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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第6章 花ざかりに散る、感謝を集いし星
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キアラ領の現状

 明くる日、俺たちは再び中心街を目指して歩き出す。クモラの体調もとくに問題なさそうだった。花ざかりの道を過ぎ、いよいよ中心街が遠景に見え始める。道すがら、俺たちはこれから対峙すべき相手について話し始める。


「スーパースター、キアラか……いったいどんな相手なんだ?」

「まあ支援と妨害に秀でとるかんじやな。少なくともダニヤンやハインリヒほど強くはないわ。ただキアラは闇魔法を得意としとる。あんさんも分かっとるとは思うが闇魔法にはうざったい効果のモンが多いからな、油断は禁物やで」

「闇魔法?人間でも使える奴がいるんだな」

「当然や、まあ魔族と違って人間で使えるのはレアやけどな」


 ここから少し、魔法についての補足を聞いた。

 まず世界に六つの属性が存在するのは周知の通りだが、そのうち四属性と呼ばれる火、水、風、土の四つは人間と魔族どちらにとってもありふれた属性であるらしい。

 残りの光と闇は少し特殊だ。光魔法は人間には使い手が多いが、魔族には少ないらしい(いないわけではない)。そして闇魔法はちょうどその逆であるとのこと。つまり魔族にとってはありふれた属性だが人間で使えるのは珍しいというわけだ。


「それと魔力系統についてやが、キアラは魔法使い系と神官系の中間あたりになる」

「要するに前衛か後衛かで言えばばっちり後衛なわけだけど、さっき言ったように支援と妨害両方を得意としているってわけね」

「ただ、どっちかって言うと妨害の方が得意やったな。とくに相手を魅了状態にする魔法に秀でとる」


 魅了……その言葉を聞いて、嫌な予感がした。


「魅了か。も、もしかして……」

「ああ、まだ街には着いとらんが、正直街がどうなっとるかについては予想がついとる」

「あのクソ女のことだもの、どんな統治をしているかなんて想像に難くないわ。これが賭け事だったら、賭けが成立しないレベルで分かり切っていることよ」


 話を聞いていて、俺も何となく街の様子が読め始めていた。

 更に歩を重ねて、俺たちはとうとうグラティアスの中心街へと辿り着く。


 街並みは、途中で見てきた花畑にも負けず劣らず美しかった。綺麗なレンガ造りの建物、精緻に区画された広い通り、手入れの行き届いた花々の咲き誇る公園、空に虹を掛ける噴水……一見すると街は平和そのものに見えた。行き交う人々もみな幸福そうに暮らしている。


「な、なんかすげー平和なところだな……」

「綺麗な街だねー!」

「ああ、美しい街や……表向きはな」

「正直、既に嫌な予感がしてるわ、私」


 ハンナの言葉はすぐに現実になる。

 ハインリヒがやっていたような風魔法の応用技術か、急に街中に音声が流れ始めた。


『ピンポンパンポーン♪これより中央ステージにて本日のライブが開催されます。今日も張り切って歌うから、みんなふるって参加してねー♪』


 殊更に明るい調子の、女性の声だった。

 驚いたことに、今の音声を聞いた途端、街の人々が一斉に正気を失ったように走り出し始めた。


 ――キアラ様のライブが始まるぞ!

 ――すぐに中央ステージまで向かわねば!

 ――急がなきゃ、急がなきゃ!


 一人の例外もなく、みな我先にと駆け出し始める。猛烈にトイレを我慢していた時でも、親が危篤と聞かされた時でもきっとあそこまで速くは走れまい。


 おまけに周囲に対する意識も散漫なようだった。ひとりの少年が、勢いよく走ってきた男に弾き飛ばされて、地面に倒れこむ。突き飛ばした男はまったく意に介さない。加えて、もともと噴水近くの人口密度が高い場所だったので、倒れた少年は次から次へと走って来た人にぐちゃぐちゃに踏みつけられてしまう。


「……!」


 俺もクモラも、驚きに目を見開く。


「お、おい坊主!大丈夫か!」


 俺は心配して駆け寄るが、少年はボロボロに傷つきながらもまったく気にしていないようだった。俺の方には目もくれず、立ち上がるとステージのある方角へ向けてふらふら歩き出す。


 ――い、いかなくちゃ、はやく、キアラ様のライブに……


 傷だらけのままで去りゆく少年を、俺たちは唖然として見送った。


「やっぱりね……平和に見せかけて超絶異常事態だわ」

「ああ、こりゃ領民全員を魅了しとるな、キアラの奴……」


 元勇者パーティ両名が、苦々しい顔で光景を見つめていた。




 やがて、俺たちは領民の後を追って中央ステージとやらへ辿り着く。

 かなり大きな半円状の、開放型の建造物だった。ただし客席側に屋根のような造りがある。半円の円側が段状の観客席となっていて、駆け付けた領民たちがところせましと席に着いている。観客席の反対側には大きな舞台が設置されており、豪華な照明器具や音響装置が備え付けられていた。


