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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第7章 凍てつく雪洞、謙虚なる賛美響きて
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浄化刑

「こ、これって……魔物……?」


 キアラは驚き、というよりは戸惑っていた。

 魔物を匿うという行為自体は、もはや彼女にとっておかしいことではなかった。魔のつく存在にも良い存在はいる、それが既に分かっているからだ。ただ勇者信奉者であるラヴィアンが、魔物の存在を認めるはずがない。少年が匿っている魔物が見つかった時どうなるか?それは想像するまでもないことだった。


(これは雪蜥蜴(スノーリザード)の子供だわ。これだけ極寒の地なんだし、きっと魔物を掃討し尽してはいないんでしょうね。生き残りが、外から迷い込んできたんだわ)


 キアラが固まっている内に、少年が立ちはだかるようにして叫ぶ。


「待って!お願い、見逃して!ブル助は悪い魔物じゃないよ!」


 少年の鬼気迫る瞳に、懸命に魔物を守ろうとする意志が見て取れた。キアラはまず警戒心を取り除くことから始めようとする。


「安心して、誰かに言うつもりはないわ。第一私にも魔族の友だちがいるんだもの。ねっ、インヴィー」

【デスデス♪】


 抱いている人形が声を発したのを聞いて、少年は驚いた。


「えっ、ま、魔族……?」

「その魔物、雪蜥蜴(スノーリザード)の子供よね?いったいどうしたの?」

「……ブル助は街に入り込んでいたのをボクが見つけたんだ。家族の元に返してやりたいけど、ボク一人じゃどうにもできないし……かといって街の人に見つかればきっと殺されちゃう」

「そう……だからこんな場所に匿っていたのね」


 見下ろせばブル助は、のんきそうに少年の足元にまとわりついていた。


「懐いているのね」

「うん……初めはボクだって魔物は怖かったさ。でも餌を与えたりして面倒見る内に、どんどんコイツのことが可愛くなってきてさ」

「……」

「思ったんだよ、魔物ってそんなに悪いものなのかなって。勇者様もラヴィアン様も魔物を悪しき存在だと、滅ぼすべき存在だと言っているけれど、本当にそれが正しいのかなって……」

「……そうね」


 インヴィディアを強く腕に抱き締めながら、キアラは返した。


「あっ……!ボ、ボクが今言ったことは……」

「ふふ、安心して。誰にも言いはしないわ。もちろん、この魔物のこともね」


 とかく安心させるように、優しく微笑みながら言っていた。

 しゃがんで、今度は魔物の方に視線を送る。


「この子、ブル助っていうのね」

「うん、街の片隅で震えていたから……」

「けっこう可愛いわね」

「えへへ、でしょ?眠そうな時にするトロンとした目が、ボクはとくに好きなんだ」


 少年はこの魔物のことがかなり気に入っているようだった。

 きっと、離れたいとは本心では思っていないだろう。それでも、ブル助の真の幸せを考えて、彼はブル助を家族の元に返してやりたいと思っている。


「……よければこの子の家族を見つけるの、あたしたちも手伝うわ」

「えっ!ほ、ほんとうに?」

「うん!すぐにってわけにはいかないけど……」


 あくまで優先事項はアーティファクトの破壊と、ラヴィアンの統治をどうにかすることだ。そうして後顧の憂いがなくなったところで、捜索を手伝ってやりたかった。なにせすぐに見つかるものではないだろうから。


 それに少年には言えずにいたが、もはや家族などどこにもいないのではないか、とも思っていた。そもそも魔物の幼体が単独で街に入り込んでいる状況がおかしいのだ。おそらく現在でも散発的に、魔物の掃討は実施されているだろう。最近退治された雪蜥蜴(スノーリザード)の中にブル助の家族がいて、頼る相手も帰る場所もなくしたブル助は、ひとりあてどなく彷徨ったあげく街に入り込んでしまったのではなかろうか。


