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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第6章 花ざかりに散る、感謝を集いし星
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アヴァリティアの冒険①

 世界の南にはテンペランティアと呼ばれる広大な森林地帯がある。

 かつて商人アレクスが不純な動機で動物愛護を叫び、人々に過酷な暮らしを強いていた土地であったが、今では解放され元の王国へと戻りつつあった。


 そこに今、とある盗賊が身を潜み、己の傷を癒していた。


「くそ、まだ痛むな……アルバートの野郎、本気でやりやがって」


 ところは崖の上の洞窟の中。(むしろ)を敷いた上に一人の男が座っている。

 萌葱色の逆立った髪に黒いマスク、カーキ色のマフラーを巻いた軽装。胴や腕に包帯を巻いて、表情を苦悶に歪ませている。


 男はステッドたちを逃がすべく、勇者アルバート・エリュシオンと対峙した存在――かつてのリベラリタスの領主、盗賊シューザであった。


 彼は勇者に勝てないことは百も承知で、体を張ってステッドたちを庇った。そしてどうにか戦線を離脱して、リベラリタスから離れたこのテンペランティアまではるばる逃れてきたのである。彼は身を隠しながら、アルバート戦で負った傷の治癒に専念していた。


「そういやアイツ、まだ戻って来ねえのか?」


 実は、彼は独りではない。行動を共にしている相方が居た。

 その相方というのは、洞窟から程近い近隣の街まで買い出しに出かけていた。



 街に視点を移せば、一人の男が風呂敷包みを背負って歩いている。取り立てて言うことがない相貌の、特徴がないのが特徴と言えそうな男であった。風呂敷には、購入した食糧やら薬草やら包帯やらが入れられてある。


「さーて買い物もしたし、散歩も楽しんだし、そろそろ戻ろっかなー」


 男は人間ではない。街はずれまで来ると、ドロンと正体を現す。

 そこには、一匹の小悪魔のような姿があった。


 出で立ちは角と尻尾、翼を生やした典型的な悪魔のそれ。ただそれを全体的に丸っこくミニマムにし、人間の背丈よりも随分と小さかった。肩に乗れるほどだ。顔つきも生意気そうな印象があるが、怖いというよりも可愛らしい。


「シューザの奴、大丈夫かなー?ん?」


 小悪魔が視線を向けた先には、仲睦まじげに歩く母娘の姿。

「ママ!ケーキ買えて良かったね!」

「ええ、今までは食べられないものだったから……すごく並んでいたけれどなんとか買えたわね」

「おやつの時間が楽しみだね、ママ!」


(ケ、ケーキだって!?)

 小悪魔は甘い物が好物であった。


 母娘は家に入ると買って来たケーキの箱を台所に置く。その直後、母がうっかりしていたように言う。

「あら、いけない、買い忘れていたものがあったわ。ちょっと行ってくるからお留守番しててくれるかしら」

「はーい」


 娘の雑な返事を背に、母は財布と籠を持って再び家を出た。

 それを好機とばかりに、小悪魔は母娘の家に近づくと、目を閉じて魔力を練り始める。


 闇魔法:”変身”――!


