突入!地下遺跡
アレクスとハンナがなにやら湯気を放つ温かい飲み物を飲みながら、共に並んで通り沿いを歩いている。ひととおり調査をした後の休憩であった。
「うぅ~、ピリパラ草の実を溶かした湯は相変わらず効くなあ。十年前にヒュミリタスに来た時もよく飲んどったわ」
「舌が焼け付くように辛いけど、これがまた体が温まってくるのよねー」
どうやら辛みのある植物の実を使った湯を飲んでいるらしかった。この北国では昔から愛飲されているものだ。それを飲み終わる頃、俺とクモラが合流する。
「あっ!アレクス!それにハンナも!」
「なにか飲んでるー!」
アレクスは湯気を放つ飲み物を持ったまま、こちらに目線を向ける。
「なんや、どうした?騒々しいなふたりとも」
様子からして、ふたりはまだそこまでヒュミリタスの統治状況を掴めていないのかもしれなかった。俺は走るのを止めて、ふたりに状況を共有する。
「……実はカクカクシカジカで」
「はぁー浄化刑?なんやそら。たしかにラヴィアンは勇者を神聖視しとる節があったが、にしたって極端やな」
「勇者に敬意を払わない領民に罰を与えるくらいは想定内だったけど、まさか死刑まであるなんてね」
「それでよ、さっき兵士に連行される男を見なかったか?その男から事情を聞いたんだよ。たぶん自分は浄化刑に処されるって……」
「どこに連れて行かれたんだろー?」
「残念ながら兵士の姿は見とらん。やが、なんとなくどこでそういった刑罰が実施されるのかは見えてきたで」
アレクスは落ち着いた声音で返した。
「ま、まじか?俺はあそこに見える聖堂が怪しいなと思ってるんだが……」
「いや、どうもあそこは勇者に祈りを捧げる場、かつ試験会場らしいんや。たぶん刑罰を行う場所やないやろ」
「し、試験会場?」
「調べたところどうもラヴィアンの奴、定期的に領民に勇者理解度チェックなる試験を課しているらしいんや。その成績次第で社会的ステータスすらも左右されるんやと。その試験とやらが聖堂を会場として行われているらしいで」
「参考書が売られていたから試しに買ってみたんだけど、ひっどいわよこれ。勇者の好みの下着の柄とか、お風呂に入る時はまずどこから洗うかとか、分かるわけない問題ばっかだし」
ハンナが複雑そうな顔で冊子を取り出し、ぱらぱらとめくりながら言う。
「な、なんだそりゃ……誰が分かるんだよそれ」
「ラヴィアン以外いないんじゃないかしらね」
「なんでラヴィアンは分かるのー?」
「それはあの女が勇者のガチストーカーだったからよ。勇者の風呂覗いたり、私物を漁ったり、正直目に余るレベルだったわ」
「まあ勇者本人にだけはなんとか気づかれずにやってきたみたいやがな。ワイの見立てでは、アイツの身のこなしや気配を消す技術は、鍛錬だけでなく日頃のストーカー行為からも培われとった」
聞けば聞くほど、武闘家ラヴィアンのやべえ女のイメージが増長してゆく。
あれ?俺たちはそのラヴィアンが首ったけの勇者とまさに対立している状況なわけだから、ひょっとしてめちゃくちゃブチ切れられるんじゃ?こ、怖くなってきた……
「で、話を戻すが、ステッドが聞いた話では街全体が監視されとるかもしれんって話やろ?」
「ああ、けどそんなことが可能なのかよ?」
「あり得なくはないで」
アレクスは、街並みの方に視線を移しつつ言葉を続ける。
「前にも話したか?このヒュミリタスの中心街はな、古代の遺構をそのまんま流用してるねん。大昔の遺跡があった場所に、今の市街が造られとるんやな」
「一説によれば、そのヒュミリタスの古代文明は、現代では及びもつかないような高度なテクノロジーを誇っていたみたいよ」
「……!も、もしかして、街中の監視ができるのは……」
「ああ、もしかしたらラヴィアンは、アーティファクトで遺跡の再稼働に成功したのかもしれん。そういうことなら、街中の監視ができるのも納得や。領民全部が巨大な機械の中で暮らしとるようなモンやろうしな」
つまり、俺たちが街の中に侵入していることも、こうして話し合いをしている状況も筒抜けの可能性が高いということか。俺たちに許された時間は思ったよりも少ないのかもしれない。
「それで結局、刑罰はどこで実行されるっていうんだ?見たところ街の中で大々的にやっているわけでもなさそうだし……」
「なら、たぶん地下やな」
「地下?」
「遺跡のシステムをコントロールする制御室は、今ワイらが居る場所よりも下層にあったはずや。機能の中枢が地下に集約されとるんやな。刑罰の執行もひょっとしたら、地下にある施設を利用しとるんとちゃうか?」
ただでさえ広いこの街の下層に、さらに巨大な空間が広がっているってことか?
