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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第4章 脅威と共に生くる、忍耐の荒野
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災害と呼ばれた竜

(どうしてコイツがこんなところに!?まさか魔王の気に当てられて――?)


 俺も遠巻きで見ているアレクスとハンナも、驚きに固まっていた。ダニヤンばかりが興奮したような笑みを浮かべて槍を構え直す。


「ガハハッ!ここで乱入騒ぎとはな!いいだろう、飛び入りは大歓迎だ!暴君竜(ネロス・ドラゴン)よ、此処で逢ったが百年目!今日こそ貴様に引導を渡してくれよう!」


 溌剌(はつらつ)と言いながら、ダニヤンの肉体が硬化とともにみるみる巨大化していく。おまけに腕が更に二本、肩の上部から生えて来た。


 鋼魔法:”悪鬼羅刹(あっきらせつ)”――!


 四本腕の金属製の巨人となり(とはいえガルガンチュアやパンタグリュエルほど大きくはない)、人間には余るサイズだった大戦槍もようやく手頃なサイズ感に落ち着いた。それを振り回しながら、拳の殴打も交えて果敢に黒い巨竜と取っ組み合う。


「うおっ!?なんちゅうことや、あの暴君竜(ネロス・ドラゴン)相手に単騎でやり合っとるで!」

「伊達に何年も戦い続けてないってことね……」


 感心を通り越し、呆れたような声で言う二人。


 しかし相手は途方もなく巨大で、恐ろしく頑丈なドラゴンだ。どれだけ攻撃を浴びせてもちっとも倒れる気配を見せない。


「うーん、やっぱり弱点属性で攻撃せんと厳しいか?」

「でも、今ここに居るメンツで光属性攻撃ができるのって私だけじゃない?冗談!あんなの相手にしてたら命が幾つあっても足りないわ!」


 焦燥した顔で叫ぶハンナに、アレクスは宥めるように返す。


「当たり前や!あんなんと戦うことは考えんでいい!ひとまずダニヤンが引きつけてくれている内に、此処から離れるんや!」


 対立している状況とはいえ、ダニヤンは戦士らしい活躍をしてくれている。それを利用しようというのだ。ところが暴君竜(ネロス・ドラゴン)は執拗に攻撃に晒され続け、ついに痺れを切らしたように咆哮すると、勢いよく尾を振り払ってダニヤンを弾き飛ばしてしまった。


「ぬっ!?うおおおおおおおっ……!」


 槍を掴んだままで、ダニヤンは遠い空の彼方に消えて往った――

 あんぐり口を開けた後で、二人は叫ぶ。


「ド、ドアホーー!何、戦線離脱しとんねん!」

「戦士なら最後までちゃんとタンクの役目を果たしなさいよ!バカーー!」


 これまで数年かかってもダニヤンが暴君竜(ネロス・ドラゴン)との決着を付けられていないのには、こうして戦闘が強制終了した一幕が何度となくあったからかもしれない。


 引きつけ役のタンクが居なくなれば、次はどうなるか?

 想像するまでもない。案の定、巨竜はそのホオズキのように紅い眼をジロリと二人に向ける。


「ハンナ!パンタグリュエル召喚せい!はよう逃げるで!」

「無理無理無理!もう間に合わないし、召喚できたって振り切れないわよ!」


 慌てふためく二人を待たず巨竜は翼をはためかせると、その巨体にそぐわない猛烈な速度で迫り来る。


「ひいいっ!お、お助けーー!」

「いやああああ!」



 二人が巨竜の爪牙に蹂躙されようとする寸前、俺はなんとか間一髪で駆け付けると巨竜の前に立ちはだかる!そして渾身の一撃をお見舞いして無理矢理に隙を作った!


「ステッド!?」

【お前ら二人とも早く離れろ!此処は俺が食い止める!その内になんとしてでも此処から遠ざかるんだ!】


 恐怖よりも、必死さの方が上回っていた。やけに声量が大きくなっていたような気がする。


「せ、せやけどステッド、それじゃあんさんが……」

【はやくしろ!時間がねえだろ!】

「わ、分かったわ!アレクス、はやく行きましょ!」

「せ、せやな……ステッド!必ず助けに来るからな!」


 急いで離れ往く二人を尻目に、俺は太極した漆黒の姿で黒い巨竜に立ちはだかる。二人が避難したのを確認して、いよいよ焦燥より恐怖の方が顔を覗かせてきた。


(うう、怖え……つーかデカすぎんだろ!こんな奴、どうやったら倒せるっていうんだ?)