 ステージはまだ暗かった。領民たちはライブが始まるのを今か今かと待ちわびている。

 俺たちは観客席の背後に立って様子を窺う。席が足りないのか、立ち見になっている客は俺たち以外にもいたようだった。


 しばらく待っていると、急に騒がしい音楽が流れ始めるとともに、舞台が煌びやかな光で彩られ始める。それに伴って舞台袖から、洒落た衣装を着たバックダンサーとおぼしき連中が流れ出してくる。男はタイトでシックな、女はキュートでフリフリな衣装だった。


 音楽と踊りに釣られて観客のテンションも上がり始めていたようだったが、或る時それは最高潮に達する。


 舞台の床がせり上がるようにして、一人の女性が姿を現した。ショッキングピンクのツインテールに、フリルの付いた白いミニスカート衣装。マイクを片手にご機嫌な笑みを浮かべていた。


『みんなー♪今日も私のライブに来てくれてありがとー♪キラ☆キラ☆キアラちゃんでーす♪』


 うおおおおおおおおおぉ!キアラ様ー!

 かわいー!

 愛してますぞー!

 我に微笑みかけてくだされー!

 ああ、キアラ様に踏まれたい……!


 そこかしこで、叫び声のような声援が上がる。たまらず俺たちは顔をしかめた。


『それじゃーさっそく始めよっか♪まずは定番、「恋のトキメキ☆アブダクション」!』


 急に流れる音楽の曲調が変わる。

 より明るくて軽い調子の、ポップな印象だった。まずは前奏のようで、その間キアラは可愛らしい振り付けで踊り始める。そして歌い出した。


『愛する貴方に逢いたいー♪』

 Hu!Hu!

『ふるえる気持ちつたえたいよー♪心の底から♪』

 キアラちゃーん!

『貴方に抱きしめられたいー♪』

 Hu!Hu!

『そのまま連れ去ってほしいのー♪愛のかなたに♪』

 キアラ様ー!


 周りを見渡せば、観客たちはどこから取り出したのか、みな光る棒を持って統率された動きでライブを盛り立てている。


「なんだよ、これ……」

「異常なテンションやな……」

「とにかく、このくだらないライブが終わるのを待ちましょう。そのあとでアーティファクトを探すわよ」

「せやな、おそらくアーティファクトはこのステージのどっかにあるんやないかと思うわ。アーティファクトで魔法を強化して、領民全員を魅了しとる状態なんやろうな」

「よし、とりあえずライブが終わるのを待つぞ」


 俺たち三人が固まって作戦会議をしている傍らで、クモラだけは目をキラキラ輝かせて、楽し気に舞台を見つめていた。歌に合わせて体を揺らしている。まあ、楽しめるならそれはそれで……ぶっちゃけ歌も踊りもかなりレベルが高いしな。


 それから、ひとしきりライブは続いた。


『la♪la♪いつまでも貴方のその場所に♪私を捕らえて心を繋ぎ留めて♪』

 キアラ様好きだー!

『la♪la♪これからは愛だけを抱きしめ♪二人の未来を明るく照らしてゆく♪』

 愛してるー!

『今すぐ貴方に逢いたいー♪』

 Hu!Hu!

『なにもが手につかないのよー♪それもそのはず♪』

 キアラちゃーん!


 ・・・・

 ・・


 やがて数曲の披露が終わると、舞台は暗転した。

 観客たちはみな、正気に返ったようにして掃けてゆく。


 ステージ内に誰の姿もなくなったことを確認すると、俺たちは動き始めた。


「ようやっと終わったな。さてアーティファクトを探すで」

「あーうるさかった。相変わらずくだらない音楽ばかり作りやがるわね」


 そ、そうか?確かにやかましい曲調だったが、結構よかったと俺は思うんだが……

 まあハンナは賛美歌とかの方が聞き慣れているのかもしれないし、ああいったいわゆるアイドルソングは波長が合わないのだろう。


 俺たちは観客席を下ってゆき、舞台の方へと歩み寄ってゆく。


「みんな急いでアーティファクトを探すで。今ならキアラも引っ込んどるし、うまくいけば戦わずして破壊できるかもしれへんで」

「そうだな、早く手分けして探そう!」


 俺がそう言った時だった。

 舞台袖からカツカツと、ヒールが床を響かせる音が聞こえてきた。

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