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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
最終章 墜ち往く陽、真なる勇気に向かいて
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突入!アルバート城

 俺たち一行はさらに歩を重ねて、ついにアルバート城に到達する。


 霊峰エルピスの中腹、断崖を背に屹立する武骨な要塞であった。わざわざ勇者の居所とするべく新築したというよりは、元々戦争で使われていた山城を流用しているような印象だった。


 アレクスに尋ねてみたところ、やはりこの城もヒュミリタスの中心街のように、古代の遺構をベースに改装したものだろうとのこと。造り自体は古風なままだが、外壁は補修されたばかりのような真新しい箇所が目立ち、そして門構えや庭園はほとんど新しく造られたも同然だった。


「今でこそ旅の最終目的地やが、十年前の旅路はここ希望(エルピス)霊山こそがスタート地点やったからな。アルバートとラヴィアン、要は最初期のメンバーの出身地や。せやからワイらが加入した時には、もう霊山を出た後やったし、戻る理由もなかった」

「だからこんな古臭い城の存在自体知らなかったのよ。ラヴィアンも知らないでしょうね。此処にいる全員が初めて立ち入る場所ってことなのよ」


 それはつまり、何が待ち受けているかはまるで分からないということだ。注意を払いつつ歩を進めるうちに、城の姿がいよいよ眼前に差し迫ってくる。


 門は開いていた。そして誰の姿もない。


「無防備ねー、いやご自由にお通りくださいってことかしら?」

「ガハハ、アルバートの奴も馬鹿ではあるまい。わざわざ兵士を使って俺たちを押しとどめる意味は薄いと分かっているのだろう」


 門を通り過ぎ、丁寧に管理された庭園の中を往く。

 歩きつつ、目を凝らして眼前の城を見上げる。


 元来は要塞だったからか、城と言えば縦に長い建造物のイメージがあるが、この建物は幅広の正方形に近い形状だった。城というよりは城砦なのだ。政治の場でなく戦場(いくさば)が似合う外観だ。ここを居城に選んだのは平和になっても戦う姿勢を忘れない、そんな勇者の有り様を如実に表しているようにも思えた。


 正方形の造りをベースに複数の塔が立ち並んでいる。奥には他よりも遥かに大きな塔が(そび)え、その頂点がこの城でもっとも高い場所となっていた。登れば麓の市街を一望できよう。


「すごく高い塔が建ってるね、ステステ」

「ああ、もしかしたらアルバートはあの上かもな」


 今もそこから、俺たちの到来を見下ろしているのだろうか?


 空から行くことも考えたが、そんな無粋なことはしない。

 なにせ城砦の正面扉が大きく開かれていて、どうぞこちらへお入りくださいと手招きしているのだ。勇者はしっかりと俺たちのことを待っていてくれたのだから、俺もちゃんと入口から入るのが礼儀だと思った。飛べないメンバーもいることだしな。


「行こう、みんな」


 俺たち全員が入った途端、黒鉄(くろがね)の扉は鈍い音を立てて閉じてしまった。




 城内は、薄暗かった。

 何の灯火もない。そしてやはり誰の姿もなかった。要らぬ犠牲を出さぬためにあらかじめ人払いをしてあるのだろう。政治の場が戦場の様相を呈していた。


 片付けでもしたのか、雑多な物は何もない。

 目に映るのは石レンガの壁と天井、絨毯の敷かれた通路、太い柱、奥への通路に沿うように並んだ四体の騎士像だけ。像はひとつが剣を、ひとつが盾を、ひとつが槍を、ひとつが杖を構えている。人間よりも一回り以上大きなサイズで、のっぺらぼうだった。


「なんだこの像は?ぱっと見、仕掛けのようなモンはなさそうだが」

「私にも分かりかねますね。なにぶん私も、この城には初めて立ち入りますので」


 ひとしきり像を見回した後、さらに奥へと進む。

 像以外にはとくに目を引く物はなかった。壁沿いには小部屋が散見されるが、文官や兵士が普段使いしている部屋であろうから、寄り道する意味は薄いだろう。


 問題が立ちはだかったのは突き当りの広間に到達した時のことだった。奥がちょっとした階段になっていて、そこを登った周囲より高くなった場所に螺旋階段への入り口がある。


 しかし、その入り口が光の壁のようなもので阻まれているのだ。赤、青、黄、緑の四色が混じったような色合いだった。


「……なるほど、アルバートの奴め、きっと勇者の力でこの城の仕掛けを再稼働させているな。このバリアーをどうにかせねば、おそらく頂上へは到達できないのだろう」

「見たところ、このバリアーも勇者の力で生み出されているようですなー。つまり簡単には壊せないってことだねー」


 光の壁をしげしげと眺めるハインリヒとアーケディア。

 そこにアレクスとハンナが続く。


「う~ん、クモラとステッドで魔王の力をフルパワーでぶつければ破壊できるかもしれんが、ここで力を消耗するのは得策ではないわな」

「じゃあいっそ空から行くとか?正面扉は閉まっちゃったけど、そこ以外にも出られる場所ぐらいあるでしょうし」

「アホ!狙い打ちにされるのがオチや。第一飛べない奴だっておるし、そいつらのフォローをしている内に大きな隙をさらすことになるで」

「まあ、それもそうね……」


 さらにシューザとラヴィアンが近づく。


「おそらく仕掛けを解除すれば、この光の壁も消えるはずだ。無理に壊したり迂回する必要はないと思うぜ」

「そうですね、私もそう思います。ヒュミリタスからここエルピスにかけては、古代の遺構が多く見られる地域です。私がアーティファクトでヒュミリタスの遺跡を再稼働させていたように、アルバート様はご自身の力でこの城のシステムを再稼働させたのでしょう」


