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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第3章 肥沃なる死地、救恤の平野
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VS.盗賊シューザ②

 シューザは跳び上がると、光る無数の種を地面に向けて投擲する。


 花魔法:”無限花序(むげんかじょ)”――!


 種は地に落ちると、地響きと共に瞬く間に急成長し、無数の(つた)を伸ばして色とりどりの花を咲かせるに至った。


「こ、これが噂に聞いてた花魔法……!」

「気を付けて!花には種類があるわ!毒霧を撒き散らすタイプや溶解液を垂れ流すタイプまで、色ごとに特徴があるのよ!」

「それどころやないで!コイツらは種をばら撒いて際限なく増え続けよる!シューザが力尽きん限りはな……!」


 言っている内に、花は次々と増殖を続けていく。

 そして紫色の花がぶわぁと、薄い紫の霧を撒き散らせる。


「ちぃっ!さっそく来やがったわね!光魔法:”ガルガンチュアとパンタグリュエル”!」


 ハンナは錫杖を構えながら叫ぶ。彼女の背後に光に包まれながら、筋骨隆々と細身の翼、二体の巨人が出現した。


「パンタグリュエル!毒を吹き飛ばして!」


 ハンナの声を受け、翼のある方の巨人が翼をはためかせる。たちどころに紫の毒霧が吹き消えていく。しかし花はどんどん増殖を続けている。当然、毒霧を撒き散らすタイプも増え続けているので、パンタグリュエルは毒霧を吹き飛ばす役割に集中するほかなかった。


 しかし攻撃は毒だけではないのだ。

 今度は紅い花が爆弾のように破裂する種をばら撒き始める。俺はクモラを庇いながら、アレクスと共に野ネズミのように逃げ惑う。


「ひ、ひいい!なんつーやべえ魔法だ!」

「あ、明らかに昔よりパワーアップしとる!きっとアーティファクトで強化されとるんや!」


 その時、鋭く蔦が伸びて来てクモラの脚に巻き付いた。


「わっ!」

「クモラ!」


 そこで脚を止めたのがいけなかった。

 俺もアレクスも別の蔦に巻き取られ、三人とも宙に持ち上げられてしまったのだ。


 そして空中では牙の付いた青い花が、ドロドロと溶解液をよだれのように垂れ流しながら、あんぐりと口を開けて俺たちを待ち受けていた。


「「いやああああああああっ!!」」


 俺とアレクスは涙目で叫び始める。冷静なのはクモラだけだった。

 俺はアレクスの方を指差しながら、

「お、お花さん!お花さん!こっち!こっちの商人の方が普段いいもん食ってるんで、きっと美味しいですよ!」

「あ!ひどいでステッド!ワイだけ犠牲にしようってか!お花さん!こっちの魔族くずれの男は魔王の力を持っとるさかい、最後まで魔力たっぷりや!喰うならこっちで決まりや!」


 二人して見苦しく犠牲を押し付け合うものの、青い花はばっくりと口を開けてまとめて飲み込もうとする。


「「いやああああああああっ!!お、お助けーー!!」」


 叫んでいると、光線が飛んできて青い花を吹き飛ばしてしまう。

 見下ろせばハンナが錫杖を掲げ上げていた。光魔法:”罪と罰”というやつだろう。


「ハ、ハンナ!いえ、ハンナさん!助かりました!」

「感謝やで!まるで救いの女神のようやー!」


「ホンット調子いいなテメーら!」


 ハンナは苛ついたように声を張り上げる。

 なにぶん彼女も余裕がなかった。いつの間にかガルガンチュアもパンタグリュエルも無数の蔦に巻き付かれて、身動き一つできなくなくなっていた。ハンナは光魔法で身を守りながら、増殖の中心地からは距離を取っていたので今のところは無事であった。とは言っても時間の問題だろう。


「ククク……この魔法はその名の通り無限に広がり続ける。どこにも逃げ場はないぜ?」


 民家の屋根からシューザが惨状を見下ろしている。仮にこの場から脱却しようとしても、奴に行く手を阻まれることだろう。


 際限なく増え続ける花は如何ともしがたく、そして逃げおおせることもできない。万事休すかもしれなかった。ハンナも諦めたかのように立ち尽くした。


 俺はこの時、思い違いをしていた。

 ハンナの胸中に渦巻いていた感情は諦観ではない、どちらかと言えば葛藤であった。


 やがてハンナは意を決したように、素早くシスター服を脱ぎ捨てた。


「なっ!なぬううううう!?」

「はわわ、これはーー!?」


 俺もアレクスも揃って驚いていた。

 当然さ、なにせハンナの奴、シスター服の下にあぶない水着を身に付けていたのだ!あれほど嫌がっていたってのに……被り物こそそのままだが、ほとんど紐みたいな水着を着ているので、彼女の首から下は圧倒的に肌色の比率が高い状態になってしまっていた。