 ドロンと、姿が変わる。

 そこには先ほどの母親とそっくりの出で立ちがあった。装いもその通り、しかし元々背負っていた風呂敷包みだけはそのままだ。


 母に化けた小悪魔は、当然のように家の扉を開けると中に立ち入る。

「あれ?ママ、どうしたの?忘れ物?」

 そして、台所に置かれてあったケーキの箱を持ち出した。

「ママ、どうしてケーキ持っていくの?」

 娘の問いに一言も答えずに、母は出て行った。


 人気の無いところまで来ると、またしても正体を現す。

 元の小悪魔の姿に戻って、箱を抱えたまま飛び上がった。


「ひゃっほーい♪ケーキだー♪嬉しいなったら、嬉しいなー♪」


 ご機嫌な様子で、街から離れた森の方まで飛んで往った。

 しかし機嫌が続いたのはそれまでだ。洞窟に到着すれば、持っていた箱はすぐにシューザに見咎められる。


「ようやく戻って来やがったか、アヴァ。って、んだそりゃ?何を持ってやがる?」

「聞いてくれよシューザ!ケーキだぜケーキ!甘い物なんて久しぶりだろー?このアヴァリティア様がせっかく取って来たんだ、後で食べようぜー!楽しみだなー!」


 小悪魔が得意げに言うや否や、シューザの鉄拳が振り下ろされる。


「い、痛ってー!な、なにするんだよぉ!」

「テメーにゃ最低限の金しか持たせてねえ。まさか人様のモノを()って来たのか?」

「と、とーぜんだろー?なんたってオイラは強欲の化身なんだぜー?欲しいと思ったら止められないんだ!」

「返してこい」

「なんでだよー?別にいいじゃんかよー!シューザだって盗賊だったんだろー?」

「一緒にすんじゃねえ」


 シューザは静かに怒りを露わにしていた。


「俺を自分の欲望のために盗みを働くような、そこいらの盗賊と一緒にするな。俺は貧しい人々を救う為に盗賊をしてきたんだ。正義ってのは、金の無い連中なんか助けちゃくれねーからな」


 ボヤくように言っていた。

 アヴァリティアは涙目で、殴られた頭を撫でている。


「返してこい」

「うう、わ、分かったよ。返してくればいいんだろ」


 ひとまず、アヴァリティアは風呂敷包みを解いて、購入してきた物を洞窟内に広げた。


「なーシューザ、まだ怪我は治らないのか?」

「薬草だけじゃ、まだまだ時間はかかりそうだな」

「もうさ、街まで行って神官に回復魔法でも掛けてもらおうぜ。高くつくけど、それならすぐに治るじゃんかよ」

「それも考えたけどな、やっぱ慎重に行動した方がいい。アルバートの奴が俺の追跡を諦めた保証はねえんだ。俺は今や反アルバート側だからな、ステッドたちと結託されることを警戒してまず俺から潰しに来ることも充分考えられる」

「回復魔法使ってもらったぐらいで足がつくのか?」

「お前は知らないことだろうがな、光魔法の使い手でも回復魔法が使える者ってのは限られてくるんだ。市井の神官なんか頼ってみろ、一発で足がつくぜ」


 シューザはアルバートの追跡を防ぐべく、極力目立たないようにしながら療養生活を続けていたのだった。であるからして、街から離れた洞窟なんぞをねぐらにして、薬草でつましく傷の手当てをしていた。


 しかしアヴァリティアにしてみれば、とにかくシューザの回復を急ぎたかった。いち早くステッドたちに合流するため?いや彼は強欲の化身、もっと個人的な事情だ。


「ううー!でもオイラは早くシューザに治ってもらいたいんだよー!早くシューザと一緒に宝探しがしたいんだ!」

「……まだ言ってやがるのか」


 アヴァリティアは復活してからずっとシューザと行動を共にしていたが、度々気ままな宝探しの旅がしたいとシューザに言っていた。耳にタコができるほどだった。


「オイラは昔、ずーっと魔王城の警護役だったからな!ずっと同じ場所に居てつまんなかったんだよー!オイラ、ぞくぞく血が騒ぐような涙あり笑いありの大冒険がしたいんだ!」

「独りで勝手に行ってろ」


 冷たくあしらうシューザ。それでもアヴァリティアは食い下がる。


「やだよー!旅ってのは仲間が居てこそだろー?一緒にいこうぜー!シューザだってずっと盗賊暮らしだったんだ、宝探しの旅ってのも性に合ってるんじゃないか?」

「……まあ、否定はしねえ。だがこの怪我が治らなきゃテメーの道楽には付き合えねえし、それよりもまずアルバートの野郎をなんとかするのが先だ」

「だったらなおさら、早く怪我を治さなきゃだろー?」

「うるせえな。それよりテメー、さっさとそのケーキ返してこい。ちゃんと返せよ?でなきゃしこたまぶん殴るからな」


 シューザの剣幕に、アヴァリティアは「うう、分かったよ……」と言いながら、再び箱を抱えて洞窟から飛び出していった。


(怖いなーシューザの奴……でもああ見えて、すごく優しいんだよな。オイラ早く、シューザと宝探しがしたいなー。海に山に、草原に雪原に……世界にはまだ見ぬ場所があって、色んなお宝があるはずなのに!)


