い盾を構えて、”勇者の槍”に対峙する。


【ほう、不可思議な力を使う。だが某の槍を防げるものか疑問であるな!】


 槍を握った螺旋状の両腕が、さらにぐるぐるときつく巻かれる。

 そして巻いた両腕を一気に解き放ちながら、手の甲に付いた管からジェット噴射を発生させる。可動性のジェット機構が推進力と指向性を与え、それに遠心力も相まってドリルのような豪速かつ超威力の一撃が繰り出される。


 ダニヤンは攻撃を受け止めるつもりでいた。

 しかし敵の攻撃を見た瞬間、怖気を感じて、横に飛び退いて回避した。


【……!】


 後方で見ていたキアラは驚愕していた。

 あのダニヤンが避けたのだ。戦闘を楽しみたいが故、己の頑丈さに自信を持っているが故、攻撃を躱すことなどまずしないあのダニヤンが回避に徹したのだ。それは太陽が西から昇る様を見ているような気分だった。


【ほう、受けるでなく躱したか……どうやら一撃必殺の威力であることが分かったようだな】


 腕を戻しつつ、”槍”は自慢げに言った。

 ダニヤンは珍しく、冷や汗をかきながら思案気な表情を浮かべていた。


 それもそうだ。彼の太極時の力は、まず攻撃を受けることが前提になっている。受けた攻撃から力を吸い取り、自身の回復や敵への攻撃に転用する。だがそれも、一撃も耐えられないのであれば話にならない。


(おいおい!どーすんだよ腐れ相棒!あんなん一発でも喰らったらアウトだぞ!)

(そのようだな、むう……どうしたものか)


 内心で途方に暮れるイーラとダニヤン。

 そこにインヴィディアと太極済みのキアラが近づいて来る。ダニヤンの傍らに浮かびながら、声を掛けた。


【ダニヤン……あいつの攻撃、一撃も耐えられそうもない?】

【ああ、無理だな。あれほどの威力の技は見たことがない。一度でも受けたらおしまいだ】

【そう……でももし相手が消耗していたら?】

【ふむ、そうであれば攻撃の威力も落ちるとは思うが……】

【考えがあるの、聞いて】


 ふたりはコソコソと作戦会議を始める。

 その間、”槍”はふたたび両腕を巻き始めていた。


【ファファファ、作戦会議か?だが無駄なこと、さあ某の槍の露と消えるがよい!】


 またしても超威力の槍撃を放とうとするも、ピタッと腕が止まる。

 それもそのはずで、敵の目にはダニヤンとキアラの姿が数えきれないほどに幾つも出現していたのだ。


【ナ、ナニ……!】


【闇魔法:”舞姫”――!】

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