おたのしみ――withキアラ&インヴィディア
インヴィディアとの決着から一週間ほど、俺たちはグラティアスの中心街に滞在することになった。戦闘後の主たることは前述の通りで、あとは気ままに街をぶらついたり花畑を散策したりしていた。こと観光においては、世界でも一位二位を争う土地かもしれない。
ひとしきり英気を養ったら、次は世界最北の地ヒュミリタスを目指して旅立つ。極寒の土地と聞いているので、防寒着を始めとした旅支度をしっかり済ませておいた。
――そして出発前日の夜、俺はまたしても素敵な経験をすることになる。
場面は中心街にある宿屋。クモラたちも既に床に着き、さて俺も眠ろうかと自室の扉を開いたところ、妙なものに気が付いた。なにやらベッドが膨らんでいるのだ。
(こ、こりゃいったい……?中に何かあるのか?)
そう思い布団を捲り上げたところで、ぶったまげてしまった。
当然だ、まさか人が居るとは思うまい。
「待ってたよーステッド♪エへへ、来ちゃった……♪」
なんとも!
そこには白いネグリジェに身を包み、上目遣いで微笑むキアラの姿があったのだ。ツインテールは解いて、長いショッキングピンクの髪を後ろに流している。
「ふぁっ……!?キ、キアラ!?いったいぜんたい、どうして俺の部屋に!?」
「どうしてって、お布団を温めておいたのよ。インヴィーと一緒にね♪」
【デスデス♪】
見れば、更に布団の中からブロンドベージュの髪の可愛らしい人形が這い出てくる。彼女はキアラと同じようなデザインの黒いネグリジェを着ていた。人形はすぐにキアラの隣まで行き、二人は姉妹のように体をくっつけ合う。
【ア……!デモワタシタイオンガナイカラ、オフトンヲアタタメラレテナイノデス……】
「大丈夫よインヴィー、貴女の温かな気持ちはきっとステッドに伝わってるはずよ」
えーと……伝わるも何も、俺はまだこの状況を受け止め切れてないのですが。
「な、なんでまた、俺のベッドに……?」
「またまたー♪分かってるくせにぃ♪」
艶やかに笑いながら言う。
こ、これはあれですか?据え膳というやつですか?そうなのですか?
キアラは俺の腕にしがみつき、ベッドに引き込みながら、
「ありがとねステッド……貴方がいなければ、あたしはきっと元の体に戻れなかったと思う。それどころか心を入れ替える機会すらも得られず、今も増長したまま、領民を顎で使って悦に入っていたかもしれないわ。あたし、とっても感謝しているの」
「キアラ……」
「感謝しているのは勿論インヴィーもおんなじよ」
【デスデス♪】
インヴィディアは、キアラとは反対サイドから俺の腕にすがりつく。
【トーッテモカンシャシテイルノデス♪コレカラハ、コノスバラシイカラダヲクレタステッドトマオウサマノタメニ、セイイッパイガンバリマスカラドーゾヨロシククダサイデス!】
「そ、そうか……!よろしくなインヴィディア……」
うう……左右から美女がいい匂いを振りまきながら迫ってくるものだから、ついつい鼻の下が伸びてしまう……!
キアラはダメ押しとばかりに、ネグリジェの胸元を引っ張って悩ましげな仕草をしてみせる。
「ウフフ♪そういうわけだから、ステッドに何かお礼がしたいねって、ふたりで話し合っていたのよ。いろいろ考えてもみたんだけど、やっぱりステッドはこういうのがいちばん喜ぶかなって」
(はうう……!俺のスケベ心がしっかりと見透かされて――!)
いや見抜くまでもないことだった。
だって戦いの最中に、這いつくばって下着を覗いたりとかしてたしな……
不思議なモンで、向こうからグイグイ来られると、喜ぶよりも先に身構えるような気持ちになってしまうのだ。これも悲しいほどモテてこなかった男ゆえに、警戒心の方が先立つからだろうか?一応マルグリットさんやシーナと懇ろになったこともあったが、そのような経験があったとて、俺の性根は昔とあまり変わっていないのかもしれない。
俺は何故だか、とっさにスケベ心をごまかすような発言をしてしまう。
「お、おいおい……!俺がいつもいやらしいことばかり考えてるような、そんなどうしようもない男だと思わないでくれよ?こう見えて、俺は硬派な男……」
「ふーん、硬派……ま、まあたしかにね……」
キアラの声にはいささか羞恥が混じっていた。
気になって表情を伺うと、頬を赤らめながらなにやら一点に熱く視線を注いでいる。よく見ればインヴィディアもぽーっと同じ箇所を見つめていた。
視線を追えば、なんということか、俺の硬派な相棒がズボンの下から思い切り存在をアピールしていたのだ!
(くっ、さすがは俺の相棒だぜ……!どんな時でも己を曲げず、決して自己主張を怠らない……!)
なんだか自分のイチモツに、漢気で負けた気分だった。
ふたりは俺の股間に目を向けながら、気恥ずかしそうに言葉を交わす。
「わわっ、すっご……!ズボン越しでもおっきくなってるのがまるわかりなんだけど……」
【ゴ、ゴリッパデス……】
「恥ずかしがってちゃダメよ、インヴィー。これからいっぱいご奉仕する相手なんだから。ほらお辞儀」
【ヨ、ヨロシクオネガイシマスデス……】
ふたりして俺の相棒に向かって頭を下げる。なんだこれ。
しかし相棒はとっくに据え膳はよせいモードだ。だめだぁ、俺のなけなしの理性が吹き飛んでしまうぅ!