 アヴァリティアは強欲の化身であり、とにかく金目の物に執着があった。しかしこの時、とくに関心があったのは金では買えないものであった。誰かと過ごすめくるめく冒険活劇というものに、彼は憑りつかれていた。



 結局、彼は再び先ほどの母親に変身すると、本物の方が戻って来る前にケーキの箱を元に戻した。そうして家を立ち去ったあと、またしても別の姿に変身する。今度は誰かにそっくりに……というわけではない。彼が思い描いた架空の美女の姿であった。チョコレートブラウンの長い髪に、露出のあるセクシーな装い。


(さーて帰りにどっかで腹ごしらえでもしようかなー?美女の姿で酒場に行けば男たちがたくさんご馳走してくれるから便利でいいよなー)


 我欲全開で、美女と化したアヴァリティアは近くの酒場に立ち寄る。

 人目を引きつけるほどの美貌の女が独りで居るのだ、案の定男たちが声を掛けて、色々とご馳走してくれる。ちょくちょく下世話な言葉が飛んで来るが、てきとうにあしらいながら目の前の料理や酒を食し続ける。


 そんな時、少し離れた場所に居る二人組の男の会話が気になった。

 目の前で絶えず囁き続けられる、まったく興味の無い話など頭に入らないが、気になる話題であれば耳ざとかった。男たちはこんなことを話している。


「はるばるパティエンティアからここまで来たんだ、手に入れられるといいな……”世界樹の雫”」

「どんな病や怪我もたちまち治すという秘宝。なんとかして見つけ出したいもんだ」


(……!)


 男たちは西隣りのパティエンティアから、わざわざテンペランティアまでトレジャーハントに来ていたようであった。彼らが話していた世界樹の雫というものに、ひどく興味をそそられた。テーブルを立ち上がると、胸を強調し腰をくねらせながら猫撫で声で男たちに近寄っていく。


「ねえ、お兄さんたち……今のお話、もう少し詳しく教えてくださらない?」


 話はこうであった。

 このテンペランティアの南端にあたる高台は、人を寄せ付けぬ深い森なのだが、そこに世界樹と呼ばれる巨木が生えているらしい。その樹液こそが世界樹の雫と呼ばれる代物であり、驚異的な治癒の効果を持つ物であるという。現在市場で入手することは不可能だが、古代にはかろうじて辿り着いた旅人が少量ながらも持ち帰り、その効果を絶賛する記録が残されているらしい。


 アヴァリティアは話を聞くや否や、大急ぎで酒場を飛び出して変身を解除、洞窟へと舞い戻っていった。


(世界樹の雫……!これだ!シューザの怪我を治すにはこれっきゃねー!)


 そうして洞窟に戻ると、開口一番シューザに宣言した。

「シューザ!オイラ、世界樹の雫っての取って来るよ!」

「はあ、何言ってやがる?」

「知らねえのか?どんな病や怪我でも一瞬で治すんだってよ!」

「いや、存在ぐらいは俺も知ってるが」

「きっと取って来るからなー!待ってろよー!怪我が治ったら勇者なんとかして、そしたら冒険の旅に行こうなー!」

「あ、おいテメェ!待ちやがれ!」


 シューザの制止も聞かずに、アヴァリティアは飛び出した。

 彼は気付いていなかった。これが既に、宝探しの大冒険であることに……

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