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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第4章 脅威と共に生くる、忍耐の荒野
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踊り子シーナとの出逢い①

 さてハンナに刺すように冷たい眼で睨まれた俺たちだが、この広い街で二手に分かれての情報収集は何はともあれ有効だろうということで、引き続き俺とアレクス、ハンナとクモラとで分かれて聞き込みをすることになった。ハンナが率先してクモラ側についたが、いたいけな幼女をこんな変態二匹と行動させてはいけないという使命感のようなものを感じさせた。


 しかしハンナは理解が浅い。

 変態二匹を制止役なしで放置するというのは、早々に行動が主目的から逸脱しかねないということだ。


 俺とアレクスは何処で情報収集するべきか、それを考えながらふらふら街を歩いていたところで大きなテントを見かけた。看板が掲げられており、『シェヘラザード座』とある。どうやら踊り子座のようだった。


 そこに切れ長の眼に青髪の凄まじい美人が入り込むところを目撃し、アレクスがぴたっと足を止めた。俺も奴が立ち止まっていることに気が付いて振り返る。


「……?おい、どーしたんだよアレクス?」

「ステッド、この踊り子座寄っていこうで!今見かけた踊り子、むっちゃタイプやねん!」


 ふごーふごーと、鼻息を荒くしながら言っている。

 気持ち悪いなあ、鏡でも見ている気分だ。


 俺は先ほどのハンナの氷の瞳が、烈火のごとくの怒りに変わる様を想像して、

「おいおいアレクス、さっきうっかり暴走しちまったばかりだし、そろそろ真面目に情報収集するとしようぜ?また遊んでいるってバレたら、今度こそハンナの奴に怒りの錫杖でぶっ叩かれかね……」


 そこまで言いかけた時のことだった。

 たゆん、という擬音さえ聞こえてきそうな迫力を以て、大きな乳房をした桃髪の踊り子が通り過ぎた。


「…………」


 ああ、悲しいかな!

 その瞬間、アレクスにぶつくさ言おうとする気持ちなど欠片も残さず俺の心から消し飛んでしまった。所詮男はみな乳の引力には逆らえないのだ(いわゆる万乳引力の法則である)。


「……ちょ、ちょっと寄っていこうか!意外とこんな場所だからこそ情報を得られる可能性だってあるしな!」

「せやせや!気ばかり張ってたってくたびれてまうだけやで!何事も息抜きが大切や!」

「息抜きっつーか、むしろ()()き?なんつってな!」


「「ダッハッハッハッハ!!」」


 こうしてまたしても性欲に負けたオス二匹は、まるで引き寄せられるようにして踊り子座の中へと足を踏み入れた。



 受付で入場料を支払って奥へと立ち入る。

 中は薄暗いがかなり広く、奥の方に舞台が設えられてあった。暗いので光の装飾が印象的だった。光魔法でも応用しているのだろうか?なお、客は基本立ち見のようだ。


 舞台上ではきわどい衣装を身に付けた踊り子たちが、腰をくねらせてセクシーな踊りを披露している。いわゆるベリーダンスというものだろう。いずこかで楽手が奏でているであろう楽器の音色も聞こえた。


 俺は手元の紙に目を落とす。入場の際に手渡されたもので、誰がいつ舞台に立つかや簡単な紹介が書いてある。人相画も添えられているので、俺たちを引き寄せた踊り子がいつ踊るのかも把握できた。あの桃髪の巨乳娘はミランダちゃんといって、どうやら次の舞台で登場するらしい。アレクスのハートを射止めた青髪の美人はダイアナという名で、そのさらに次のようだった。


 しばらくして、現在踊りを披露していた娘たちが舞台袖に引っ込んで次が出て来る。追って進行役(座長だろうか?)の声が聞こえた。


『お次はお待ちかね!グラマラスな娘たちばかりで結成された人気グループ、”フルーツバスケット”の登場です!そのたわわに実った果実の魅力を存分にご堪能ください!』


 むむっ、これはたまらん……

 桃に林檎にパパイヤ、果てはスイカにメロンまで、たくさんのたわわな果実が乱舞している。見ているだけで視力が回復しそうなステキ空間だった。ひとしきり踊った後で果実は落ち、やがて次が来る。


『さーて午前の部のラストです!締めを飾るのは我がシェヘラザード座の一番人気!ダイアナちゃんでーす!』


 あの青髪の踊り子が、煌びやかなドレスとベールを身に纏って舞台上に出て来る。直前の娘たちと違って、明らかに風格というかカリスマ性があった。胸はそこまで大きくないが、むしろ下手に肉感的なアピールをしないからこそ感じられる魅力だった。


