牢越しの遭遇
俺たちが連れて行かれたのは街の中央に聳える巨大な建物だった。この街はかつては城塞都市だったらしく、この建物も砦の遺構を流用しているのかやたらと堅牢だった。
俺たちは乱暴に牢へとぶち込まれた。四人とも一緒だ。ただし先ほどの医師の男性はいない。おそらく別の牢だろう。
牢の外に誰もいないことを確認すると、俺たちは会話を始める。
「なあアレクス、此処がシューザの本拠地だってのか?」
「おそらくそうやろう。加えて管理統制局とやらの仕事場を兼ねとるんやろなあ」
「てかアンタら、こうしてむざむざ捕まったわけだけど、ちゃんと脱出するアテはあるんでしょうね?たぶん対魔法結界がある牢よ、これ」
ハンナが牢屋の中を見回しながら言う。俺も魔王の力があるおかげで分かるようになってきたのか、たしかに魔法的な異様な雰囲気のある牢だった。
「つまり魔王の力やハンナの召喚する巨人で、ムリヤリ牢をぶっ壊して外に出ることはできないってコトだよな?」
「せやな、全快の魔王ならこんなんものともしないやろうが、現状では難しいやろなあ。まあ心配は要らん!なんせワイにはアレがあるからなぁ!ほなさっそく――」
「しっ!誰か来るわ!」
ハンナが小声で鋭く叫び、俺たちは押し黙る。
確かにコツコツと足音が近づいて来る。
――やがて鉄格子の向こう側には、萌葱色の逆立った髪に黒いマスクをした男が立っていた。カーキ色のマフラーを巻いて露出の多い身軽な服装をしている。両腰には鞘に収まった短剣を装備している。絵に描いたような盗賊の出で立ちだった。
「シューザ……!」
ハンナが叫んでいた。
「……コイツは驚いた、誰かと思えばハンナにアレクスじゃねえか。てめえら、自分の領地をほったらかして何してやがんだ?」
盗賊シューザの声音はクールで落ち着いた印象だった。それでいて隙の無さを感じさせる。静かな迫力があった。
シューザはハンナとアレクスを見た後、今度は俺とクモラの方に視線を移した。しばらく眺めた後で再び口を開く。
「……いや、なんとなく状況は理解した。さてはコイツらに負けたな?この男と少女からは妙な気配を感じやがる」
マ、マジかよ!ちょっと見ただけで大筋ながらも状況を把握しちまった!これが盗賊のカンってやつなのか?
「それで金や名声にしか興味の無かったてめえらのことだ、今度はコイツらを勝ち馬にして返り咲こうとかそんな魂胆なんだろ?それで次のターゲットが俺ってわけだ……」
「グググ……」
「ちぃっ!相変わらず察しのいい奴やな……!」
二人の視線を意に介さず、シューザは再び俺たちの方を見てくる。
「てめえら、名を名乗りやがれ」
「……ステッドだ。こっちの嬢ちゃんはクモラ」
クモラはさっと俺の背に隠れながら様子を窺っている。俺は気圧されないように努めながら、敵愾心を込めた眼差しでシューザを見上げていた。
「そうか。ステッドとクモラ、てめえらは何が目的で俺の領地に来た?金や名声が目当てか?」
「ち、ちがう!俺たちは勇者パーティのせいでおかしくなっちまってる世界を立て直す為に旅をしているんだ!」
「そーだ!そーだ!」
「ほう……」
負けじと言い返す俺たちを、シューザをほくそ笑んだような表情で聞いている。マスクのせいで口元は見えないが、たしかに目は笑っていた。
「ずいぶんと大きく出るじゃねえか?それはやがて勇者アルバートととも戦うことになる茨の道だぞ?」
「ああ、分かってるさ。だが俺たちはやると決めたんだ!商人アレクスと神官ハンナは打倒した!次はお前の番だ、盗賊シューザ!」
勢いに任せた俺の啖呵を聞いて、シューザは「ハハハハハハハハ……!」とおかしそうに笑い始める。いや、おかしそうというよりはどこか楽しそうだった。
