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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第4章 脅威と共に生くる、忍耐の荒野
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魔物パラダイス

 眼下の魔物の群れを見つめながら、俺たちは口々に言葉を交わす。


「どーなってんだ?魔王を倒した後、魔物はほとんどが滅ぼされたんじゃ?」

重鎧蠍(アーマードスコーピオン)死翼竜(デスフライング)、それに狂狼(マッドウルフ)まで……ウヨウヨおるな」

「この様子だと魔物を少し倒しそびれているとか、そういうレベルじゃないわね」

「ああ、たぶんダニヤンの奴……自分が戦いたいからって魔物を掃討せずに放置しとるな」


 戦士ダニヤン。

 聞いている情報だと、戦うことにしか興味がない戦闘狂だったか?


「ステッドとクモラには話したっけか?魔王を倒してしばらくしてから勇者は仲間たちに世界の分割統治を提案し、基本的に統治は各々好きなようにしてよいことになったが、ひとつだけ勇者がこれだけは実施するよう厳命したことがあってな。それが『魔族と魔物を殲滅せよ』というものやった」

「でも状況を見るにダニヤンの奴、勇者の指示をガン無視してやがるわね」

「魔物が滅ぼされず、増殖し放題の状況ってコトか?」

「ねーみんな、あっち!」


 クモラが遠く、岩山の聳えている付近を指差す。

 見ればそこはひと際多くの蠍の魔物で溢れかえっていて、さらに四人ほどの人影が見えた。前衛二人後衛二人といった役割分担で魔物と戦っているようで、それぞれ剣や拳を振るったり魔法を唱えたりして猛戦していた。


 しかしなにぶん魔物の数が多すぎる。

 このままではジリ貧になるのが目に見えていた。


「……やべえな、あのままじゃ全滅しちまう。みんな助太刀に行くとしようぜ!」

「しゃーないな、行くで!」

「はいはい、りょーかい!」


 パンタグリュエルが迅速に目標地点へと向かう。そして低空飛行に切り替わると、俺たちは太極しつつ颯爽と地面に降り立った(ハンナは一度太極してコツを掴んだのか知れないが、別に脱がなくても太極できるようだった)。


「……!あなたがたは……」


 先頭の戦士風の男が、驚きつつこちらを見てくる。他の三人もそれに続いた。


「助太刀するぜ!一緒に魔物を片付けるぞ!」


 言いながら俺は強烈な闇の波動を放出して、辺りの魔物を蹴散らしていく。加えてハンナも灼熱太陽(ライジング・サン)を唱えて魔物を焼き払い始めた。


 その火が彼らの闘志を再び燃やしたかのように、戦士たちも負けじと獅子奮迅の戦いを見せ始める。


 パーティは戦士、武闘家、魔法使い、神官といった構成のようだった。オーソドックスな編成だ。戦士と魔法使いが男性で、武闘家と神官が女性、男女半々のパーティだった。

 前衛二人が魔物を引きつけつつ剣や拳で応戦し、後衛二人が魔法で攻撃や回復といったサポートに徹する。魔法使いは火魔法を、神官は負傷した前衛に回復の光魔法を唱えている。盤石な戦いぶりだった。



 俺たちの助力もあってか、付近にはびこる蠍の魔物はそう時間のかからない内に殲滅された。戦闘が終わったことを確認すると、みな太極を解いて元の姿に戻る。アレクスが懐から試験管のように細長い小瓶を取り出して俺たちに近づいて来る。


「三人ともお疲れさん!ほら魔法の聖水やで、これで魔力を回復しいや」

「わーい!」

「お前、TS薬といい色んな物を懐に仕込んでるよな」

「ってかアンタって、昔から道具係よねー」

「まあ、しゃあないやん?ワイ腕っぷしはからっきしやしな……太極したところでそれは変わらんかったわけやし、まあ適材適所やな」


 やり取りが一段落したのを見計らって、戦士の男が声を掛けてきた。


「た、助かりました!実は魔物の巣を掃討しようとしていたのですが、想定より魔物の数が多く……ところでなにやら不思議な力をお持ちのご様子、あなたがたはいったい?」

「い、いやー、ハハハ……」


 俺はごまかすように笑いながら、この場をどう説明したものかと考える。悪い連中には見えないのだが、いかんせん事情を洗いざらい話してしまってよいものなのか疑問だった。


 悩んでいると、アレクスが俺に耳打ちする。

「ステッド、ステッド」

「?どした?」

「この連中……武闘家の女と魔法使いの男の方、よう見てみい」


 言われるがままに注視して、そこで俺もようやく気が付いた。

 武闘家も魔法使いも肌が通常の人間とは明らかに違っていた。女は青っぽく男は紅っぽい。そして両者とも眼球は黒く、耳を尖らせ、角を生やしている。


「ま、魔族!?」


 俺は思わず声を上げていた。

 戦士の男が(彼と神官の女はどうやら人間のようだった)、不思議そうに尋ねてくる。


「どうされました?このパティエンティアでは魔族なんて珍しくもないでしょう?」

「……」

「あーすまんな、実はワイらは理由(わけ)あってテンペランティアの方から来とるさかい、此処の事情を詳しく知らんのや」


 呆然としている俺の代わりにアレクスが返答した。


「へ?テンペランティアから?で、ですが、他領とは結界で分断されている状況のはずでは……」

「あまり他言せんでもらいたいが、ワイらの事情を説明したる。代わりにこのパティエンティアがどんな状況になっとるのかを教えてくれんやろか?」

「わ、分かりました。少し歩いたところに、俺たちが拠点にしている洞穴があります。そこで休みながら話をするとしましょう」

「ああ、恩に着るで!」


 戦士の男の先導で、俺たち四人と出逢った四人の計八名は歩き出す。

 黙って歩いている俺にアレクスがそっと近づくと、静かに囁いた。


「良かったなステッド。ワイが言えた義理やないが、此処では魔族も生き残っとるようや。あんさんの母親の同胞……ちゃんと生きとったで」


 その言葉を聞いて、俺はいよいよ涙腺を決壊させた。

 静かに涙を流しながら、ひたすら足を動かし続けた。

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