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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第3章 肥沃なる死地、救恤の平野
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盗賊シューザについて

 キャスティタスで色欲の化身ルッスリアを解放し、おまけに神官ハンナまで仲間に加えた俺たちは、そこから北上を続けてリベラリタスとの境目辺りまで来ていた。リベラリタスこそが次なる目的地、シューザ領である。


 もはや見慣れた紫色に透き通った壁がはだかっている。領地を隔てる結界だ。キャスティタス側の結界は既に解かれているが、隣接するリベラリタス側は依然健在なのである。


 しかし俺とクモラには魔王モラクレスの力が、アレクスには暴食の化身グーラの力が、そしてハンナには色欲の化身ルッスリアの力が宿っているので、案の定結界は何の問題もなく通過することができた。


 キャスティタスを抜けリベラリタスに踏み入った時、まず視界に映り込んだのは漠々と広がる青い平原だった。遠くでは畑が水平線に滲むように途方もなく続いている。また別のところでは、牛が何匹も放牧されている姿が目についた。粉引き用か、ところどころで水車や風車が回っていた。


「おおーここがリベラリタス、なんだかのどかなところだな」

「牛さんがいっぱいいるー!」


 柔らかな風と陽光の中で、クモラも気持ち良さそうに笑っていた。


「ここは世界の真東にあたる場所でな、気候は温暖やし肥沃で暮らしやすい土地なんや。テンペランティアやキャスティタスのような南の地域ほど暑くもならんしな。北西のグラティアスと並んで居住地として人気のある土地やったんや」

「まあ今は、移動の自由なんてないけどね」


 アレクスの解説にハンナが追随した。


「で、ここから何処に向かって行けばいいんだ?とりあえず道なりに進めばいいのか?」

「せやな、それでゆくゆくはリベラリタスの中心街に到達できるはずや。十年前から変わっとらんなら、途中で田園地帯を通過するはず」

「なら今晩は農村に泊まるのか?いや、目立つのはよくねえよな……俺たちゃ余所者なワケだし」

「まあ今日の内にそこまで辿り着くのも難しいやろうし、今晩は川べりで野宿になるやろなあ」


 キャスティタスの街を出てから、おそらく既に三日ほど野宿が続いている。

 俺とクモラはもはや慣れたものだったが、ハンナはいいかげん野宿にうんざりしていたのかこう言った。


「あ、そうだ!パンタグリュエルなら、あっという間に中心街まで飛んで往けると思うけど?」

「アホか!そんなん目立ってまうわ!シューザの奴に感付かれて警戒されたらどないするつもりや?アイツはお前みたいな単細胞ちゃうねんぞ」

「な!誰が単細胞よ!」


 あーあ、またしても二人が言い争いを始めてしまった。

 ハンナが仲間になって以降、既に何度も見せられているやり取りだった。コイツらは本当に十年前は同じ勇者パーティで冒険出来ていたのだろうか?




 俺はこれ以上二人がヒートアップする前に、話を真面目な方向へと切り戻す。


「なあ、ところで盗賊シューザってのはどんな奴なんだ?戦いになる前に教えてくれよ」

「シューザか……前にもちらっと話したと思うが、アイツは根っからの義賊やな」

「義賊……っていうと悪い奴を狙って盗みを働き貧民に施しを与えるとか、そういうやつだっけ?」

「せやせや、まさにそれやな。アイツはクールな男やが、内に秘めた熱い想いは誰にも負けん。あくどいやり方で富を蓄えているような悪徳政治家や悪徳商人ばかりを狙って襲撃し、盗み出した財産を貧民街でバラ撒いていたような奴やった。汚いやり方で不当に利益を追求する人間がとにかく気に入らなかったんやろなあ」


 アレクスの解説が、いつの間にか自己紹介のごとくに聞こえたように錯覚した。


「悪徳商人、汚いやり方で不当に利益を追求する人間って……それお前じゃん」

「せやで?ってかワイが勇者パーティと関係を持つようになった発端がな、そもそもシューザに襲撃されたからやねん」

「あー、そういえばそんないきさつだったわね」


 俺とクモラにとっては初めて知る情報だったが、ハンナは懐かしむように反応していた。


「襲撃されて勇者パーティに加わったって、どゆこと?」

「当時から既にシューザは名うての大盗賊でな、その実力を見込まれ勇者に声を掛けられている状態やったんや。ワイもそれは知っとった、なんせ勇者が盗賊を仲間にするのか?と市井(しせい)はその噂で持ち切りやったからな」

「あの潔癖勇者様が犯罪者を仲間にするの?っていう意外性のあるゴシップだったわよね」

「まあシューザは己の美学に基づいて悪事を行っとったからな、やってることは泥棒でも単なる犯罪者とはワケが違うわ。それに魔族や魔物を打ち倒すのだって結局は殺しやからな?アルバートもその辺は割り切っとったんやろ」


 アレクスは話を続ける。


「で、そーいうワケやから、いざ当時のワイの屋敷がシューザに襲撃された時、初めは心底焦ったがこれはチャンスかもしれないと思ったんや。上手くいけばシューザを介し、ワイも勇者パーティとコネクションを作ることができるかもしれんとな。ゆくゆくは勇者パーティに加入し名声を得ることができるかもしれんと!」

「それで勇者の仲間になることができたんだな……」

「もう必死に拝み倒してへーこらして、ようやく仲間に加われたんやで?今まで蓄えた金やお宝を世界の為に役立てたいんやと、心にもないこと言うてな!あれはワイ史上、トップ3に入るほどに頑張った瞬間やったわ」


 強欲で図々しい、俗物の権化。

 それがアレクスという男のまず立ち昇るイメージ像であったが、世界最高の商人を自称するだけあって、このようにピンチをチャンスに変えられるマインドを持ち合わせているのだ。それに口も達者で行動力もあるし、なんだかんだ面倒見も良い。初めて対峙した頃のアレクスのマイナスイメージは、これまでの旅の道のりで随分と払拭されてしまっていた。


 しかしハンナはジト目で、

「アレクス、あんたってホント図々しさが服を着て歩いているような奴よね」

「なんやハンナ、けなしとるつもりか?言っとくが図々しいは商人にとっては誉め言葉やで?一流の商人ってのはな、意地でも商機は逃さないんや。必要に応じて恥も外聞もかなぐり捨てられんようでは、商売で成功を収めることなんてできんのやー!」


 アレクスが己の美学を語り始める。シューザには盗賊としての、アレクスには商人としての美学があったということだ。


 しかし話の主旨が逸れてきた、俺は軌道に戻す。


「と、とにかく、勇者に実力を見込まれるくらいなんだ、油断のならねえ相手だってことは分かったぜ。けどよ、そもそも盗賊ってのはどんな風に戦うジョブなんだ?武闘家みたいに素早い身のこなしで肉弾戦でもするのか?」

「それもあるがな、武闘家と違って盗賊は魔法使いや神官のような立ち回りもできるで?」

「え?そ、そーなの?」

「それについては”魔力系統”の違いで説明ができるのよ……ってステッドはよく知らないか」


 ハンナが聞き慣れない言葉をもたらす。

 この旅が始まってもう何日も経つが、この前の”太極”といい、まだまだ知らないことだらけだなあ。


「よっしゃ、ほならここいらでステッドとクモラにはひとつ魔力系統についての講義をすることにしようか。まあこれ以上立ち話も無用や、ひとまず腰を落ち着けられる場所を目指して歩こうか」


 歩き出したアレクスとハンナに続いて、俺とクモラも移動を開始した。

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