VS.戦士ダニヤン
白と黒の光に包まれながら俺とクモラの姿が結びつく。ひとつの漆黒の影に変貌すると、矢のように駆け出してダニヤンに迫った。
「ほう……!なにやら不思議な力を使うようだな……!」
槍で攻撃を受け流しながら言っている。
先の三人と違って、疑問に絆されていない。未知の力と戦えるという、その高揚こそが先行しているようだった。
いや、相手は歴戦の戦士だ。ひょっとしたら一目見て、力の実態をある程度看破したかもしれなかった。事実ダニヤンは次のように言う。
「聖なるような悪しきような、妙な力を感じるな。魔王の魂に人間の肉体というちぐはぐが織り成す奇跡ということか?」
なかなか詩的なことを言うじゃないの。
光と闇……相反する二つが結びつくことで生まれる爆発的エネルギー!それを使いこなせばダニヤン相手でもなんとかやっていけるはずだ!
そこからは熾烈な攻防が繰り広げられる。
俺はなんとか相手の攻撃をいなし続けているが、攻撃の手応えがないのはこちらにしてみても同じことだった。
違うのは、俺と違いダニヤンは攻撃を躱さない。
躱さないのは喰らったところで致命傷にならないと確信しているからだろう。実際奴は何発も何発も重い拳に晒されているというのに、毛ほどもダメージを負っちゃいなかった。
「どうした……!?どうしたぁ!魔王の力、その程度のものではないだろう!」
(くそ、このままじゃ埒が明かねえ!マジで鉄壁の守りだ!こうなりゃ闇の力を浸透させて、まずは鎧を壊す!)
覚えているだろうか?
闇属性は腐敗や損壊といった方面に秀でており、俺はアレクスの屋敷に侵入する際、塀の壁に闇の魔力をじっくりねっとり浸透させてたやすく壊したことがある。それと同じことをここでやろうというのだ。
ダニヤンは攻撃をまじで避けない。受け止めるか受け流すかだ。
フットワークに乏しいのでそのような戦法が理に適うのだろうが、俺からすれば好都合だった。隙を見計らって、俺はダニヤンに濃い闇の魔力を流して込んでいく。
「むぅ……!?」
流し込んだ後で一度距離を置いて槍撃を躱す。
そして再度接近して、脆くなったダニヤンの鎧に渾身の一撃をお見舞いした。
鎧はビスケットのようにたやすく砕かれた。遠くからアレクスがおおっと声を上げる。しかし鎧が壊れただけだ、ダニヤンは吹き飛ぶことはおろか膝を突きすらもしていない。少々後ずさっただけだった。
「ガハハハハ!なかなかやるではないか……!」
鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体をひけらかしながら、愉快そうに笑っている。まるで追い詰めている気がしなかった。
「だが鎧など飾りだ。俺の鍛え抜いた肉体こそが最強の鎧……これを打ち砕けるものか……!」
「そうかよ、いい気になっていると痛い目見んぜ!」
俺は一気に勝負を決めようと特大の魔力を練り上げていく。
それを見て、ダニヤンも自身の肉体に魔力を巡らせ始めた。
「ほう、こいつは想像以上だな……!なれば俺も少しは本気を出すことにしよう」
鋼魔法:”羅刹”――!
魔力が展開されるにしたがって、ダニヤンの肉体がみるみるメタリックな金属光沢を帯びて輝き始めた。
「あ、あれは……!」
「ダニヤンお得意の土魔法の派生やな!それにアイツは戦士系の魔力系統やさかい、自身の耐久力をありえんほどに向上しよるで!」
二人が言っている内に、俺が放った特大の闇の波動にダニヤンは晒される。
しかし轟音と土埃が消え視界も明瞭になる頃、今度は俺の方が驚愕に打ちひしがれる。ダニヤンはその場から一ミリたりとも後退していなかった。膝を突くことも傷を負うこともなく、爽やかな朝の風に吹かれているかの如くにごく平然と佇んでいた。
(ま、まじかよ……!鎧もない状態で……!特大の一撃だったってのに、傷ひとつ負っていやがらねえ!)
少し、戦意喪失しかかっていた。まさに難攻不落という言葉が、人の姿を取ったかのような相手だった。俺が動きを止めたと見るや、ダニヤンの方から悠然と近づいて来る。
「どうした?もはや万策尽きたか?」
「うう……!」
どうすればいい?
力押しが無理ならやはり搦め手ということになる。しかし感覚を遮断する魔法である”暗夜行路”は意味が薄いだろう。そもそもコイツは攻撃を避けない。
(ならやっぱり、あの魔法しかねえ……!)
俺は跳び上がってダニヤンに迫ると、必殺の魔法を喰らわせる。
闇魔法:”破戒”――!
魔力を狂わせる魔法、これが決まれば”羅刹”という身体強化魔法も解けるはずだった。
そう、決まれば……
「な、なにぃ!」
ダニヤンはモロに俺の魔法を喰らっているはずだった。
しかし”羅刹”は解除されない!手応えで分かる、”破戒”の魔力がダニヤンの肉体にまるで浸透していないのだ。もしかしたら物理防御力のみならず魔法防御力も著しく上昇しているのかもしれなかった。
そのまま俺は、むんずとダニヤンに腕を掴まれ地面に叩き下ろされた。
「ぐうぅ……!」
苦しみ呻きながら立ち上がる。ダニヤンは槍を地面に打ち立て、少々退屈そうにし始めた。
「どうした!どうしたぁ!魔王の力を持っているのだろう!?なればこんなものではないはずだ!もっと俺を追い詰めてみろ!もっと俺を苦しませてみろ!もっと俺を楽しませてみせろぉ!」
大声でがなり立てている。
いよいよ俺の脳裏には、万事休すという言葉が浮かび始めた。
(ま、まじかよ、ここまで攻撃が通じないなんて……これが勇者パーティ三強、”守りの粋”戦士ダニヤン……!)
打つ手がなくなり、硬直してしまっていたその時だった。
恐ろしく巨大な影が飛来した。
それは否が応にも事態を急変させるものだった。言うまでもなく、より悪い方向に……
「むぅ……!?」
「あ、あれは……!?」
二人して空を見上げる。暴風とともに現れた巨大な影が克明に網膜に焼き付く。真っ黒い鱗にホオズキのように紅い眼、棘の付いた翼と胴体よりも長い首――
「暴君竜……!?」
最悪な横槍が入った瞬間だった。




