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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第6章 花ざかりに散る、感謝を集いし星
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VS.嫉妬の化身、インヴィディア

 中央ステージでは、既に本日のライブが終了していた。

 領民たちはぞろぞろと日常生活に戻ってゆき、インヴィディアは舞台上で独り充実に打ち震える。相変わらず瞳に生気はない。


「ククク……サイコーダナ!誰モ彼モ、憧レト羨望ノ眼差シヲワタシニ向ケル。アノ女ハズットコンナイイ思イヲシテイタノカ!ダガアイツハ、モハヤ醜ク無様ナ姿ニ成リ果テタ。コレカラハズット、コノインヴィディア様ガ人民ノ称賛ト敬愛ヲ集メ続ケルノダ!」


「悪いがそうはいかねーぜ?」


 インヴィディアは何事かと振り返る。

 俺はキアラを抱えたままで、舞台袖の方から姿を現していた。傍らにはクモラが、後方にはアレクスとハンナも控えている。


「アン?キアラカ、マタ性懲リモナク体ヲ取リ返シニ来タナ。ソレデナンダ、テメーラハ?」

「行きずりの旅人さ。返してもらうぜ、キアラの体を」


 靴を鳴らして近づいていく。

 インヴィディアはクモラの方に目を移して、得心がいったような顔をした。


「オヤオヤ、ソノ気配……!モシカシテ魔王サマジャアリマセンカ?」

「そうだよ。わたしは魔王モラクレスの新たなる姿――魔王クモラ」


 クモラはすました声で言いながら、俺より一歩前に出る。


「ククク……ハハハハ!ソウカ、勇者ニ肉体ヲ滅ボサレタカラ、仕方ナクソンナ弱ソーナ体ニトリツイタノカ。ザマーネーデスネ?魔王サマァ」

「インヴィディア!魔王として命じます!すぐにその肉体をキアラに返してあげて!」


 魔王であるクモラが命令すれば、案外すんなり事が運ぶかもしれない。そう思ってのことだったが、むしろインヴィディアは一層表情を不愉快げに歪ませて叫ぶ。


「アァ!?魔王サマノ命令ダァ!?ンナモン知ルカッテノォ!ヴァ~カ!」


 キアラの声だというのに、非常に耳障りな聞き心地だった。


「魔王の命令が聞けないというの!?インヴィディア!」

「当然ダロ~!テメーガワタシヲ、アンナニモ醜ク弱ク生マナケリャ、今マデ苦労セズニ済ンダンダヨォ~!ワタシガ七大罪ノ中デ弱卒トシテ扱ワレテキタノモ、配下ノ魔族ヤ魔物タチニサエ侮ラレテキタノモ、ゼンブテメーノセエダロ~ガァ~!ソンナ奴ノ言ウコトナンカ聞クワケネーダロォ!馬鹿ガヨォ~!」


 よくもまあキアラの麗しい声で、ここまで人を不快な気持ちにできるものだ。

 言葉だけでなく、音の響きも振る舞いも、何から何まで汚らしい。


「インヴィディア……」

「やっぱ説得はむずそうだな……仕方ねえ、クモラ!無理にでもキアラの肉体を取り戻すぞ!」


 俺はキアラを舞台の片隅に降ろすと、戦闘態勢をとる。クモラもそれに続く。


「まあ、これはむしろ好都合かもしれん。インヴィディアと反目して魔王の力が削がれる可能性を恐れとったが、ハナから魔王に協力的でないなら遠慮は要らんわな」

「そうね。思えば十年前の旅路で、コイツとアーケディアだけは遭遇すらしなかったけど、コイツに関してはきっと弱すぎて出て来れなかったんでしょうね。元のお粗末な体に戻してやるとしましょう」


 言いながら、アレクスとハンナも前方へと踏み出してくる。

 インヴィディアもそこでようやく、二人の正体に気が付いたようだった。


「アン?ドッカデ見タ面ダト思エバ、勇者パーティノ商人ト神官ジャネーカ。人相書キデ見タ覚エガアルゾ。敵デアルハズノ連中ト行動ヲ共ニスルナンテ、イヨイヨヤキガマワリマシタカ?魔王サマァ」

