西へ進路を取れ
俺たちはパンタグリュエルに乗ってリベラリタスを発つと、そのままキャスティタス上空を通過してテンペランティアまで戻って来ていた。一番最初にアーティファクトを破壊した地点まで舞い戻った恰好だった。
これまでは世界の南に位置するこのテンペランティアから反時計回りに、キャスティタス、リベラリタスと巡って来た。しかしこれ以上進もうものなら勇者の直轄地である希望霊山にぶち当たってしまう。そこは最終目的地であるべき場所だ。
その為、俺たちは今後の進路をどうするべきかを話し合っていた。
明け方、森の中で小川の畔に腰を掛けながら、俺は仲間たちに尋ねる。
「なあ皆、次は何処に向かうべきだと思う?勇者の直轄地はないと思うから、今度はテンペランティアから時計回りに進んでパティエンティアか、もしくはパンタグリュエルで空を飛べるようになったわけだしディリゲンティアかの二択だと思うんだが」
ここで少し地理のおさらい。
パティエンティア(現ダニヤン領)は世界の南西に位置する荒涼とした土地。
ディリゲンティア(現ハインリヒ領)は世界の中心部に位置する台地で、俺もクモラも元々はそこで暮らしていた。
「まーその二択だったら、パティエンティアになるんやないか?」
「そーね、別にどっちを選んでも楽勝じゃないけどね……」
アレクスとハンナが、二人して串に刺した川魚を食べながら答える。
「戦士ダニヤンと魔法使いハインリヒ……どっちも勇者パーティ三強なんて呼ばれているみたいだが、どちらかと言えばダニヤンって奴の方がやりやすいのか?」
「まあそういうことやな。てかな、ハインリヒはアルバートの次ぐらいに厄介な奴やぞ?アイツは世界最高クラスの魔法使いやし稀代の天才魔法学者や。強力な魔法をぎょうさん使いこなしよるし、それに手段を選ばん男やからな」
「それに比べればダニヤンは単純な力押ししかしてこないから、まだやりやすい方だと思うわよ?こっちがどんな攻撃の準備をしていようが喜んで真正面から向かって来てくれるでしょうね」
「まあアイツがそんな戦い方をするのも自分の力に絶対の自信があるからやけどな。アイツはシンプルに強いからこそ小細工など使わんのや。下手に搦め手使ってくるタイプより厄介かもしれん」
なるほど……要は想像を絶するほどのタフガイ、ってことか?
「戦法が単純だからこそ打ち破るのも難しいかもしれないわね。あの手この手で戦法を変えてきたシューザとは対極の戦いになると思うわ」
「せやなあ、ちょっとやそっとでは倒れてくれんと思うで?てかワイはアイツが膝を突いたところすらも見たことがない」
「うう……そんなやべー奴、倒せんのかな……?」
思わず後ろ向きな言葉が口を突いて出る。
しかし齧りかけの魚を手にしたまま、クモラが近寄って来る。
「ひっと大丈夫だよー!フテフテなら!」
「クモラ……」
魚を口に含みながら言っている。その暢気な姿と口調に思わず緊張もほぐれる。
「……ああ、そうだな!これまでだってなんとかやってきたし、七大罪の化身も三体まで復活させたんだ!なんとかやれるはずさ!」
「いよっ!その意気やでステッド!後ろ向きな気持ちのままじゃ上手くいくモンも行かんくなるわ、そうやって気持ちを盛り立てることが大切やで!」
「ウジウジしがちなアンタにとってクモラはまったく良いパートナーよね。この娘がしょんぼりしているところなんて想像できないもの」
そうだな、クモラはいつだって俺の隣でにこにこ笑っている。勇気を振り絞って俺を庇ってくれたこともあった。そんな姿を見ているとウジウジしているのなんて馬鹿らしいと思えてくるし、自分も頑張らなくては!という気持ちになってくるんだ。
食事が終わると、俺たちは火の始末をして出発の準備を始める。手を動かしながら、ふと気になったことを口に出す。
「そういや、三強以外の勇者の仲間があと一人残ってなかったか?」
「ああ、キアラのことやな。けどアイツの領地は世界の北西に位置するグラティアスやからな。ワイらが今まで行動していた南~東のエリアとは正反対やねん、単純に遠いんや。辿り着くまでに希望霊山か死の大地かディリゲンティア台地を通過せなあかん」
勇者の直轄地か、今でも魔物のはびこる魔の土地か、ハインリヒ領かのいずれかを通過しなければいけないわけだ。すぐには行けそうにない場所だ。
「同じ理由で北のヒュミリタスを治めるラヴィアンも後回しになるでしょうね。まあアイツも三強の一角だけあってむちゃくちゃ強いから、わざわざ早くに戦う必要なんてないけど」
「こうやって色々考えていると、やっぱり次に戦うべき相手は戦士ダニヤンになってくるんだな……」
「そういうことやな。さーて、話もまとまって腹も膨れたことだし、ぼちぼち出発するとしようで!」
こうして俺たちはパンタグリュエルの背に乗ると、テンペランティアから西の方角へと飛び立った。せっかくテンペランティアまで戻って来たのだしマルグリットさんに顔を見せることも考えたが、アレクスの奴がいるので断念した。まあそれについては旅が一段落してからでもいいだろう。
とにかく俺たちは西へ西へと飛行を続け、やがていつものように結界を通り抜けた。
眼下に広がる景色は聞いていた通りの荒れ地。乾いた風が吹きしく中に、荒涼とした土と岩石の大地が果てしなく続いている。ところがすぐに俺たちは、予想だにしないものをも目撃することになる。
「なっ!こ、こりゃいったい……」
「あかん、これは――!」
黒い外殻の巨大な蠍の群れに、飛び交う翼竜の群れ、果ては獰猛な狼の群れまで……此処は魔物が大量にはびこる危険地帯だった。




