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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第5章 悪しき野望、勤勉たる魔法都市にて
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VS.魔法使いハインリヒ①

 ”草木塔”の砲撃を掻い潜り、俺たちはなんとかマジック・キャッスルの上層に到達する。とくに物があるわけでもない、壁が鏡面加工されたように光っている不思議な空間だった。


 ひとまず太極を解いて、辺りを窺う。


「ここが最上階か?」

「でも、天井に穴みたいなのが開いてるよー?」


 クモラが指差す。たしかに天井には更に上へと行けそうな穴がある。

 ってことは最上階ではないのか?


 もう一度空を飛ぶ必要があるかもしれないと思って穴を見つめている内に、何かが下へと降りて来た。背もたれと肘掛けの付いた豪華な椅子だった。それが浮遊しながらゆっくりと下降して来るのだ。椅子には赤黒いオールバックの髪に貴族然とした衣装を着た、浅黒い肌の男がゆったり腰を掛けている。


「待っていたぞ、無事に辿り着けたようでなによりだ。まあこの程度で死ぬとは思っていなかったがね」


 どこか煽るような響きの声で言いながら、パチパチと心のこもっていない拍手をする。


「まずは到着おめでとう。いや、おめでたいのは頭かね?わざわざ私の元に魔王の魂を届けに来てくれたのだからな」


「違う!ハインリヒ、俺たちはお前を倒しに来たんだ!」


 宙に浮かぶ椅子を見上げながら叫ぶ。おそらく風魔法を利用して浮いているのだろう。その不敵な態度に、ますます怒りが込み上げて来る。


「ククク……怒り心頭のようだな。地下水路から侵入するなどという無粋な真似をしなければ、あの施設を見ることもなかったというのに」

「今までずっと人間も魔族も、ああして苦しめてきたんだな!たかが自分の力を高める為だけに!」

「たかがだと……?痴れ者め」


 ハインリヒは不愉快そうに眉根を顰める。


「凡人の命など百あろうが千あろうが、天才ひとりの命の価値には到底及ばない。それどころか偉大なる魔法使いであるこの私の力の礎となれるのだ、むしろ光栄なことだと思うべきだろう」

「光栄……?ふざけんじゃねえ!」

「ステッド、熱くなるな」


 アレクスが諭すように言う。


「ハインリヒはわざと、あんさんを怒らせるように仕向けとる。怒りで冷静な判断ができなくなった相手を手玉に取るんはたやすいからな」

「そーね、アイツが非情な奴だってことは此処に来る前から分かっていたことだし、いつも通りにいきましょう」


 ハンナも錫杖を構えながら言った。


「ステステ、行こう!ハインリヒを倒して、囚われているみんなを助けてあげるんだよ!」

「……ああ!いくぜ、太極だ!」


 俺たち全員が、白と黒の光に包まれる。

 再び太極した姿となって、ハインリヒの前に立ちはだかった。


「ククク、悪徳を体現した存在を相方に、互いに歩み寄ることで存在自体を結び付ける芸当……さすがの私も初めて見た時は脱帽したよ。お前たちには感謝してもしきれない。私に魔王の魂をもたらしてくれるばかりか、太極に関する研究についても一石を投じてくれたのだからな」

【魔王の力は……!クモラの力は、アンタのものじゃねえ……!】

「それはお前が決めることではない。力とは持つべき者が有するべきなのだ。それだけ強力な闇の力……他でもない、この私こそが持つにふさわしい!私は闇の力を極め、そして勇者という最強の光の力をも極め、六属性すべてを制する!そして過去の誰も到達したことがない、未来の誰も到達することのない、魔法使いの至高の領域……”魔の究極”へと到達するのだ!」


 ハインリヒの決意を表明するかのように、周囲に燃え盛る紅蓮の炎が発生する。


「さあ来るがいい!偉大なる魔法使いの力を、お前たちに嫌というほど思い知らせてくれよう……!」


 啖呵とともに炎が放たれる。爆発のような凄まじい勢いで業火の雨が降り注いだ。


【クッ、なんという熱や……!】

【喰らったら一巻の終わりね!】


 必死に逃げ惑いながら、なんとか攻撃の隙を伺おうとする。

 しかし降り注いだ炎はまるで生き物のように蠢いて、執拗に俺たちを追う。そのような炎が数え切れないほどに発生していたので、早くも防戦一方になっていた。


 ふと見れば、ハインリヒは宙に浮かぶ椅子に腰掛けたまま頬杖を突いてリラックスしている。


【クソ、戦闘中にくつろぎやがって……!】

「当然だろう?魔法とは元来、楽をする為のものだ」

 不敵に言う。


「汗水を垂らして必死に動き回るのは、お前たち下々の存在だけで充分だ。私は文字通りに高みの見物を決めさせてもらうとしよう」

 脚を組みながら余裕しゃくしゃくの表情で見下ろしている。


 反面、俺たちにはまるで余裕がない。意思を持ったように動き回る炎は、片時も俺たちに追い縋ることを止めない。それどころか炎は次々と増えているのだ。無限増殖かつホーミング機能付きの炎ということだ、くそったれ!