「違う!わたしたちは世界を立て直すために旅をしているの!そこに魔王も勇者も関係ない!」

「ソーカソーカ、ソレデモ、ワタシガイイ思イヲスルノダケハ駄目ダッテ言ウンダナ?クソガヨォオオオオ!ムカツクゼェエエエ!ドイツモコイツモヨォ!」


 インヴィディアは叫び終わると、パチンと指を鳴らす。

 すぐ近くで待機していたのか、領民たちが颯爽と背後の舞台袖から現れて、インヴィディアを取り囲むようにして守り始める。”悲しき玩具”が発動しているからか、領民はみな筋骨隆々で正気を失っている。


 ――キアラ様をお守りするのだぁ!

 ――近寄るなぁ!不届き者どもめ!

 ――タチサレ!タチサレ!


「コイツラハ世界ノ為ニ戦ッテイル!ナラ罪モネエ領民ヲ傷ツケラレルワキャネエナア!テメーラァ、身ヲ挺シテコノワタシヲ守リヤガレエェ!」


 領民たちは肉の壁を築き上げ、堅固に立ちはだかる。しかし街中から大集結していた昨日に比べれば、なんてことない人数だった。


 アレクスが得意げに歩を進めながら、ごそっと懐をまさぐる。青い液体の入った小瓶を取り出す。


「まあそうくると思っとったわ。やがその程度の人数やったらなんてことないで!これで終いや!」


 小瓶ごと薬品を投げつける。

 床に落ちて割れるとともに液体が気化して、青いガスが辺りに充満した。


「ナ、ナンダ……?」


 インヴィディアは警戒して後ずさる。直後、領民たちは泡を吹いて昏倒し、肉の壁は容易に瓦解した。


「ナンダト!」

「お手製の麻痺毒や!しばらく動けんくなるだけやから害はない!おら、観念しいや!」

「チィ!」


 またしても指を鳴らす。

 ステージ内にはまだ控えていた領民がいたのか、次から次へと飛び出して、大急ぎで舞台までやって来る。


「くそ、まだおったんか!」

「足止めするわ!太極して魔力を奪いなさいアレクス!」


 そう言ってハンナは錫杖片手に飛び出すと、それを突き出すようにして掲げる。突如、先端がビカッと光ったので、駆け付けた領民たちは一瞬だが目を押さえて動きを止めた。


「ナイスやでーハンナ!」


 アレクスはグーラを呼び出すと、太極を開始する。

 そして紅いカメレオン姿になると、緑の舌を伸ばして領民たちを次々からめとっていく。魔力を奪い、吸収が終わると地面に放る。みな元の姿に戻って、気絶した状態で横たわっていた。


「チキショー、グーラダトォ?同ジ七大罪ノ仲間デアリナガラ、ドウシテワタシノ邪魔ヲスル!?ムカツクゼェエエ!」


 インヴィディアは叫びながら両手を掲げ上げる。どうやら闇魔法を全力で発動させているらしかった。黒紫色の濁った風が街中に吹き荒んだ。


 猛烈な音が聞こえてくる。

 初めは地鳴りでも起きたのかと思ったが違っていた。足音だ!気付けば街中の人々が、人間とは思えない跳躍力で建物を飛び越えて、一気に中央ステージまで大集結しようとしていた。昨日と同等か、或いはそれ以上の人数に思えた。


「ヤハリ魔力ニ溢レタ素晴ラシイ体ダナ!絶対ニ返シテナルモノカ!愚民ドモォ!死ンデモワタシヲ守リヤガレェ!」


 まるで津波のように、人の群れがやって来る。


【うう、なんちゅう数や……!】

「あんなに来られたら対応しきれないわよ!」

「ならここまで来させなきゃいい」


 俺はそう言いながら舞台前方に向かって、怒涛のごとくに押し寄せる領民たちに対峙する。そのまま傍らのクモラに声をかける。


「クモラ!太極するぞ!」

「うん!」


 白と黒の光が迸り、尾と翼を生やし鎧を纏った漆黒の影となる。

 俺は急いで闇の魔力を練り上げると、腕を掲げて周囲に撒き散らした。


 闇魔法:”暗夜行路”――!