「いいねえ……!久しく忘れていたぜ、こんな刺激はよ。俺はあくまで貧しい者たちを救うために盗賊をやっていたが、それを抜きにしてもスリルある盗賊生活というものはどこか性に合っていた。長らく刺激の無い暮らしを送っていたからな、コイツは久しぶりの感情だ……!」
シューザは敵意と高揚、二つが入り混じった視線を送っていた。
「で、俺に喧嘩を売るってことは、俺の統治が気に入らねえってことだな?」
「そうさ、アンタが格差や不平等を嫌っていることはよーく分かった!けど俺には今の社会はどこか死んでいるように見えたぜ、活力がないっていうかよ、こんな上から抑えつけるだけのやり方で上手くいくはずがねえ!」
「その通りさ。ちっとも上手くいきやがらねえ」
腕を組みながら、愚痴を言うように不満を述べている。
「俺は無い頭で必死に考えてきた。格差や身分差のない、真に平等な社会ってのはどうしたら実現できるんだろうってな。だが人間って奴はどいつもこいつも自分勝手だ、てめえのことしか考えやがらねえ。そこの商人と神官がいい例だったろ?みんなあの手この手で考えやがるのさ、どうにか自分だけは良い思いをできないかってな」
「だから全員が一緒になって苦しむような、こんな社会に?」
「しかし限界だ、やはり人間というもの自体が変わらなくてはいくら社会構造を変えたところで限度ってモンがあるんだろう。だから俺はひとつ、ある強硬手段を考えていた」
「きょ、強硬手段……?」
「別に今日実行するつもりはなかったんだが、てめえらみてえなのが現れちまったからなあ。邪魔されない内に早いとこ実行に移すことにするぜ」
そう言って、シューザは立ち去り始める。
「ま、待てシューザ!何するつもりだ!?」
「ふん、別に邪魔したけりゃ邪魔しに来りゃいい。お前はお前で、自分の理想を実現する為にここまで来たんだろう?だったら気張ってみせろ」
視界から消え去る前に、歩みを止めて再度こちらを見た。
「……待ってるぜ」
やがてシューザはその場からいなくなってしまった。
「ちくしょう、シューザの奴!いってー何をするつもりだ!?」
「ステステ!早く追いかけなきゃ!」
「第一アイツ!来て欲しいなら牢から出しなさいよ!言ってることとやってることが矛盾してるわ!」
「まあワイらがどうにかして出て来ると確信しとるんやろ。お望み通り脱出してやろうで」
得意げに言うアレクスに、ハンナは視線を送る。
「そういえばアンタ、なにか脱出するアテがあるように言ってたけど……」
「ワハハハハ!ワイを誰やと思うとる!ワイは世界最高の商人――!」
もはやお馴染みとなった台詞を口にしながら、アレクスはごそごそと下腹部辺りをまさぐり始める。そして水晶色の透き通った美しい鍵を取り出した。
「出た!変幻自在の鍵!鍵穴に応じて自在に形を変えるとかいう魔法の鍵だな!」
「ねえ、アンタ今どっからその鍵出した?」
「フフフ、ワイに任せい!こんな牢、一瞬でおさらばや!」
「ねえ、どっから出したの?その鍵」
ハンナの問いをガン無視して、アレクスは牢の内側から鍵穴に鍵を差し込んだ。
そして扉を開く前に俺の方を向いた。
「ステッド、おそらくこの建物を出たらシューザとの戦いが待ち受けとる。それにさっきのアイツの発言に嘘やハッタリの色はなかった。何をするつもりかは知らんが、街があかんことになっとる可能性が高い」
そ、そうだな……強硬手段とか言ってたし。
「覚悟は出来とるか?」
「……ああ、とっくにだぜ」
「ええ返事や、ほなら行こうか。アイツは人々の為を想っとるような発言をしとったが、結局己の理想の為ならば手段を選ばん、正しい意味での確信犯や。その思い上がった面を思いっきし叩いたれや」
やがてガチャリと、牢の開くが音が響いた。