 それはまるで竜の形をした黒い大地が、意思を持って動き回っているかのようだった。


(怯んでいる場合じゃねえ!とにかくやれるだけのことをやるだけだ!魔王の力、思い知れ……!)


 ありったけの魔力を練って、特大の闇の波動を放つ。しかし蛙に打ち水、ちっとも効いている様子がなかった。


(くそっ、全然効かねえ、やっぱり闇属性の攻撃じゃダメなのか?)


 何発も続けて打ち込んだが、結果は変わらない。

 やがて暴君竜(ネロス・ドラゴン)は翼をはためかせると、その巨体とは裏腹に軽やかに舞い、俊敏かつ苛烈な爪撃を繰り出してくる。間一髪で回避したが、大地が隕石の衝突のように抉れた。意思を持った災害の異名は伊達ではなかった。


 喰らったら一巻の終わりだと思い、俺は搦め手に打って出る。


 闇魔法:”暗夜行路”――!


 黒い霧が巨竜を包むも、まったく効いている様子がない。相変わらず奴の攻撃は的確にこちらを狙って来る。


(感覚を遮断する魔法は通じねえか、コイツは魔法とか使って来るわけでもないから”破戒”を打ち込んでも効き目は薄いだろう……闇属性の攻撃も効かないし……くそっ、どうすりゃいいんだ!?)


 もはや殴り合いしか道は無いのかもしれない。

 俺は少しの間立ち尽くしてしまっていたが、ついには意を決して跳びかかった。


(攻撃を受けたら一巻の終わりだ、まずは回避が第一!それでなんとか隙を見つけて、攻撃を叩き込んでいく!)


 しかし太極は長くは続かない。

 そしてこんな地道なやり方で、早期決着など絶望的であった(実際ダニヤンが何年かけても討伐できていないように)。それでもこれしか応戦する術がないのだ。


 巨竜の攻撃を躱し続け、いったいどれだけやったか分からない程に打撃や蹴りを入れていく。やはりというか手応えは無く、それどころか巨竜は苛ついたように咆哮すると、口を開けおびただしい量の黒い炎を周囲に撒き散らした。


(こ、これは――!?)


 退路を断つとともに、敵の動きを制限する意図だろう。燃え盛る黒い熱気に当てられ、俺は思わず動きを止める。ちょうどシューザ戦で、似たような戦法で奴を追い詰めていたが、今度は俺が追い詰められる側だった。不用意に動けば火の中に飛び込みかねない!


 少しでも動きが機敏でなくなれば、後はもう暴君竜(ネロス・ドラゴン)からしてみれば俺はいい的でしかなかった。そこからは攻撃をまともに回避することもできず、巨竜の爪、牙、尾の攻撃に晒され続けるばかりだった。


 いよいよ……いよいよ傷つき疲れ果て、胸中には恐怖ばかりが席巻していた。


(む、無理だ……こんな奴、勝てるわけねえ……アレクスたちもだいぶ離れただろうし、俺も逃げなきゃ……)


 とはいえそうは問屋が卸さない。捕捉されたら逃げ切れないとは、ハンナもさんざん言っていた。逃げおおせる隙などまるで見出せず、俺は蹂躙されるばかりだった。終いには鞭のようにしならせた首の一撃で、俺は大きく吹き飛ばされてしまう。


【ウアアアッ……!】


 今ので黒い炎の中からは脱出できたが、ついに太極が解けてしまった。

 ボロボロの出で立ちで、俺とクモラは地に横たわっている。


「うう……まずい、太極が……」


 苦悶の顔で起き上がる。

 そこにドシン、ドシンと地響きが命の脅威を伝えにやって来る。


 眼前では巨竜の紅い眼が、俺を睨み付けるように見据えていた。


「ひ、ひいぃ……」


 既に、戦意を喪失していた。

 そこには居るのは勇敢さなどひと欠片もない、昔のままの俺だった。

 弱くて無様で、怯えながら暮らしていた、昔のままの俺だった。


「ひいぃぃぃ……!ひっーー!ひっーー!」


 目からは涙があふれ、まるで極寒の中に置かれたように体の震えが止まらなかった。野良猫を前にした鼠か、蛇の前の蛙の気分だった。腰が抜けて立ち上がれず、()()うの(てい)で逃げ出すほかなかった。


(や、やめときゃよかった!こんな奴に喧嘩売るなんて!むしろアレクスやハンナに注意が向いている内に、逃げ出しておくべきだったんだ!勇者アルバートですら討伐を諦めるような相手だ、一目散に逃げ出すべきだったんだ!)