 片や溜息、片や愉悦交じりに、キアラとダニヤンもやって来る。


「ようするに簡単には解けないってことでしょ?敵を迎え撃つための仕組みなんだから。はぁー、難儀なことだわ」

「ガハハ、これはいいぞ!簡単に到達できてはつまらんからな!」


 ひとまず、仕掛けを解く方向で意見は一致したようだった。

 俺はきょろきょろと辺りを見回す。


「うう、仕掛けを解くったって、どこで何をしたらいいんだ?」

「ねーステステ、あっちに階段みたいなのあるよ?」


 クモラが俺の袖を引っ張りながら言う。

 指差す方を見れば、たしかに広間の片隅に地下への階段が設えられてあった。


「あ、あの階段を下りりゃいいのかな?」

「かもな。まあ他に行くあてもない、行ってみようで」


 アレクスの声に全員が首肯し、俺たちは階段を下りて地下へと赴いた。




 地下空間は異様に広かった。地面を正方形にくり抜いたような空間で、やたらと天井が高かった。雑多な物はないのだが、剣に翼をあしらった不思議な模様が床の中央に描かれていて、その四方に配置するように透き通った菱形の水晶体(クリスタル)が浮かんでいる。赤、青、黄、緑の四色だった。


「な、なんだ?あのクリスタルは――?」

「すごい光の力を感じるよー」

「それに床に描かれた模様……あれは勇者の紋章やな。アルバートの奴も、左腕に同じ紋章が浮かんどったからな」

「じゃあこの城って、アルバートが造ったってコトなの?」

「いや、ちゃうやろ。たぶん大昔の勇者がらみの建造物なんや」


 俺たちは分散して、静かに光る四つのクリスタルを眺めていた。

 正直何をどうすればいいのか分からない。このクリスタルを壊せばいいのか?だが確証もない。


 しばらく立ち尽くしていたが、突然周囲が激しく鳴動した。何事かとみな辺りを見回す。少しのタイムラグの後、シューザが鋭く叫ぶ。


「上から来るぞ!気を付けろ!」


 叫んだ瞬間、地下空間を縦に二分するように、天井から巨大な壁がせり落ちてきた。壁付近にいた者は巻き込まれまいと咄嗟に飛びのいたが、分散していたのが災いして、俺たちは二手に分かれてしまう事態となった。


「な、なんだ!?なにが起こったってんだ!?」

「みんなとはなれちゃったよー!」


 突然下りてきた巨大な壁を、呆然と見つめる。


「おそらくこれも城の仕掛けの一つやな。敵戦力分散のため、上下式の壁が城中にあるんやないか?」

「おかげさまで、他の連中とは離ればなれになってしまったわね!」


 俺とクモラ以外にこちら側に居るのはアレクスとハンナ、そしてラヴィアンであった。彼女はなにやら空中を見上げていた。


「みなさん!クリスタルが……!」


 遅れて、ようやく気が付いた。

 メンバーのみならずクリスタルも、壁によって二分されていた。俺たち側にあったのは赤と青の二色。それが空中に浮かび上がって、強い輝きを放っていたのだ。


【クックックッ……】


 不可思議な笑い声が聞こえる。機械的だがどこか人間味があった。二つのクリスタルは、それぞれ人の姿のようなシルエットを纏って地に降り立つ。


【この城はかつて魔の手より勇者様をお守りすべく築かれたもの……】

【勇者様に仇なす者たちよ、先に進みたくば我らを打ち倒してみせるがいい!】


 シルエットは鎧兜を纏った騎士のような外見だった。クリスタル部分が顔の代わりになっていて、煌々と輝いている。つまり顔の造作はない。鎧の色は赤クリスタルなら赤く、青クリスタルなら青い。それぞれ武具を手にしているが赤い方は剣を、青い方は盾を持っている。何故だか既視感があった。


「こ、こいつら……なんか見覚えがあると思ったら、城の一階通路で見た騎士像と同じ姿や!」

「あー、そういえばあの像も四体いたわね」

「一階で見たのは剣、盾、槍、杖を所持した騎士の像でした。つまり壁の反対側には槍と杖の騎士が出現しているのでしょう」


 言いながら、全員臨戦態勢を取る。

 突如出現した脅威だったが、同時に先に進む為の方法も明らかとなった。仕掛けの鍵はやはりクリスタルだったのだ。コイツらさえ破壊すれば、きっとあの光の壁を壊すことができるだろう。


 赤いクリスタルは剣を、青いクリスタルは盾を構える。


【四つのクリスタルすべてを打ち破らねば、先への道は開かれぬ】

【分散した戦力ではそれもままならぬであろう。さぁさ、其方たちの底力を我らに示してみせるがよい!】

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