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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第5章 悪しき野望、勤勉たる魔法都市にて
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突入!マジック・キャッスル

 やがて俺たちは市街の中心部、マジック・キャッスルへと辿り着く。道草を食ったからか、既に陽は傾き出していた。空には茜色の光が混じり始めている。


 マジック・キャッスルは周囲より少し高台になっている箇所に位置し、更に堀で囲われている立地だった。すなわち橋を渡らねば城内へと至れないのだが、橋は正面の一つしかなく、おまけに城門には衛兵が立ちはだかり睨みを利かせている。


「ここがマジック・キャッスルか……けど正面からしか入れなさそうだな」

「入れてください!って言って、入れてもらえるかなー?」

「それはないと思うわよ。ハインリヒの奴、来いとは言っていたけど無事に辿り着ける保障はしないって言ってたし。実力で辿り着いてみせろってことなんでしょ」

「まあ心配はご無用やで。ワイに任せい!」


 アレクスは自信満々に、城正面の橋は渡らずに堀に沿って移動を始める。


「何かアテがあんのか?アレクス?」

「ワハハ!ワイを誰やと思うとる!ワイは世界最高の商人――!このマジック・キャッスルが元のディリゲンティア城とあまり造りが変わっとらんのやったら、抜け道が水路のどっかにあるはずなんや。ワイはパーティをちょくちょく抜け出して、色んな場所でお宝探索しとったからな!」

「アンタ、急にいなくなることがあるかと思ったらそんなことしてたのね……パーティ貢献度ぶっちぎりで低かったから誰も気にしてなかったけど」


 ハンナの誹りを気にも留めずに、アレクスは得意げに歩を進めてゆく。その内、城の裏手側に回った。堀の草が茂っている辺りに立ち入ってガサガサ探っている。傍から見れば完全に不審者だが……


「見つけたで!此処から堀に降りられる!」


 見れば確かに梯子のような段状の窪みが、壁伝いに下に向かって伸びている。此処から降りれば堀の水際の岸まで行けそうであった。


「これアンタが作ったの?」

「ちゃうで、たぶん大昔に作られた脱出ルートの一部ちゃうか?まあ十年前に見つけた時から変わらずやったのは有難い。ほな行くでー」


 梯子を降りるようにして、俺たちは堀の中へと降りていく。

 そして岸伝いに更に進んで往く。草の生い茂った岩陰の辺りまで来ると、アレクスが駆け出した。


「おお!コイツまで当時のままやったか!」


 アレクスが向かった先には、くすんだ色の小舟が一隻打ち捨てられていた。見た目は古びているがまだまだ乗れそうである。ご丁寧にオールまであった。


「これ何?アンタが用意した舟?」

「せやで、十年前ディリゲンティア王国に滞在しとった時はコイツで水路を探索しとってな、そん時に抜け道も見つけられたんや。また使うこともあるかもしれんと思い、こうして人目に付きにくい場所に隠していたんや」

「よーし、それじゃあコイツで抜け道とやらから城内に潜入するとしようぜ」


 俺とアレクスは二人がかりで舟を堀の水まで運んでいく。四人でもギリギリ乗れるサイズだった。太極して飛ぶことも考えたが長時間低空飛行をするのは難しそうなのと、やはり力は温存するべきだと思ったので断念した。


 アレクスの指示を受けながら、オールを漕いで舟を動かす。しばらくすると、たしかに城内へと続いていそうな水路を城壁に見つけることができた。こうして俺たちは特段の異常もないままに、水路を通って容易に城内へと至ったのだ。



 だが、何事もなかったのは潜入するまでだった。

 水路から舟を降り、城の地下にあたる通路を歩いていたが、人を見かけない代わりに別のものに遭遇してしまう。初めは姿が見えず、唸り声だけが聞こえてきた。


 ――グルルル!


「な、なんだ!」

「ステステ、気を付けて!」


 目を凝らせば、暗い地下道に牙を剥いた狼の群れ。無論ただの狼ではなく、二、三メートルはあろう巨体で頭が二つあった。


「魔物……!双頭狼(オルトロス)やな」

「まあ、あの研究バカの魔法使いなら、勇者の命令だからって大人しく魔物を殲滅しているはずないわよね。一部は生かして研究材料にしているとは思っていたわ」

「せやな、実験素材兼城の警護役といったところか。まあ想定の範囲内やわ」


 全員が引き締まった顔で、目を見合わせる。そして各々が太極した。

 翼と尾を生やした漆黒の影、紅いカメレオン、白黒の天使が姿を現す。


【いくぞ!】


 俺は向上した身体能力に物を言わせて、双頭狼(オルトロス)を次々と殴り倒してゆく。アレクスも姿を眩ませつつ、舌の攻撃で応戦していた。そうして突破しつつ、なおも追い縋る群れをハンナの灼熱太陽(ライジング・サン)で一掃する。そのまま放たれた矢のように、俺たちは地下道を駆け抜け続けた。


 途中で様々な魔物に遭遇する。

 双頭狼(オルトロス)以外にも、狂毒蛇(マッドバイパー)怪蝙蝠(ジャイアントバット)……しかしいずれも物ともせずに俺たちは進み続ける。


(俺たちも強くなったもんだ……この調子ならハインリヒだって)


