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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第7章 凍てつく雪洞、謙虚なる賛美響きて
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VS.武闘家ラヴィアン②

 絶命した巨竜の前で、ダニヤンは槍を手にひとしきり笑っていた。少しして、ようやく俺たちの存在に気づく。


「ガハハハハ……むっ!?おおっ!誰かと思えばステッドとクモラではないか!こんなところでいったい何をしているのだ?」


「いやっ、それはこっちのセリフなんだが!?」


 とはいえ、状況は容易に推察できる。

 そうか、ハインリヒの魔法でディリゲンティアまで転送された際、ダニヤンは全く別の場所に転送した旨を聞かされていたが、それがここヒュミリタスだったのだろう。そしてコイツは持ち前の転んでもただでは起きない精神を発揮し、魔物が掃討され尽くしていないことをいいことに、強敵を求めてひたすらさすらい続けていたのだろう。終いには運よく巨竜を見つけ出し、戦いに夢中になっている内に、洞窟の地面を突き破ってここまで落ちてきたと。


「なに、どうやらハインリヒの奴にこの土地までワープさせられてしまったようでな、始めはどうしようかとも思ったのだが、俺は思い出したのだ。このヒュミリタスの地にも巨竜が隠れ潜んでいるらしいという噂をな!であるからして、今までさんざん探し続けていたのだ!」


 なるほど……やはり想像通りか。

 アレクスとハンナも思わず戦いを忘れて、巨竜の亡骸に近づきつつ興味深げな視線を送る。長い首と尾、巨大な翼。そして胴体には槍を深々と突き立てられて出来た傷があり、そこからおびただしい血を流していた。


「碧い鱗に、水属性のエネルギー……コイツはおそらく六大巨竜の一角、賢帝竜(トラヤヌス・ドラゴン)やな。十年前の旅路では遭遇すらせえへんかったが、きっと雪深い地を住処にしとったんやな」

「そうとも、深山幽谷をずいぶんと探し回ったぞ。そして見つけ出せたはいいが、そこからは死闘の連続だった。暴君竜(ネロス・ドラゴン)ほど手ごわい相手ではなかったが、この極寒の中での戦いだ、軽く十回ぐらいは死にかけたな!ガーハッハッハ!」


 うーん、久しぶりに再会したが、やっぱりコイツ頭おかしいな……

 すげえ楽しそうに言ってるもん。全身凍傷だらけの満身創痍であるというのに。


 ダニヤンの愉快そうな様子を見て、苛ついたようにハンナが吠える。


「なにのんきに笑ってんのよ!アンタ、今がどういう状況か理解してるんでしょうね!?」

「むっ?どういう状況だと言うのだ?」


 ダニヤンがようやく落ち着いて、辺りに視線を巡らす。

 そして威圧感を放ちながら屹立するラヴィアンを見出した。


「ほうラヴィアン……!そうか、そういえばここヒュミリタスはお前の領地だったな。なるほど!この地のアーティファクトを巡って、戦闘の真っ最中であったか!これは運が良い!」


「……お久しぶりです。貴方も変わりませんね、ダニヤン」


 ラヴィアンは変わらず、氷の表情で言う。

 笑っているのはダニヤンばかりだった。


「状況は理解した!見たところラヴィアンに押されているようだな!任せろ、この俺が戦況を逆転してみせようではないか!」


 いや、そのズタボロの状態で戦おうってのか!?

 どんだけ戦闘狂なんだよ……ってまあ、ハンナに回復魔法をかけてもらえばいいだけか。


 ダニヤンの威勢のよさに反比例して、ラヴィアンの声音は冷徹さに染まってゆく。


「ダニヤン……貴方もアルバート様に楯突くというのですね?」

「そうだな……浅からぬ付き合いだ、お前も俺の気心くらいは知っているだろう?俺は味方をした方が楽しそうな側に付く!ステッドたちに付けば、お前と心置きなくヤれそうだからな!」

「……辟易するほどお変わりないようですね。貴方のその戦闘狂ぶりに、これまでアルバート様がどれだけ手を焼いてきたことか」

「なに、俺の性根はきっと死ぬまで変わりはせんさ。さぁ()ろう!すぐ闘ろう!今闘ろう!」


 大戦槍を振り回して、ダニヤンは不敵に笑う。

 ラヴィアンは不愉快げにまなじりを上げた。


「俺は一度お前と本気で戦いたいと思っていた。初めに出会った時はまだまだ成長途上といったかんじだったが、お前は旅の中でめきめきと力を伸ばしていった。魔王との決戦に赴く頃には、俺たちはハインリヒの奴と共に勇者パーティ三強などと呼ばれていた。あの時からずっと思っていたのだ、一度本気でぶつかり合ってみたいとな!」