 泣きながら、死にかけの害虫のように逃げ惑う。

 巨竜の追跡は緩慢だった。もはや急がずとも仕留められるのが分かっているのだろう。けれども俺は気が気でなかった。


「ひぃい!来るな!来るなぁ!」


 必死に手足を動かし続けるも大きな岩が前方に聳えているのが見え、ついに追い詰められる。巨竜はこれで終わりだと、最後の一撃をお見舞いしようとする。猫が虫を叩くような何気ない動作だった。


「ひぃいいいいいい……!」


 ついに俺は観念して、身を縮こまらせながら目をつぶった。

 ところがどうしたことだろう?あの残酷な爪牙に蹂躙される痛みが、いつまで経ってもやって来ないので、俺はおそるおそる目を開けた。


 ――眼前にはその小さな体を大きく広げて、俺をかばう幼女の姿があった。


「ステステをいじめないで!」


 クモラは勇敢にも、巨竜の前に立ちはだかっていた。


(ク、クモラ……)


 思えば、クモラに庇われるのは初めてじゃない。ゴロツキに無様に返り討ちに遭った時も、ハンナに玉を潰されかけた時も、いつでもクモラは体を張って俺を庇ってくれていた。


 真の勇気っていうのは、きっとこういうことを言うんだろう。

 クモラは強い奴だ。けれども俺はダメだった。ごめんなクモラ、俺は守護者失格だ、俺にはお前を守ってやれそうもない……守るどころか守られてばっかりなんだからな……


 情けなさと悔しさに歯噛みしながら、竜の手に掛かるよりも早くに意識は途絶した。



 ――――――――

 ――――



 気付けば、まっさらな空間に居た。

 なにもない場所なのに俺は見覚えがあった。


 そうだ、たしか此処で出逢ったのは……


「……!」


 顔を上げれば、眼前には女性のような外見の巨人。

 人間の数十倍はあろうサイズで胡坐をかき、四本の腕を前の二本だけ組んでいる。白い髪と白い肌、黒い瞳と黒い戦装束のコントラストが目に映える。


 それはかつて出逢った、魔王モラクレスの姿であった。


「ま、魔王モラクレス……」

【……】


 モラクレスは俺を見下ろしながらしばらく押し黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。


【光を求めよ】

「へ……?」


 俺は意味が分からずに、間の抜けた返答をする。

 眼前の魔王は構わず続ける。


【ステッド、お前も既に分かっているはずだ。天が有るから地が有るように、万物は決して片側だけでは成立しない】

「……」

【お前の心は深い闇に囚われつつある。しかしそれだけ深い闇をもたらすほどの大きな光があるはずなのだ】

「……」

【光を求めよ。光と闇が出逢いし時、無限大の力が生まれよう。あんなでかいだけのトカゲ、恐るるに足りないはずだ】

「ひ、光って、そんなのいったいどこに……?」

【何を言うか。すぐ近くに居るだろう】


 穏やかに諭すように言っていた。

 やがて視界が歪み始める。


【お前はとっくに出逢っている。お前の心を照らす光にな】


 そしてまたもや意識は途絶した。


 ――温かな感触を感じる。

 目を開ければ、クモラが俺の体を抱き起すようにしてしがみついていた。


「ク、クモラ……?」

「ごめんねステステ、いつも守ってもらってばかりで……でもこれ以上ステステばっかりに大変な思いはさせないよ!今度は私がステステを守ってみせるから!」


 いつものように可愛らしい声だが、舌ったらずさはなかった。

 そして俺から離れると巨竜の方を向く。


「来なさい暴君竜(ネロス・ドラゴン)!魔王を敵に回すことがどれだけ恐ろしいことか、思い知らせてあげる!」


 大人びたような、勇敢な印象が彼女の声音に宿っていた。


「私の大切な人を傷つけて――!この魔王クモラが相手になるわ!」


 彼女の姿をまじまじと見て驚愕する。

 クモラは、十代半ばほどの姿に急成長を遂げていた――

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