「な、何考えてやがる……?」


 シューザも驚き半分呆れ半分といった目で、状況を見つめている。


 少し時が止まったように錯覚した。

 なんだか花たちも、空気を読んで増殖を止めてくれているような?




 ――やがて停止したように静かな時は、ハンナの驚きの行動によって打ち破られる。


「きゃ、きゃぴ~ん♪ハ、ハンナちゃんで~す♪」

 腰をくねらせピースを決めながら、ぎこちないスマイルをする。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「クソオ……と、殿方のみんな~♪今日はハンナちゃんと一緒に、楽しいことし♪ま♪しょ♪」

 艶めかしく体を揺らしながら、繕ったように愛嬌のある声で言う。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「え、えっと……ウ、ウッフン♪」

 最後にダメ押しとばかりにバチッとウィンクを決めた。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 俺もアレクスもシューザも、何とも言えないといった風に、三人して同じような表情をしていた。この時ばかりは俺たち三人は仲間だった。空気を読んでか、俺たちに巻き付いた蔦もシューザの方へと伸びていって、一堂に会する。


「ヒソヒソ……どう思いますか?シューザさん?」

「いくらなんでも寒すぎる……てめえらどうして止めてやらなかった?」

「あかんわぁ、男経験のなさがモロに出とるわ……まあ堪忍したろうや、ハンナなりに頑張って色欲に歩み寄ろうとしたんや、褒めたろうで」


 そして一斉にハンナの方を向き、

「い、いいぞー!ハンナー!かわいいぞー!」

「まあ似合ってはいるな」

「正直ぐっと来たでー!いつもそない可愛ければええんやけどなー!」


「うがああああああああああ!」


 急に汚い叫び声を上げる。

 おっ、いつものハンナに戻ったぞ。


「お、おい!ルッスリア!何してやがんだ!さっさと出て来てくれる!?なんで私がこんな生き恥晒したと思ってんの!?はやく太極するわよ!」


 ハンナの声を受けて、色欲の化身ルッスリアが姿を現す。彼女は貞淑側に近づかなければならないので、依然シスター服を着込んだままだ。


 ルッスリアはハンナの痴態を見つめながら、

「太極ねえ……別にそれはいいんだけど、ちょっと足りないんじゃないの?」

「は、はあっ!?足りないって何が!?」

「もういっそ、こうしちゃうとかね♪」


 ルッスリアは何気なくハンナにまとわりつくと、彼女の水着を思い切りずらしてしまった。

 彼女の胸の先端の可愛らしい桜色の突起が、俺たちの視界に入り込んだ。


「い、いやあああああああああああああああ!!」


 胸を隠しながら叫ぶハンナ。途端に二人の姿が白と黒の光に包まれた。


「おおおっ!?」

「こ、これはーー!?」


 太極が始まったのだと即座に理解した。

 おそらくシューザも状況を理解していることだろう。


 やがて光が晴れる頃、ハンナとルッスリア……”貞淑”と”色欲”が太極した姿が露わになる。

 そこには白と黒の翼を生やした仮面の美女が宙に浮かんでいた。仮面も服も翼と同じように、白と黒の二色に染まっている。


「あ、あれがハンナの太極……」


 え?なんかふつうにまともな見た目じゃありませんか?

 ズルい、なんかズルくない?おまけに空飛んでるし。


 しかし当の本人は感動よりも羞恥の方がまさっていたようで、

【あーー!もう最悪!一生分の恥かいたわ!】

 と感情に任せて叫び倒していた。


 ひとしきり叫んで落ち着きを取り戻すと、ようやく自身の変化に気付く。


【へえ、でも、これが太極……なるほど確かに爆発的な力の脈動を感じるわ。これなら普段の私にはできない魔法も使えそうね……!】


 言いながら空中に飛び上がって、錫杖を振りかざす。先端に強烈な光の魔力が収束する。


【こんな趣味の悪い花畑、焼き払ってやるわ!】


 光魔法:灼熱太陽(ライジング・サン)――!