であればアーティファクトもきっとそこに――
「な、なるほど……!」
「詳しいねーアレクス!」
「まあワイは十年前の旅路でこのヒュミリタスを訪れた時も、何度かパーティを抜け出してお宝探索しとったからな。あん時見た限りだと、地下に意味わからん空間が幾つかあったのは覚えとる」
「そういえばアンタ、ちょくちょくパーティからいなくなってたわよね。誰も気に留めてなかったけど」
「うっさいわ!とにかく、構造自体は十年前とそう変わっておらんはずや。付いてこいや皆、ワイが遺跡内部への秘密の抜け道を案内したるで」
アレクスが先陣を切って歩き出す。街外れの方角を目指しているらしかった。すかさず、俺たちもそれに続いていった。
◇
一方、キアラは兵士たちに連行されることで、ステッドたちよりも一足先に遺跡内部への到達を果たしていた。壁には不思議な模様が描かれており、そこに色とりどりの光が走って周囲を煌々と照らしている。そんな通路をしばらくの間歩かされていた。インヴィディアは別の兵士に担がれている。
既に、少年とは離ればなれになっていた。
主犯かどうか、大人か子供か、様々な要因で罪の重さが変わってくるのかもしれない。しかし彼女にしてみれば、かえって好都合であった。
周囲には敵である兵士しかいない状況だった。
「お、おい!なんだよその女!めっちゃくちゃ可愛いじゃねえか!」
「まるでかつて一世を風靡した天下のスーパースター、キアラみてえな美しさだ!」
「持ってる人形も負けず劣らず可愛くって、並ぶとすさまじく絵になるな!」
「ま、まずい……もうひとりの俺が、急にクーデターを!」
突如連れて来られた見目麗しい罪人に、兵士たちは否応なしにテンションが上がっていた。
「こ、こいつを処分しないといけないのか……?いったい何をしでかしたんだ?」
「魔物の生き残りを街に引き入れていたんだよ。ラヴィアン様の定めた法では、これは重罪だ。間違いなく浄化刑になる」
「うーむ、もったいない……」
「ど、どうせ死んじまうなら、その前に俺たちが楽しんだって……」
そこで一斉に、兵士たちの下卑た視線がキアラに向けられた。
(そろそろ頃合いかな)
拘束されたまま、キアラは魔力を練り上げ魔法を展開する。
闇魔法:”魔風恋風”――!
桃色のあやしい風が吹き荒れる。
途端に、その場に居た兵士すべてがトロンと、恍惚かつ虚ろな瞳に変じた。
拘束も簡単に振りほどけるようになり、キアラは自由とインヴィディアを取り戻すと、魅了した兵士たちに向き直る。
「さあ、兵士たち!キアラちゃんに、この地下施設を案内するのよ!とにかく他の囚人が居るところまで連れていってもらえる?」
――はっ、すべてはキアラ様の仰せのままに!
こうしてキアラは一瞬でその場の全員を味方につけて、地下の探索を開始したのだった。




