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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第4章 脅威と共に生くる、忍耐の荒野
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踊り子シーナとの出逢い③

 まずはアレクスと合流するべく、再びシェヘラザード座のテント近くにまでやって来る。その後でクモラとハンナを探すつもりでいたが、手間が省けた。その二人がちょうど同じ場所に佇んでいたからだ。


 ……見れば二人の視線の先には、ボロ雑巾のようにして倒れ伏すアレクスの姿があった。


「あ!ステステ!」


 俺の存在に気付いたクモラが、声を掛けて来る。ハンナも続いた。


「ちょっとステッド!コイツごみ同然で道端に捨てられてるんだけど、いったい何があったのよ?」


 あいにく大男に連れて行かれて以降の詳しいいきさつは俺も把握していない。しかし想像は出来る、おそらく自分が悪いにも関わらず一切譲らないで生意気のひとつでも言ったのだろう。


「じつはカクカクシカジカでな……」

「ええ……バカじゃないの?このエセ商人」


 呆れかえったような顔で、足元のぼろきれに視線を落とす。そのぼろきれが彼女の足首に縋り付くようにして、苦し気な声を絞り出した。


「うう……ハンナ、体中が痛いんや……魔法で回復してくれへんか?」

「は?魔力の無駄遣いになるから嫌なんだけど?そのまま死に腐れば?」


 二人はそんな風であったので、俺に見知らぬ同行者が居ることにいち早く気が付いたのはクモラであった。


「ねーステステ、そのひとだれー?」


 傍らのシーナを指差して尋ねる。彼女はぺこりと会釈した。

 そこでハンナとアレクスもようやく反応を示した。


「何?ステッド、あんたナンパでもしてたの?てかあんたがナンパに成功するなんて宝くじで一等当てるよりも難しいと思うんだけど」

「ほぉー、なかなか可愛い()やんけ。あんさんも隅に置けへんなあ。てか、あんさんはおっぱい星人やとワイは思とったんやがな」


 回復魔法で治癒をしながら好き勝手言って来るので、

「ちっげーよ!まずは人の話を聞け!」

 と声を荒らげた。


「実はこのシーナって娘が暮らしていた村……四の村らしいんだが、それが物凄く巨大なドラゴンに襲撃されて壊滅しちまったらしいんだよ」

「はい、つい先月のことです。それ以前は九の村も被害に遭っているらしくて……」

「あらら、それは災難だったわね」

「なるほどなぁ。ステッド、ワイにはあんさんの魂胆が読めてきたで。危険な魔物の消息を追えば、強者との戦いを何より好むダニヤンも見つけられるかもしれないと考えたワケやな!」


 さすがはアレクスだ、理解が爆速で助かるぜ。

 俺はシーナの方を向いて、さらに詳細な情報を聞き出そうとする。


「それでシーナ、すまねえがそのドラゴンのこと詳しく教えてくれないか?」

「は、はい……あのドラゴンは”意思を持った災害”や”移動災厄”といった異名で呼ばれています」

「ほう、それはそれは……」

「また物騒な異名ね……」


 アレクスとハンナは真摯に彼女の話に耳を傾けている。


「真っ黒い鱗にホオズキのように紅い眼、棘の付いた翼と胴体よりも長い首をしていて……」


「「ん……?」」


 ドラゴンの特徴を聞いた途端、二人の表情が固まった。

 普段から反目している二人がまったく同じリアクションをしていた。


「あー、スマン、もう一回言ってくれへんか?」

「……聞き間違いよね?」

「真っ黒い鱗にホオズキのように紅い眼、棘の付いた翼と胴体よりも長い首をしていて……」

「「…………」」


 しばらく沈黙が訪れ、風の音だけが響いていた。

 少しして二人の大絶叫が静寂を打ち破る。


「「あんのアホ(バカ)戦士ーーーー!!!!」」


 周囲の通行人が一斉に振り返るほどの声量だった。

 しかし一回叫んだぐらいでは収まらないようで、しばらく二人は激昂した様子で愚痴をこぼし続ける。


「アホやアホやと思っとったが、まさかここまでとはな!」

「バカなの!?アイツ、バカなの!?」

「ようやく分かったで!なぜあのアホ戦士がこんな辺境の土地の領主を率先して名乗り出たのか!考えてみれば、ここパティエンティアは(モルス)の大地と隣接しとるわけやし……」

「あのドラゴンをわざわざこっちにおびき出して、その上で結界で分断したってコトよね!?」

「せやせや!誰にも邪魔されない、自分だけのバトルフィールドの完成っちゅうことや!住民の犠牲など一切度外視でな!ホンマ頭おかしいでアイツ!」


 二人のヒートアップが収まり始めたのを見計らって声を掛ける。


「な、なあ、二人はそのドラゴンについて何か知っているのか……?」

「せやな、話したる。ワイらの想像が正しければ、シーナの村を襲ったのはおそらく暴君竜(ネロス・ドラゴン)っちゅう巨竜や」

「ネ、ネロス・ドラゴン……?」

「ただのドラゴンやないで?ドラゴン系って時点で魔物の中でも上位の強さやが、暴君竜(ネロス・ドラゴン)は世界に六体存在するとされる”六大巨竜”の一角!その中でも最強最悪とされる存在なんや!」

「それだけじゃないのよ、ステッド。その暴君竜(ネロス・ドラゴン)っていうのはね、あの勇者アルバートが唯一討伐を諦めた魔物なのよ」


 既に驚異的な情報だらけであったが、ハンナの最後の補足が何よりも俺を震撼させた。あの勇者が討伐を諦めた……?