【このままじゃ埒が明かねえ!クモラ、一気に吹き飛ばすぞ!】

【うん!準備オッケー!】


 俺たちは一度距離を取って、蠢く炎の方に向き直る。そして急いで特大の闇の波動を練り上げると、一気に放出した。


 闇魔法:”闇椿”――!


 暴君竜(ネロス・ドラゴン)との戦いで披露した魔法だ。あの時は闇属性の魔物が相手だったのでたいして効きはしなかったが、今回は別だ。凄まじいまでの黒い波動が迸って、辺りの炎をたちどころに消し飛ばしてしまった。


「ほう……」


 すべての炎をかき消されてなお、ハインリヒは余裕の笑みを浮かべている。俺はその横っ面に一発入れてやろうと、すかさず駆け出して勢いよく跳び上がった。


【くらえ!】


 思い切り、拳を振るう。

 ところがどうしたことか?(かすみ)を殴っているような手応えの無さとともに、眼前のハインリヒの姿が椅子ごと消滅した。


【な……?】


「どこを見ている?こっちだ、こっち」


 着地して振り返れば、先ほどまでとはまったく別の場所にハインリヒが浮かんでいた。直後、水の滴る音が聞こえた。俺たちが先ほど殴ったのが、水魔法で作り出された幻影だったということに気付かされる。



【くそ!最初から見ていたのは、まぼろしだったのか……】

【相変わらず色んな魔法を使いよるな。さすがは”魔法の粋”と呼ばれた男や】

【十年前こそ味方だったけど、敵に回すとこうも面倒くさいとはね!】


 ハインリヒは椅子に座ったまま、俺たちの正面に位置するように移動した。そして口を開く。


「ククク、称賛されるのも悪くはない。だが私から言わせれば、お前たちもなかなかに予想以上だ。太極をしっかりと使いこなしている。よもや火傷一つ負わないままに、切り抜けられるとは思っていなかったぞ」

 そう言って右手を軽く上げる。


「お前たちの努力に敬意を表し、これから私の新開発魔法をお披露目してやろう……!まずはこちらだ」


 パチンと、指を鳴らす。

 直後に(まばゆ)く光る赤い光球が出現する。


【な、なんや……?あの魔法は……】


 アレクスもハンナもたじろいでいる様子が見て取れた。新開発と言っていたように、二人にも預かり知らぬ魔法なのだろう。


 俺たちはいったいどんな攻撃が来るかと身構えていたが、結論としてはまったく避けることなどできなかった。宙に浮かぶ光球は突如明滅を始めたかと思えば、一瞬にして焼け付くような熱光線を照射してアレクスを攻撃する。


 火魔法:”赤光(しゃっこう)”――!


【ウギャアア……!】

 叫び声を上げながら太極が解除され、元のアレクスとグーラに戻った。


【え、嘘でしょ……!これって光魔法……!?】

 言っている内に、次はハンナへと熱光線が照射される。(まばた)き程の(いとま)も無しにハンナもノックアウトされ、元の姿へと戻ってしまう。


 俺は唖然として立ち尽くしていた。

 一瞬にして、アレクスとハンナが戦闘不能に陥ってしまったのだ。とんでもない速度と威力の攻撃に晒されたということだ。避ける暇もなかったのだ。


【熱光線の魔法……!もしかして光魔法なのか!?】

「違うな、そうであればどれほどよかったか。あいにくだが、今の私には光魔法の素養は無い」


 ハインリヒは言葉とは裏腹に得意げに言っている。


「しかし火魔法なら大得意!今お見せした魔法は、私が長年の努力の末、火魔法の範疇で光魔法の性質を再現することに成功したものなのだ」

【そ、そんなものが……】

「私の言わんとしていることが分かるな?ただ光って見える火魔法というわけではないぞ?この魔法は火魔法でありながら、闇属性に対して特攻効果を持つということだ」


 にやりと笑っている。魔王の力を相手に、ハインリヒが用意していた有効打の一つがこれだったのだろう。さすがは天才魔法使いということか……!


 が、魔法の発表会はまだ終わりそうにない。


「さて、この”赤光”を馬鹿の一つ覚えのようにバカスカ打ち込んでもいいのだが、それでは芸が無い。せっかくの機会だ、お前たちには私の得意分野である魔法の自動化をお見せするとしよう」

【魔法の自動化だって!?】


 ハインリヒが両手を大きく広げると、周囲一帯に”赤光”の光球が出現する。熱光線が来るかと思ったがそうではなかった。さらにハインリヒは右手を大きく掲げ上げると、辺り一面に細かな霧のようなものを撒き散らした。


 水魔法:”海潮音(かいちょうおん)”――!