「くだらないですね。仲間同士で戦うことに何の意義が?」

「まあそう言うな。ラヴィアン、お前はこんな話を聞いたことがあるか?」


 ダニヤンは槍を構え直しつつ話を続ける。


「昔々、どこぞでとある商人が矛と盾を売っていた。商人は矛を『どんな物でも貫ける矛』と謳い、盾を『どんな物でも防げる盾』と謳って売っていたそうだ。だが或る客に、その矛でその盾を突いたらどうなるかと問われ、答えに窮したという」

「……それがなにか?」

「気にはならんか?勇者パーティ三強、”攻めの粋”と呼ばれたお前と、”守りの粋”と呼ばれたこの俺……本気でぶつかった場合、いったいどちらに軍配が上がるのか?」

「……興味ありませんと言いたいところですが、それを言ったところで貴方が聞くはずもないことは身に染みて理解しています」


 そうぼやいて、ラヴィアンも臨戦態勢をとった。


「いいでしょう。勇者様に逆らう者は何人たりとも許すつもりはありません。それがかつての仲間といえども、一切の手心は加えません。お覚悟を……!」


 途端に、ラヴィアンの気迫が増した。


「貴方の強さは私も理解しています。ですので手加減なく、本気で参るとしましょう……!」




 なんてこった、やはり先ほどまでの俺たちとの戦いは全然本気ではなかったらしい。いや、それを言うなら俺だって、創造魔法とか全然奥の手を使ってないけどな!


 俺が内心でよくわからない強がりをしている内に、ハンナは素早くダニヤンに近づいて回復魔法を唱える。錫杖をかざすと光が発せられて、ダニヤンの負傷がみるみる回復していく。


「おおっ!これは気が利くな、ハンナ」

「言っとくけど、私も消耗しているから、そう何度も回復魔法は使えないわよ。キメるならさっさとキメなさいよね」

「うむ、承知した!」


 鎧の損壊はそのままだが、全身の負傷と凍傷はすっかり癒えていた。

 ハンナが引き下がると、俺もクモラを抱えて続く。見ればラヴィアンはすさまじい威圧感とともに、底冷えのするような冷気を身に纏い始めていた。


 氷魔法:”冬の嵐”――!


「な、なんだ!?急に冷気を身に纏って……!?」

「いや、真に驚くべき変化はラヴィアンの体の内部で起きている」


 俺のリアクションに反応してダニヤンが答える。


「奴は武闘家系の魔力系統だから、魔力の流れを自身の攻撃力を高める方向にコントロールすることが大得意だ。だがそれは、やり過ぎれば多量の熱エネルギーを生み出してオーバーヒートに陥ってしまう。それを冷ますためにこそ、あのような冷気を纏っているのだ」


 やがて身体強化が完了したのか、ラヴィアンは姿勢を低くして、駆け出す寸前の猛獣のような体勢をとる。そして爆発のような衝撃で以て跳び出した。


 目を疑うような攻防が繰り広げられる。

 飛び出したのとほとんど同時に、ラヴィアンはダニヤンの眼前に迫って強烈な脚撃をお見舞いした。ダニヤンはとっさに威力を殺すようにしながら受け流して、反撃を喰らわせようとするがこちらも刺さりは甘いようだった。


 ラヴィアンは縦横無尽に辺り一帯を駆け回って、様々な角度からダニヤンを襲う。正面から、横から、背後から、下から、頭上から……幾度となく苛烈な攻撃に晒していく。ラヴィアンはすさまじい速度で格闘しており、肉眼ではかろうじて人の姿を伴った衝撃波が走り回っているかのような光景だった。こんな攻撃、俺たちでは少しも耐えられないだろう。


 ダニヤンもただやられているばかりではない。鋼魔法:”悪鬼羅刹”を唱え、ただでさえ頑強な肉体により磨きをかける。しかしそれでも、ラヴィアンの嵐のような猛攻に晒される内に、次第にその肉体を損壊させていった。


「ぬううう……!よもや、これほどとは……!」

「終わりです!」


 ”冬将軍”による武装に、”冬の嵐”による身体強化。ラヴィアンに隙はなかった。ついにダニヤンは、どてっぱらに強烈な蹴りを入れられて、血を噴き出しつつ大きく吹き飛んだ。


「がはぁ……!」

「……どうやら貴方の言う無敵の矛と盾の戦いは、矛に軍配が上がったようですね」


 コツコツと、ブーツを鳴らしながらラヴィアンが近づいていく。

 もはや勝負が決まるかに思われたその時、まさかの二度目の横やりが入ることになる。


「うおおおお!隙ありいぃ!今が好機だぜーー!」


 突然、黄土色の髪をした大柄な鬼が出現したと思えば、尻もちをついたダニヤンを思い切り殴りつけた。


 そうだ、俺たちはすっかりコイツの存在を忘れていた。

 現れたのはダニヤンと一緒にいるはずの七大罪の化身……憤怒の化身、イーラであったのだ。

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