「いや、ふたりとも!気持ちは嬉しいんだがな!」
「なによー、ひょっとしてクモラに遠慮してるの?」
「そ、それは……あるかも」
「それなら大丈夫よ。あの娘はそんなこと気にしないと思うわ。なんか腹立つくらい正妻の余裕かましてるし」
「せ、正妻って……!」
「貴方の一番が誰かなんてことは分かっているわ。でもお願い、今夜だけはあたしたちのことを見てほしいの」
そう言ってキアラはネグリジェを脱ぎ始める。
間もなくインヴィディアもそれに続いた。
薄暗い部屋の中で、ふたりの美しい裸体が露わになる。
「来てステッド、どうかあたしをめちゃくちゃにして……!」
「……そ、それは、キアラに色々けしからんことをしてもよいと、そういうことでございましょうか?」
「うん♪ステッドのしてほしいことなら、なんでもしてあげるからね」
ん?今、なんでもって……
言ってる!たしかに俺に向けて言ってる!
「いいのかよ!?俺はとんだスケベ野郎だぜ!?うっかりなんでもなんて言ったら、後悔することになるかも……」
「するわけないじゃない、だって貴方のことが好きで言ってるんだし……ね、インヴィー?」
【ソノトーリデス!】
「マ、マジでいいのか!?」
「あたしは世界中を魅了したスーパースターだけど……今夜は、貴方だけの一番星になりたいの……!」
「……Really?(本当に?)」
「Exactly(その通りでございます)」
キアラは明るく微笑みながら言っていた。
この時、俺の理性のタガは外れてしまった。許してくれ、男はな、一皮むけば狼になってしまうんだ……!
俺は辛抱たまらずに、二人をベッドに押し倒した。
そして欲望の赴くままにメイク・ラブ。
「ひゃあっ!ステッド、それ以上はらめえ……!」
【セッカクノカラダガ、コワレチャイマスゥ……!】
「FOOOOOOOOOOOOOOO!YA!YA!Holding the beautiful girls in both hands, squeaking the soft bed!I'm not lying, try asking my girls……!」
――そうしてベッドの軋む音とともに夜は過ぎ、鳥のさえずりの中で朝を迎えた。
え?どうだったかって?
最高だったぜ……筆舌に尽くしがたい極上の夜だった……
俺はご満悦といった表情でにへにへ笑いながら、花ざかりの道を歩いている。
傍らのクモラとアレクスが怪訝な目を向ける。
「なんやステッド、ずいぶんと上機嫌やな」
「なにかイイコトでもあったのー?」
「いーや、なんでもー」
俺の気持ちの悪い笑みと、首筋に残された跡を見て、ふたりは得心がいったような顔をした。
後ろの方ではキアラとハンナが並んで歩いている。
キアラはあの白いミニスカート衣装ではなく、質素な旅装束に身を包んでいた。そして彼女の腕にはインヴィディアが大事そうに抱えられていた。
「ねえキアラ。アンタもう、あのバカみたいな衣装は着ないわけ?」
「着るわけないじゃない、キアラちゃんは今日から旅人よ?まーでも、ステッドがどうしてもってお願いしてきたら、話は別だけどね」
なにやら上機嫌なのはステッドだけではなかった。
「キアラ……アンタ、あいつとしたでしょ?」
ハンナが目線を送らず、前方を見据えたままで尋ねる。
「エヘヘ、まーね♪」
「まったく物好きがいたものね……よくもあんなスケベ野郎と夜を過ごす気になれるものだわ」
ハンナはそう吐き捨てるように言った後、少し小声になりながら、
「それで……どうだったの?」
「へ?」
意外な反応だった。
キアラは昨晩の情事を思い出しながら、うっとりとした表情で返す。
「エヘヘ、すっごいいっぱい求められちゃった……♪すごい激しくて、でもすごい優しかったの……」
「ふーん、へー、そー」
「うらやましい?」
「なわけないでしょ……でもまあ、素敵な思い出になってよかったじゃない」
「そうね……でもきっと、これっきり、なのよね……」
キアラは憂いを帯びた瞳で、前方のクモラに視線を送った。
「ステッドは昨晩、あたしたちをいっぱい愛してくれたけど……彼にとっての一番が誰であるかなんて、聞くまでもなく分かっていることだわ」
やけにしんみりとした声音で言っていた。
「皮肉なものね。スーパースターとして世界中の人を魅了してきたのに、生まれて初めて本気で恋した人にだけは振り向いてもらえないなんて…………なんだか妬けちゃう」
急にぷくっと頬を膨らませて、子供っぽくボヤいた。
それを見て、ハンナがおかしそうに笑いながら言う。
「ふふっ、いいんじゃない?それで」
「はぁ?なんでよ?」
「この前、説明したでしょ?太極はね、人間が悪徳に、魔族が美徳に歩み寄ることで発生するのよ。アンタの相方は嫉妬の化身なんだから、つまりアンタは嫉妬してなくちゃいけないのよ」
「はぁー!?なによそれー!」
憤慨するキアラの腕の中で、インヴィディアが元気よく尋ねてくる。
【ジャアワタシハ、シットカラトオザカレバイインデスネー?】
「そーいうことになるわね。ちなみに嫉妬に対応する美徳は、たしか感謝とかだったはずよ」
【インヴィーハ、ステッドトマオウサマニイッパイイッパイカンシャシテイルノデス!】
「あらそう、それなら大丈夫そうね」
ハンナは珍しく微笑みで返していた。
そんな珍現象もどこ吹く風と、キアラはひとり胸の中で決意を新たにする。
(いいわ、こうなったらもっともっと魅力的になって、絶対に彼を振り向かせてみせる……!油断しないことねクモラ!うかうかしていたら、あたしが掠め取っちゃうんだから……!)
不敵に浮かべる笑みに、かつての邪悪さはどこにもなかった。
こうして、花ざかりの道は通り過ぎていった。