 一番人気と言われていた通り、彼女が登場した瞬間に観客は沸き立った。アレクスも「ダイアナちゃーん!ワイの方を向いとくれー!」なんて叫んでいる有り様だ。


 ダイアナはひとしきり舞台下を見渡した後、蠱惑的な瞳でどことも知れずにウインクする。


「……!なあステッド!今、ワイの方を向いて笑ったで!」


 いや、たぶんお前じゃないよ。

 しかしアレクスは興奮冷めやらぬといった様子で、バックダンサーが出て来て踊りが始まる頃、

「ステッド、最前列まで行くで!こういうのはな、かぶりつきで見なアカン!」


 そう言って、強引に他の客を押しのけながら前へと繰り出していった。

 いやいや、さすがに迷惑だろ……しかしアレクスに躊躇は見られない。ハンナが、図々しさが服を着て歩いているような奴だと表現していたのを思い出す。「どけ!どくんや!」と言いながらどんどん身を乗り出していく。他の客が眉を顰めたり舌打ちをしてもお構いなしだ。俺はコイツと行動していて、コイツがよく勇者パーティの一人に成れたものだと不思議に思うことがあるが、なんだかんだこの図々しさ(換言すれば押しの強さ)が功を奏してきたのかもしれない。


 だがマナー違反には鉄槌が下されるのが社会の常だ。

 アレクスが舞台に手を掛けながら、「うおー!ダイアナちゃーん!近くで見るとエラいべっぴんさんやな!ワイに微笑みかけとくれー!」と騒いで踊り子を困らせていると、むんずと服の襟を力強く引っ張られる。


 見れば、黒スーツとサングラスを身に付けた大男が背後に立っていた。

 威圧感とともに、厳めしい声で警告する。


「困りますなあ……他のお客様のご迷惑になりますので、そのような行為は慎んで頂けますかな?」

「な、なんやお前は!ワイを誰やと思うとる!ワイは世界最高の商人――」

「お聞き受け頂けないようで……少しあちらの方で話でもしましょうか」


 大男はアレクスの襟を掴んだまま、有無を言わさず引っ張っていく。


「何をするんや!放せや!放せぇ!ス、ステッド!助けとくれーー!」


 おい!名前呼ぶんじゃねえよ!俺の方を向くな!

 もう知らねえ、他人のふりしよ……


 俺が知らんぷりを決め込んでいる間に、奴はテント内のいずこかに引きずられていった。自称世界最高の商人様のせいで、頓挫していた舞台もすぐに再開する。


 ダイアナの踊りは、さすがの一言に尽きるものだった。洗練された佇まいと脚の運び、妖艶な表情で魅せることも忘れない。周囲のバックダンサーたちも揃って美人揃いだったが、むしろ下手に美人であるからこそダイアナの引き立て役になってしまっていた。


 ところが俺のように品性の下劣な野郎ってのは、踊りをずっと芸術品を鑑賞するような高尚な心で見続けることができない。その内他の踊り子の方にも視線を浮気させて、誰か自分好みの娘がいないだろうかとよからぬことを考えてしまうのだ。


 そこで気が付いた。

 一人だけ、妙に周囲とはテンポの合っていない踊り子がいた。齢は若く、十代くらいに見える。美人というよりも可愛らしい見た目で、枯草色の髪をツインテールにまとめていた。表情は、なんとか周囲に合わせようという必死さだけに塗り潰されていた。


「…………」


 その時から舞台が終わるまで、俺の視線は一度もダイアナに戻らずその娘にばかり向けられてしまっていた。踊りに魅了されたわけではない、およそ洗練さには程遠いものだった。強いて言うなら親近感だろうか?才も能もない、恵まれない環境で必死に抗っている姿に自分自身を重ね合わせて……



 やがて午前の部が終了し、舞台も暗転した。客もはけ始める。

 俺はアレクスを探すべくテント内をふらついて、関係者以外立ち入り禁止の看板が有るところまで辿り着いた。突き当りの壁のような場所で、直角に曲がると関係者スペースのようだ。勝手に入るわけにもいかず立ち往生していたところで、次のようなやり取りを聞いた。


 ――あーもうサイアク!あのシーナって新人のせいで、今日の舞台チョー微妙だったじゃん!

 ――ホントにね。せっかくのダイアナ渾身の踊りが台無しだったわ

 ――でも心配要らないわよ。さっきね、ダイアナの靴に針を仕込んできたから

 ――あ、それホントに実行するんだー

 ――今頃シーナが針を仕込んでいるのを見たって密告が、座長にされているはずよ。もちろんダイアナとも口裏を合わせてあるわ

 ――一番人気の踊り子と脚を引っ張るしか能の無いド新人、どちらの言い分が通るかなんて火を見るより明らかね

 ――あーこれであの下手くそが、ようやくいなくなるのね!せいせいするわー


 そこで一通りの話は終わった。

 俺はどうにもいたたまれなくなって、思わずアレクスを探すという目的も忘れてテントの外へと退散してしまっていた。


 シーナというのは、おそらくあの枯草色の髪の少女だろう。一人だけ明らかに不慣れな踊りだった。


 胸の中には荒野を渡るからっ風のような物哀しさが吹き抜けていた。

 自分ではない、見知らぬ他人のことなのに何故?それは言うまでもなく、俺が彼女に一方的な親近感を覚えていたからだろう。まるで俺自身の努力までもが否定されたかのような、そんな錯覚をも感じてしまって、しばらく俺はダイアナの踊りの余韻すら忘れて道端に悄然と佇んでいた。

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