 霧は波間の揺らぎのように揺蕩(たゆた)っている。


【こ、こりゃいったい……?】

「魔力を感知する霧をばら撒いた。そしてたった今、展開していた”赤光”と”海潮音”が連動した」

【な、何を言って……!】

「ダメやステッド!魔法を使おうとしたらアカン!」


 アレクスが叫ぶ。

 すんでのところで、俺もようやく状況に気が付いて魔力を練るのを中座する。


「おそらく魔法を使おうすればそれを感知して、展開されている”赤光”から一気に熱線が飛んできよるで!」

「ご名答、攻撃しようとする者に対し即座に的確な迎撃ができるということだ。加えて、”赤光”の起動は既に私の手を離れ”海潮音”に委ねられている。言っている意味が分かるか?つまり私は”赤光”による攻撃をしながら、同時にまったく別の魔法も使えるということなのだよ」


 クソ……!ちょっとでも魔法を使おうとすれば、無数に浮かんでいる光球から一斉に攻撃されちまうのか!しかも完全に自動でおこなわれるから、その間ハインリヒは別の動きができる。う、打つ手がねえじゃねえか!


「いいかげん格の違いが分かって来たか?ただ強い魔法を闇雲に使うだけでは、魔法使いとしては二流どまりだ。一流の魔法使いは複数の魔法の長所を生かし合い、掛け合わせて用いる。これは”赤光”の即効性と”海潮音”の感応性を応用した自動化テクニックということだ」


 こめかみに指先をあてがいながら言っている。頭の出来が違うのだと言いたいのだろう。実際、俺たちは打開策を見出せずに動きを止めてしまっていた。


(ど、どうしよう……!ステステ!)

(くそ、これじゃあ身動き一つ取れないじゃねえか……いや、待てよ)


 先ほどのハインリヒの解説は、講義というよりもただただ実力差を見せつけたかっただけだろう。しかし皮肉にも、奴の言葉が天啓をもたらした。くらやみに包まれそうな思考に、光が差したかのように感じられた。


(クモラ!ゴニョゴニョ……)

(うんうん……いいね、やってみよう!)


 しばらく立ち尽くした後、俺たちは勢いよく両腕を天に向かって掲げた。そして特大の魔力を練り上げる。


「あかん!ステッドー!」

「なにやってんのよー!ふたりともー!」


「フ、血迷ったか。いいだろう、このまま焼き尽くされてしまうがいい……!」


 光球から一気に熱光線が照射される。

 しかし俺たちはそれよりも一瞬早く、辺り一面に練った魔力を撒き散らした。


 ――熱光線は、ギリギリ俺たちには届かなかった。

 そうなる前に俺たちが放った魔力によってかき消されてしまったからだ。それどころか、無数に展開されていた”赤光”の光球も、辺り一面に漂う”海潮音”の霧も、すべてかき消えてしまっている。


「なんだと!?」


 初めて、ハインリヒの顔に焦燥の色が浮かんだ。


「ねえ、何が起こったのよ?」

「た、多分やが……”破戒”を広範囲に拡散させたんや。魔力の制御を失くす魔法やさかい、そのせいで"赤光”も”海潮音”も存在を保てずにかき消された。そうか!広範囲に闇の波動を放つ"闇椿"の要領で”破戒”を使(つこ)うたんや!」


 真相はアレクスの説明通りだった。

 そう、『一流の魔法使いは複数の魔法の長所を生かし合い、掛け合わせて用いる』というハインリヒの言葉こそが、俺たちにとっても活路を見出す為のヒントとなった。


 "破戒"は強力な魔法だが、いかんせん射程の狭さがネックだった(例えばシューザ戦では、近づくことすら困難な素早い相手だったのでなかなか決められず、どうにか足止めをする必要があった)。一方"闇椿"は単純な攻撃魔法でしかないが、威力と広範囲性に優れた魔法だ。俺はとっさに、"闇椿"の要領で”破戒"を放つことを思いついたのである。拡散する都合上、普通に"破戒"を決めるのに比べると効果は落ちるだろうが(仮に敵に喰らわせたとしても、魔法が全く使えないなんて状態にはできないだろう)、既に展開された魔法をかき消すくらいのことはできたわけだ。


 ハインリヒの表情に反して、俺たちの心には希望が灯りつつあった。

 そうさ、俺とクモラは伊達にここまで来たわけじゃない。相手が勇者パーティ三強で最強の存在だとしても関係ない。俺たちはできることを必死に考えて、全力を尽くすまでだ!

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