「いや、とはいえ事情があるんやで?あのドラゴンと遭遇したのは(モルス)の大地っちゅう世界の西の果てや。そこは三十年前に魔王モラクレスが次元を引き裂いて現れたとされる場所でな、要は魔王城のある土地やったんや。魔王城を目指す道中での遭遇やったわけやから、消耗は避けたかったんやな」

「でもアレクス、あのアルバートが倒すことを断念したのよ?あの魔物絶対殺すマンがみすみす見逃したという事実を、もう少し重く受け止めるべきだと思うけど?」

「うーんせやなあ、それに六大巨竜との遭遇は何も初めてやなかった。暴君竜(ネロス・ドラゴン)と遭遇する以前にも、リベラリタスで烈帝竜(マクシミー・ドラゴン)を、キャスティタスで聖帝竜(コンスタンツ・ドラゴン)を撃破しとる。六大巨竜との戦闘経験がありながら、アルバートが初めて撤退を宣言したからな。あの時はダニヤンもラヴィアンも目を丸くして驚いとったな……」


 ちょっとぉ!次々やべえ情報が上塗りされていくよぉ!

 だがそれだけ強大な魔物だからこそ、戦闘狂のダニヤンは自分の力で討伐したいと思ったのだろう。


「と、とにかくすげーやべえ魔物なのは分かったよ。ダニヤンはそいつを自分で倒したいと考えているから、わざわざ隣接地のパティエンティアまでおびき寄せて、そこの領主になったわけだな?」

「そういうことになるやろなあ……マジで脳みそが筋肉で出来とるなアイツ」

「アイツの戦闘狂に振り回されるの何度目よ……十年前の旅路だって、アイツが無駄に魔物と戦いたがるせいで何度無用な戦闘が発生したことか」


 俺たちが内輪で話し合っていたので、シーナが蚊帳の外になってしまっていることに気付く。


「あ!わ、悪い、ほったらかしにしちまって……」

「いえ……そ、その、ステッドさんたちは勇者パーティにお詳しいんですか……?」


 そこでシーナは喋っている内に、なにやら勘づいたような顔をする。

「あれ?アレクスにハンナって、そういえば勇者パーティの……?あれ?あれ?」


 状況が処理しきれず、混乱しているようだった。


 俺はアレクスとハンナの方を向きながら、

「二人とも、シーナに事情を説明しちゃってもいいよな?」

「せやな、悪い娘には見えへんし、ええと思うで」

「まー、構わないわよ」


 二人の了承を得てから、俺はシーナに向き直る。

「ス、ステッドさん……?」

「シーナ、よければ聞いてくれないか?俺たちが何者で、何のために旅をしているのかを……」


 こうしてシーナは、シュヴァルツたちが聞いたのと同様の話を聞いて、俺たちの正体や旅の動機を知るに至った。


「ス、ステッドさんってすごい方だったんですね……」

「い、いやー、それほどでも……」

「でも、あのドラゴンは本当に危険な存在ですので、きっと戦わない方がよろしいかと……」

「その通りやでステッド!絶対に戦ったらアカン!」


 アレクスが食い気味に、シーナの言うことを肯定した。


「あのアルバートでも勝てるか分からん相手やったんや!それにまだ七大罪の化身を三体しか復活できとらんわけやし、魔王の力も万全ではない!おまけに暴君竜(ネロス・ドラゴン)の属性は闇やからな、光属性の魔法が使える勇者ならまだ有利やったが、魔王の力やと正直分が悪いんや」

「撤退する前に少しは戦ったのよ。でも私の光魔法はおろか、勇者の神聖魔法もたいして効いちゃいなかったわ。恐ろしくタフなのよ」

「わ、分かったぜ。暴君竜(ネロス・ドラゴン)とは戦わないよう気を付けながら足取りを追って、その近くに居るであろうダニヤンと接触する……そういうことだな!」


 二人の注意喚起を聞いて、いよいよ事を構えるべきでない魔物だということがまざまざと感じられた。しかしダニヤンは見つけなくてはいけない。アーティファクトの在処を聞き出さなくてはならないからだ。


「それでシーナ、そのドラゴンの居場所について何か知らないか?」

「ご、ごめんなさい……弟たちと命からがら逃げてきたので、今の所在までは……でもつい先月の出来事ですし、まだ四の村の近くに居るかもしれません」

「その四の村ってのは何処に?」

「五の村から更に北東に進んだ辺り、尖った岩地に囲まれたオアシスの近くです」


 場所を聞いた俺たちはさっそく向かおうと歩み出し始める。


「ありがとなシーナ!恩に着るぜ!」

「ステッドさん!」


 去り際に、シーナが声を掛ける。


「あのドラゴンは本当に危険です……ですから倒してくれだなんて言いません。ただ生きて、生きて帰って来てくださいね……?」


 潤んだ瞳で、言っていた。

 俺は決意を振り絞った顔で応える。


「ああ!心配しないでくれ!きっと無事に戻ってみせるからよぉ!」


 恰好付けるように、言いながら遠ざかっていった。

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