 しかし勢いづいた心は、とある光景に出逢ったことでくじかれる。

 辿りついたのは実験施設のようなエリアだった。そこかしこに薬品の入った試験管や、魔法書のような本が乱雑に散らばっている。不思議な色の液体で満たされている釜も見受けられた。


 俺が衝撃を受けたのは、そんな空間の隅に幾つも並んでいる鉄格子であった。中に誰かがいる。それが拘束され自由を奪われた魔族であることに気が付くと、俺は思わず言葉を失い立ち尽くしてしまった。


「こ、これは……」


 ひとまず魔物の脅威は去ったので、全員太極を解きつつ辺りを窺う。

 此処がどんな場所かはもはや説明されるまでもなく明白である。そして檻に入れられた魔族がどんな目に遭っていたのかも……俺は静かに青筋を立てていた。


「すまんなあステッド、ワイは正直この展開は予想しとった」

 アレクスが掛ける言葉に困ったように言う。


「ハインリヒは己の目的の為なら手段を選ばん男や。そして闇の力を渇望してもおった。なら魔族というお誂え向きの研究材料を利用せんわけがないわな」

「魔物同様、一部は生かして好き放題いじくり回していたんでしょうね。此処で生かされている魔族たちはきっと死ぬよりも悲惨な目に遭わされ続けていたはずだわ」


 俺たちが居る実験室とでもいうべき空間は異様に広い。

 階段を通して上がれる段状の吹き抜け構造になっていて、檻は上の方にもそこかしこに点在していた。見たところ捕まっている魔族は老若男女問わず居た。なんなら人間も居る。タスケテやコロシテなどとうわ言のように呟く者、塞ぎ込んでピクリとも動かない者、正気を失った目でひたすら天井を見上げ続けている者、体の一部が化け物のように変形してしまっている者……


「ステッド、あんさんの気持ちは分かるが構っている時間はない。ハインリヒを倒す方が優先や」

「分かってる!」


 叫ぶようにして言いながら、俺は突き進んで行く。


「行くぞ!クモラ!」

「うん!」



 こうして俺たちはいよいよ地下を抜けて、城内の一階部分へと辿り着く。

 しかしマジック・キャッスルなりの歓迎はまだまだ終わりそうになかった。


 一階部分もまた、ロクに人の姿が見受けられなかった。俺たちを待ち受ける為に人払いをしている可能性もある。だがそれでも、内装を見るに人々がこの城を普段使いしている光景をイメージできなかった。一般的な城の内部と言えば、役人や兵士の為の部屋があったり、食堂や客間があったり、奥には玉座の間があったりするだろう。しかしこのマジック・キャッスル一階部分は、ひたすらだだっ広い空間が広がっているばかりだった。


「なんだ、ここは?」

「……多分やが魔法を試し打ちする場所やないか?周囲の壁に対魔法結界が張り巡らされとるように見えるな」

「外観はともかく、内部はだいぶ変わっちゃってるわね」


 俺たちが辺りを見回している時のことだった。

 突然建物が振動したかと思えば、壁に幾つも穴が開いて大量の砂が流れ出してきた。それが次々と巨大な手の形を成して、猛烈な勢いで迫って来る!


「わっ!なに!?」

「ハインリヒの土魔法、”一握(いちあく)の砂”よ!捕まったらとんでもない圧力で潰されるわ!」


 俺たちは捕まらないように、全速力で逃げながら奥を目指していく。


「もうこの城は、かつてのような政治の為の場所やないな!完全にハインリヒ専用の魔法研究施設と化しとる!おそらく城のどこかにアーティファクトがあって、ハインリヒの魔力が超強化されとるんや!」

「さながら城全体が、アイツ用の魔法増幅装置ということね!」


 この城の中なら、どこからでも強化された魔法を展開できるってことだな!くそったれ、全然無事に辿り着かせる気ないじゃねえか!


 息も絶え絶えになりながら、俺たちはなんとか砂地獄と化した空間を抜ける。

 到着した場所は竪穴のような構造になっていて、壁に沿って螺旋階段が上に伸びていた。どうやら此処から城の上層に向かえそうであった。


 だが此処でも障害が立ちはだかることは、もはや想定内であった。

 俺たちが螺旋階段を昇り始めた頃、またしても地響きとともに何かがせり上がって来る。巨大な木のようなものが天に向かって、螺旋階段の中心部分の空洞を突き抜けるようにして生えていた。


「まずいで!花魔法、”草木塔(そうもくとう)”や!」

「設置型の広範囲攻撃魔法よ!」


 言っている内に、幹から何本も枝のような形状の砲が伸び、爆音を奏でながらあちこちに砲撃を開始する。あっという間に螺旋階段は、とても昇りようがない程までに崩壊していった。いやそれどころか、ウカウカしていたら俺たちも砲撃に晒されて一巻の終わりだ。


「みんな太極だ!もうハインリヒも近いはずだ、一気に駆け抜けるぞ!」


 一斉に太極する。

 俺とハンナは空を飛べるので一気に上昇、アレクスだけは壁に引っ付いてせかせかと移動していた。


【ふ、二人とも待っとくれー!】


 激しい砲撃音の中に、アレクスの情けない叫び声が混じっていた。

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