 真っ黒い霧が辺り一面に充満する。途端に、領民たちは急に目標を見失ったかのように、動きを止めて狼狽し始めた。


 ――な、なんだ!?急に辺りが真っ暗に!

 ――暗くてなんにも見えな~い、なぜ、明かりを消したんですぅ?

 ――ここはだれ?わたしはどこ?

 ――キアラ様ー!どこにおられるのですかー!


 五感を閉ざし、外界の情報を完全にシャットアウトする魔法であった。彼らの視界は現在、無明の闇に塗り潰されていることだろう。そしてこれほど効果範囲の広い魔法ではなかったが、例の"闇椿"の要領で放つテクニックで広く拡散することに成功していた。


 領民たちはみな、誰も舞台にたどり着けないままに右往左往し続ける。


「ナ、ナンダトォオ!」


 渾身の闇魔法が簡単に機能不全に陥ったのを見て、インヴィディアは声を荒らげた。

 もはや彼女を守る者は誰ひとりとしていなくなっていた。俺は彼女に向き直ると、ゆっくり追い詰めるように歩を進めていく。


【勝負は決まったぜ、インヴィディア】

「ウウ……チクショォ!チクショォオ!ドウシテダヨォ!ソンナニワタシガ幸福ニナルノガ悪イッテノカァ!?」

【そうじゃねえ!やり方が問題だって言ってんだ!】

 俺も負けじと語気を強める。


【俺だって才も能もねえ、おまけに醜い面で生まれてきた身だ。だからお前の気持ちは痛いほどよく分かる。だがそれは、他人の努力や功績すらも奪って、自分のものにしていい免罪符にゃならねえ!】

「エラソーナコトヲ、ホザクンジャネエェ!テメーハナンダカンダ運ニモ仲間ニモ恵マレタカラ、ンナコトガ言エルンダローガァ!ナンニモネエワタシハ、コンナコトデモシナキャ幸福ニャナレネーンダヨォ!」

【運か……そうだな、たしかに俺は運には恵まれたよ】

 決して語気を緩めず、敢然と立ち向かう。


【けど今だからこそ言える……それは俺が諦めずにここまで歩み続けてきたからだ。生きることを諦めなかったから、俺はクモラに出会えた!そして人を助けることを諦めなかったから、仲間にも恵まれた!こんな俺でもだ!お前だっておんなじはずだ!】

「オナジナモノカ!」

【同じだ!あの醜い姿のままでも、勇気をもって悩みを聞かせてくれたら俺は相談に乗っただろうぜ!だがお前はキアラの肉体を乗っ取り、ましてやキアラのこれまでの頑張りや成果さえも奪って幸福になった気でいやがる!お前がその所業を改めない限り、俺はお前の味方をすることはねえ!】

「ナンダトォ……」

【見目麗しい姿に成れてご満悦のようだがな!俺がガツンと言ってやる!今のアンタがいちばん醜いぜ!】


 そこで少し、息を切らす。

 言いたいことを言い切って、呼吸が荒くなっていた。しかしインヴィディアはこれよりさらに荒ぶっていく。


「ウゼェ」


 ぐわぐわと、ツインテールにまとめた髪が蠢き始める。


「ウゼェウゼェウゼェ」


 房が枝分かれして幾本もの触手のように動き出し、先端が槍のように鋭利となる。

 そして襲い掛かってきた!


 闇魔法:”みだれ髪”――!


(これは、キアラでなくインヴィディアの魔法か……!)


 舞台をめちゃくちゃに壊しながら、尖った髪が迫る。だがここまで戦い抜いてきた俺たちに躱せない攻撃ではない。


「死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ!」


 むしろキアラの方が心配だった。

 髪を回避しながら後方に目を向けるが、アレクスとハンナがキアラを守りながら退避に徹していた。まったく、頼りになる奴らだぜ……!


「死ニヤガレェエ!」


 インヴィディアの威勢もむなしく、蠢く髪は掠りもしなかった。

 奴が気づく頃には、俺たちは至近距離にまで差し迫っていた。


「ナニィイ!?」

【ジ・エンドだ】


 俺は凝縮された闇の波動を奴の腹に叩き込んだ。


 闇魔法:”破戒”――!

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