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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第5章 悪しき野望、勤勉たる魔法都市にて
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VS. MAF①

 だが、ハインリヒにとって俺の怒りなど知ったことではないだろう。奴はMAFとやらの披露を続ける。俺はアレクスとハンナを抱えたままで、その様子を見守るしかなかった。


 ガチャガチャと、側面の輪のような造りが回り始めたかと思えば、巨大な砲のようなものが幾つも顔を覗かせた。なるほど、輪に沿って砲は自在に動き、自由な箇所から砲撃ができるようであった。輪は上、中、下の合計三つ存在しており、上部輪の砲はやや上向きに、下部輪の砲はやや下向きに基部が備え付けられているので、それぞれの方向を狙いやすくなっている。しかし砲身自体が向きを好きに変えられるようなので、例えば三つの輪に在る砲全てで一か所に集中砲火するようなこともできるのだろう。


 中部輪が回って、砲の一部がやや上を、一部がやや下を向いた。

 砲撃が始まると思ったが、放たれたのは単なる砲弾ではなかった。先ほど見た消滅魔法と似たような、白い恐るべきエネルギーの塊……それが発射されたかと思えば、空に向かって放たれたものは爆発するかのように弾けて巨大な竜巻を起こし、また地に向かって放たれたものは接触した途端に大地を激しく揺るがした。


【……!!】


 俺は唖然として浮かんでいた。


 ただでさえ、MAFが出現した時の衝撃で街は壊滅状態だったというのに、ダメ押しのように竜巻や地震が発生したのだ。眼下に広がる街の惨状は目に余るものだった。バラバラに吹き飛ばされ、あるいは倒壊し煙を上げる家々。騒ぎ、逃げ惑う人々……


【なにしてやがる!やめろぉ、ハインリヒぃ!】


 俺はまたしても大声で叫び倒していた。

 しかし、やはり、あの魔法使いはまともに取り合おうとはしない。


『ククク、素晴らしい威力だろう?今お見せしたのが私の扱うもう一つの太極魔法だ。風と土を太極させたものでな、私は”災害魔法”と呼んでいる。(くう)に接せば大気は逆巻き、地に接せば大地を揺るがす……文字通り、天変地異を引き起こす魔法だ』


【もうやめろ!やめてくれ!こんなこと!】


『だがこの魔法を、ただ災害を引き起こすだけのくだらない魔法だと思わないでくれたまえ。災害魔法の真価は、何よりもその広範囲性にこそある』


 俺の言葉には聞く耳を持たず、街の惨状には一瞥もせず、奴の講義は続く。


『そして先ほどの消滅魔法を思い出してほしい。あの魔法は威力こそピカイチだが、残念ながら射程や攻撃範囲に関しては優秀とは言えなかった。現にこうして、お前たちに躱された挙句逃げられているのだからな』


【っ!ま、まさか……!】


『お前も先ほど似たようなことをしたのだから、私が何をしようとしているか察しはつくだろう?ククク、消滅魔法に、災害魔法の広範囲性を合わせたらどうなると思う?』


 ガチャガチャガチャガチャと、砲台が一斉に動いて一か所に集まった。砲身がやや遠くを向く。中心街の更に外側、廃棄区域の一区画に狙いを定めている。


『基本的に射程や範囲を広げれば、その分威力は落ちる。それは消滅魔法とて例外ではない。だがアーティファクトによって超強化された今の私の魔力ならば、拡散させたとて絶大な威力を誇ることだろう!』


【や、やめろーー!!】


 俺の叫びも虚しく、砲から一斉に魔法が発射される。

 工夫もなく消滅魔法を撃っていた時は白い光球だったが、現在展開されているのは白い光の波状攻撃。それは狙いすました廃棄区域の一区画を土地ごと、跡形もなく消し飛ばしてしまった。巨人が巨大なスコップで丸ごと掘り返したかのように、大地が大きく抉られた跡ばかりが残っていた。


『ククク……ハハハハハッ!MAFを起動した上で試すのは初めてだったが、見事なものだな!素晴らしい!まるで神にでもなった気分だよ』


【いいかげんにしろ!アンタは此処の領主だろ!そのくだらねえ機械のせいで、いったい何人死んだと思ってやがる!】


『ハハハ、いったい何人死んだだろうな?結論から言おう、何人死のうが私の知ったことではない』


 ハインリヒは一切の迷いも、躊躇いもなく言い切っていた。


『私の目的はたった一つ。魔の究極へと至ること、ただそれだけだ。それ以外のことはどうだってよい!わざわざ領民を、中心街と廃棄区域とに分けていたが、所詮私にとって多少は役に立つか立たないかの違いでしかない。中心街に住んでいたのは、私の代わりに内政の実務をしてくれたり、将来的に魔法実験の役に立つ可能性があったので、ひとまず生存することを許している連中だ。そうでない者は容赦なく廃棄区域へと落としてきた』