 杖から放たれた光球が収束したかと思えば輝きを増し、燃え盛る火炎を周囲に撒き散らした。


(これは……!ちぃ、火属性の性質を持った光魔法か……!)


 危険を察知してシューザは飛び退き距離を取った。

 ええ、俺たちは動けないので花たちと一緒にモロに晒されております。


「あちゃちゃちゃ!アチい!アチい!」

「ア、アホかー!ワイらごと焼き殺す気かー!」


 しかし抗議とは裏腹に、確かに蔦は焼け落ち、俺たちはべしゃっと地面に落ちて解放に至る。ようやく動けるようになった俺は急いでクモラの元へと駆け寄った。


「クモラ!大丈夫か!?」

「ステステ!うん、平気だよー!」


 クモラはこの燃え盛る火炎の中でもケロッとしていた。

 随分運良く炎を免れたなと思ったが、もしかしたらクモラは魔王の魂の器なのだからあらゆる耐性が高いのかもしれなかった。あの魔王が、自分の器が易々と壊れるようにしておくとも思えないしな。


 俺は炎に包まれた周囲を見回す。

 これはチャンスかもしれないと考えていた。”無限花序”の増殖が抑えられているばかりか、シューザも火炎を避けねばならない都合上、以前ほど機敏には動けないはずだからだ。進行ルートも限定しやすい。


「クモラ、ここいらで勝負を決めに行くぞ。準備はいいか?」

「うん!いこうステステ!」

「おう!もういっちょ太極だ!」


 再び二人の存在を結び付けて、一つの漆黒の影となる。

 そして弾ける火の粉のように飛び上がった。


「ちっ!」


 シューザは飛び退いて距離を取る。しかし炎に包まれていない場所は限られている、ルートが予想できるので俺でも追い縋ることができていた。


(おそらく”破戒”を打ち込めば勝負は決まる……けどあれは至近距離じゃないと当てられねえ。炎でルートを制限できているとはいえ、やはりシューザ相手にいきなり決めるのは難しいだろう。ならまずは動きを封じる!)


 ある程度距離を詰められたところで、俺は右腕をかざす。

 七大罪の化身も二体が復活し、最初期に比べて使える魔法が増えていた。これから放つ魔法は”破戒”に比べれば射程距離の広い魔法のはずだった。


 闇魔法:”暗夜行路(あんやこうろ)”――!


 俺の右手から闇の霧のようなものが拡散してシューザを巻き込んだ。

 奴は驚きに体を硬直させて動きを止める。


「こ、これは――!」


 おそらくシューザの視界は、音も光も無い一面の闇の世界となっているだろう。


(くそ、周囲がまったく見えなくなっちまった……!それどころじゃねえ、音も気配も感じない、周囲の炎の熱すらも感じない……!外界の情報が完全にシャットアウトされてやがる!)


 さしものシューザも焦りの表情を浮かべていた。


(そういえば魔王モラクレスもこんな魔法を使っていたな……だがナメるなよ、俺は大盗賊シューザ、この程度で終わると思うな!)


 驚くべきことに、シューザは感覚が途絶したその状態からも俺との格闘を継続する。視覚でも聴覚でもない、第六感で奴は戦っていた。


【シューザ、お前は聞いてた通り強い奴だった。だが俺だって負けるわけにはいかねえ……!ここいらでケリをつけさせてもらうぜ!】


 隙を見つけて、急速に距離を詰める。

 そして拳を叩き込むとともに、思いきり必殺の魔法を叩き込んだ。


 闇魔法:”破戒”――!


 シューザは石ころのように地に転げながらも即座に立ち上がる。

 しかし勝負はほとんど着いたも同然だった。


「くそっ……!魔力が操れねえ……!魔王お得意の、魔力を狂わせる魔法か!」

【終わりだ!シューザァ!】


 もはや”韋駄天”は切れたし、”浮雲”も使えまい。

 地を蹴って駆け出し、シューザに渾身の追撃をお見舞いした。奴は呻き声を上げながら吹き飛んで、すっかり土を付けてのびてしまった。


 息が上がるのを感じる頃、太極は解けて元の姿へと戻った。二人してシューザの方を見直す。奴は変わらずのびたままだった。


「クモラ!」

「ステステ!」


 二人して見つめ合う。


「か、勝ったぞおおおお!」


 思わずガッツポーズで腕を上げて叫んでいた。

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