 であればブル助の幸せは、きっとこの少年と共に暮らしてゆくことだろう。なればなおさら、まずはラヴィアンの統治を是正せねばならなかった。


「ねえ、知ってたら教えてくれる?ラヴィアンの居場所……それとアーティファクトっていう大きな宝石みたいな装置を……」


 そこまで言った時だった。

 突然ゴアッと、大きな火球が飛んできて、ブル助の体に勢いよく命中した。


「……!」


 ふたりは驚いて飛びのく。

 立ち上がる火柱の中で、ブル助は苦しそうな声を発していた。


「ブ、ブル助!」


 炎が収まる頃、少年は慌てて駆け寄る。

 ブル助の青白い体はすっかり焼け焦げて、ぴくりとも動きはしなかった。


「そ、そんな……」


 複数の足音が近づいてくる。

「ラヴィアン様の言った通りだ。本当に魔物が街に入り込んでいるぞ!」

「だがなんとか、住民に被害が出る前に仕留めることができたようだな」


 見れば兵士姿の男たちが四人ほど駆け付けて来ていた。

 彼らの放った火魔法が、無惨にもブル助の体を焼き尽くしたのだ。


「どうしてだよ!いきなり殺すことないじゃないか!」


 少年は目に涙を溜めながら、振り絞るようにして叫んでいた。

 しかし兵士たちの目は冷淡そのものだった。


「当然だろう。魔物など百害あって一利もない存在だ。さっさと処分するに限る」

「まさか魔物をペット代わりにでもしていたのか?気でも触れたか?」

「子供とはいえ、魔物は見つけ次第即座に始末せよという、ラヴィアン様の教えを知らぬわけではあるまい!」

「貴様は重罪人だ!ただで済むと思うなよ!」


 兵士たちが少年を拘束して、連れ去ろうとする。

 たまらずキアラは立ちはだかった。


「ちょっと!その子をどうするつもり!?」

「聞くまでもないことだろう?魔族や魔物に(くみ)することは重罪だ。鞭打ちや投獄程度では済まされぬ。この少年はきっと浄化刑に処されることだろう」

「じょ、浄化刑?」

「勇者様のご意志に(もと)るその悪しき魂を浄化することで、己の犯した罪を洗い清めるのだ!」


 言っていることは判然としないものの、どこか物々しい含みのある言葉だった。

 ブル助のみならず、この少年の命までもが失われる未来が、たやすく想像された。


 キアラは少年を助けようとするも、残り二人の兵士に拘束される。

「ちょっと!離して!」

「魔物の存在を認めながら、正しき行動を取らなかった貴様も同罪だ!これより裁きの間へと連行する!さあ、キリキリ歩け!」

「勇者様もラヴィアン様も、魔の存在しない平和な社会を希求されている!貴様らはそんな切なる想いを踏みにじり、唾を吐いたのだ!さぁ、その汚れた魂を修正してやるぞ!」


 無理やりに歩かされる。

 キアラはあまり抵抗せず、胸中で考えていた。


(あたしやインヴィーの闇魔法で、この状況を脱すること自体は容易。でもどうせなら、ここは大人しく捕まっておきましょう。相手の懐に入り込んで、このヒュミリタスの実態を見極めてやるわ)


 こうして少年とキアラは、兵士たちに連行されていった。

 後には、焼け焦げた蜥蜴の死骸ばかりが残された。



 ◇



 ――街中でステッドとクモラが、見知らぬ男に呼び止められた場面に移る。


「ど、どーして俺たちがよそ者だと?」

「いや、アンタらのさっきの様子を見ていたんだが、どうにもうっかりお辞儀を忘れていたようには見えなくてな。本当に、なんにも知らないように思えたんだ。このヒュミリタスで暮らしている者で、勇者像にお辞儀するルールを知らない奴なんているわけないってのに」

「そ、そうか……」


 なんて勘のいい男だと、俺は思った。


「俺たちはこの氷雪に閉ざされた土地で、まるで閉じ込められるようにして生きている。誰しもが外の世界に憧れている。その外から、アンタらは来たんじゃないかって……」

「……そうさ、俺たちはたしかにヒュミリタスの外から来ているよ」


 誤魔化すことなく言っていた。

 俺にはこの男に正体を見抜かれたことが、脅威というよりは渡りに船だと感じたからだ。それに男の目には敵意でなく、まるで助けを請うような色が見て取れた。


「や、やはり……!」

「実は……」

「おっと!それ以上は話さない方がいい!」


 男は不自然に、俺たちから距離を空け始めた。

 しばらくしてからボソッと、小さく言った。


「これから言うのは、単なる俺の独り言だ。答えなくていい」


 そう言って言葉を続ける。

「俺は去年、かみさんをなくしちまった。まだ腹の中に子供がいる状態だったのになぁ……兵士にむりやり連れていかれちまった」

「……」

「なんで連れていかれたかは分からない。今でも帰ってこない、面会もできないってなると、きっと浄化刑に処されたんだろうなあ。もしかしたらどこかで、勇者様を批判するようなことを言ってしまったのかもしれない」

「じょ、浄化刑?」


 思わず、聞き返してしまっていた。


「簡単に言うと死刑さ。ラヴィアン様は、勇者様を尊ばぬ者を人間扱いしない。その汚れた魂を死で以て洗い清める……だから浄化刑なのさ」

「殺されるっていうのか?たかが勇者を批判したくらいで!」

「たかがじゃないさ。このヒュミリタスで、勇者様は神にも等しき存在なのだから……」


 そう言って、俺たちの方を見た。


「実は俺も、昨日うっかり家で、勇者様を批判するようなことを口走ってしまった。酒で気を紛らわすのが日常になっていたからな……ついつい酔ったはずみで、本心が口を突いて出ちまった。俺もまもなく兵士たちに連行されるだろう」

「な、なんでだよ?家でぽろっと言っちまっただけなんだろう?」

「それですらダメなのさ」

「だいたいなんで、それが兵士たちに分かるんだ?」

「おそらく監視されているんだよ……この街全体がな」


 男は、この巨大洞窟に広がる街並みを見渡すように言っていた。

 信じ難い言葉だった。


「そんなことが……」

「だが本当にちょっとしたことでも、隠れてやったつもりでもバレてしまうんだ。街中が得体の知れない力で監視されていると考えなければ説明がつかない。ごく当たり前の日常風景として、この街では兵士たちに人々が連行され続けている」

「……」

「俺も前に連れていかれたことがある。その時は軽い鞭打ち程度で済んだんだが、昨日は結構酒が入ってしまって、随分とめったなことを言っていたからな。今度連れて行かれたら、俺はきっと生きては帰れないだろう……」


 そこにざっざっと、兵士が複数やって来るのが見えた。


「……!」

「来たか、まあ観念していたよ」


 最後に男は、俺たちに真摯な眼差しと言葉を送る。


「アンタらに逢えてよかったよ。外の世界がどうなっているのかは知らないが、来れるってことは少なくとも外の世界は変わり始めているんだろう?どうかこの街も変えてやってくれ……俺たちはもう、こんながんじがらめの生活はうんざりだ……」


 男は、駆け寄る兵士たちに、とくに抵抗することなく捕まった。

 連れ去られる様を見送った後、俺たちは走り出す。


「クモラ、後を追うぜ!そして此処の統治の実態を突き止めよう!」

「うん!行こうステステ!」

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