【命の価値を勝手に決めるんじゃねえ!何様のつもりだ!】


『分かるかね?私から言わせれば、廃棄区域に落ちるような連中は人の姿をしたゴミ同然なのだ。生きていても何の役にも立たないばかりか、犯罪を犯して治安を乱す者も多い。さっきの拡大化した消滅魔法で消し飛んだのは廃棄区域の南エリア一帯だ、たかがゴミ捨て場の一区画が消えたところで私には何の不都合もない』


【ただのゴミ捨て場じゃねえ!あそこには……あそこには大勢の人が暮らしていたんだ!】


 叫んでいる内に、今更気が付いた。

 消し飛んだエリアは、よりにもよって俺が落ちてしばらく暮らしていた辺りだった。ああそうだ、俺のボールにひどいことをしてくれたあの少女も、俺が喧嘩を売った挙句返り討ちに遭ったゴロツキ二人組も、みんなあの辺りに暮らしていたんだ。それにクモラと出逢った森も!わんわんおの為に作った墓も!


【あそこは、あそこはゴミ捨て場なんかじゃねえ……みんな精一杯生きて、時に笑って、時に泣いて……】

『そう感じるのはお前もまたゴミとしてこれまでを生きてきたからだ。ゴミの視点で物を見るからゴミに同情心など沸くのだ。世界最高位の魔法使いである私から言わせれば、廃棄区域の連中など死んでくれた方がマシなほどにくだらない存在だよ』

【ひでえ有様になったのは廃棄区域だけじゃねえ!災害魔法のせいで中心街だってめちゃくちゃだ!】

『だからどうした?中心街に居るのは多少は役に立つから廃棄されずにいるだけの存在だ。お前を揺さぶりにかけ、ひいては魔王の魂を手に入れられるのであれば幾らでも死んでもらってかまわん』

【……】

『何度も同じことを言わせるな。私の目的は魔の究極に至ることだけ、それ以外のことは全てが些事に過ぎん』


 もういい。コイツにはどれだけ言っても分かりはしないだろう。

 いや、もはや言葉だけで改心なんてしてほしくない。コイツは全霊の力を以て、徹底的に打ち負かす!そして、増長しきったその横っ面をぶん殴ってやる!



 俺は内面の激情とは裏腹に、押し黙ったままMAFに背を向けて移動を始める。ひとまず何処かにアレクスとハンナを降ろしたかった。街の外の、高台となっている岩場に向かって飛び続ける。


『フフ、言っておくが逃げ出すことは考えない方がいいぞ?お前が私に魔王の魂を明け渡すまで、何度でも消滅魔法や災害魔法を撒き散らすとしよう。罪もない人々が傷つき死に往くことに、お前は耐えられないのだろう?ハハハハハ……』


 奴の高笑いを背中で聞きながら、俺は岩場に二人を降ろす。

 そして飛び上がって、MAFに向き直った。


「ステッド!」

 アレクスが叫ぶ。


「無理や!あんなん勝てるわけない……!逃げるしかないで!」

「あのMAFとかいう空中要塞は、ハインリヒ用の魔法増幅装置兼移動砲台みたいなものよ!しかもアーティファクトで稼働しているからエネルギーは無尽蔵に近いわ!」

「ここで死んだらこれまでの全てが水の泡や。そうなったら、それこそ犠牲になった人々の気持ちも浮かばれんやろう。ステッド、気持ちは分かるが、今は退いて作戦を練り直し……」


【うるせえっ!!】

 力の限り叫んでいた。


【こんな状況を……!こんな状況を見せられて……!逃げ出すなんてできるわけねえだろうが……!】

「ステッド……」

【すまねえ二人とも……どうか戦わせてくれ。俺は絶対にアイツを許せない。それにまったく勝算がないわけじゃないんだ】

「な、なんやて!?」

【どうか信じて、俺に望みを託してくれ……すまねえ、行ってくるぜ!】

「分かったわ。ステッド、ちゃんと死なずに帰って来なさいよ!」


 二人の視線を背中に受けながら、俺は再びMAFに向かって飛んで往く。

 あの憎たらしい黒い要塞も、サーチライトを振り撒きながら徐々に俺たちの方へ向かって来ていた。


(すまねえ、クモラ……勝手に戦うことに決めちまった)

(いいよ!わたしもアイツ許せない!絶対にぶっとばしてやるんだから!)

(ああ、やってやろうぜ。死んでいった皆の、弔い合戦だ……!)

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