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クモラの冒険~この腹ペコ幼女が魔王だって!?~  作者: 荒月仰
第2章 海風に揺れる、貞淑の聖堂
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VS.神官ハンナ

 ハンナの怒号を受け、ガルガンチュアと呼ばれる筋骨隆々な方が拳を上げる。そして鋭く床に叩き下ろした。石造りの床はたやすくひしゃげていた。


 俺たちはなんとか飛び退いて事なきを得たが、次にパンタグリュエルと呼ばれる翼を生やした方が軽やかに飛び上がって追撃を加えた。それも死に物狂いで回避する。


 生身でこんな巨人二体を相手にできるはずもない。

 であれば、取るべき手段は一つだった。


「クモラ!アレクスの館でのこと覚えてるか!?アレ、もう一度やってみるぞ!」

「うん!」


 クモラも闘志を込めた瞳で応える。

 そして眼前の敵を討ち倒すべく俺たちの意思が一つになったのか、俺とクモラは再び一体化した姿になることができた。白い光と黒い光の中で、尾を生やした漆黒の出で立ちへと変貌する。


「はあーっ!?何よそれ!?」


 さすがにハンナも驚いているようだった。


 この状態なら身体能力も跳ね上がる。俺は再度拳を向けてきたガルガンチュアの攻撃を躱すと、その隙に闇の波動を当てる。


 闇魔法:”破戒”――!


 真っ黒い闇の波動に晒された後、ガルガンチュアは痙攣したようにまともな動作ができなくなった。


「ちょっ!な、何が起こってるの!?」


(やっぱりな、アレクスはこの巨人たちを魔動生命体と言っていた。つまり蛇型殺戮機(サーペント・マキナ)と同じように魔力の制御を失わせればロクに動けなくなる!)


 ガルガンチュアが盛大な隙を晒している内に、俺は闇の魔力を練れるだけ練って、思い切りぶちかましてやった。光という闇の反属性の存在だからか、巨人は苦し気に呻きながら消滅していった。


 だが油断は禁物だ。あともう一体居る。

 颯爽と向かってきたパンタグリュエルの一撃を難なく躱すと、俺は先ほどと同じ要領で”破戒”で動きを止めた後、またしても強烈な闇の波動に晒してやった。翼の巨人も後を追うようにして霧散していった。


(ハア、ハア……よ、よし、なんとかやってやったぞ……!)


 一気にたくさんの魔力を使ったので、さすがに息が切れる。

 ここで一段落ついたと思ったのが迂闊だった。


 突如、ハンナの方から強力な光線が飛んで来て、思い切り吹き飛ばされる。おまけに合体状態が解けてしまっていた。初めに喰らった、”罪と罰”とかいう光魔法だろう。


「ぐ、ぐうぅ……ち、ちくしょう……」

「ふん、いい気にならないでよね。ワケ分かんない力が使えるみたいだけど、今のでかなり消耗したはず。次で終わりにしてやるわ!」


 得意げに錫杖を振りかざす。そこで、はたと手を止めた。


「ん?い、今の魔力を狂わせる闇魔法……な、なんか既視感があるわね。気のせいかしら……?」


「気のせいちゃうで」

 アレクスが口を挟んだ。


「ハンナ、お前もさんざん苦しめられたはずや。内心では今の力の正体になんとなく気が付いたんやないか?」

「ま、まさか……もしかして……」

「教えたるわ。そこの少女クモラは、魔王モラクレスの魂を宿せし存在!そしてステッドはそんなクモラを守護する使命を背負った男なんや!」

「嘘でしょ……!?魔王は十年前に倒したはずじゃない!」

「ところがどっこい、肉体は滅んでも魂までは滅んどらんかったんや。神経を集中すれば分かるはずやで、クモラから溢れ出とる魔力が魔王そっくりなことにな!」


 言われて、ハンナは床に倒れているクモラの方に目を向ける。そしていよいよアレクスの言葉を信じざるを得なくなったか、危機感を(たた)えた表情をした。


「し、信じられないけど、どうやらマジのようね……ならなおさら、アンタらを生きて帰すワケにはいかなくなったわ!」

「はっ!まあ、そうやろなあ……おい!グーラ出てこい!出番やで!」


 アレクスが声を上げると、彼の体から真っ黒い靄が沸いて出て、それが立ち上がった巨大な亀かアルマジロのような形を取った。暴食の化身、グーラが姿を現していた。


「は、はあああああああああああ!?」


 合体する謎の現象に、滅んだはずの魔王の気配、そして魔王の配下の登場……

 ハンナはとうとう状況を受け入れられないとばかりに、混乱に満ちた絶叫を上げた。


「ちょっ、おま、なんで魔王の配下が居るのよ!てかアンタの体の中から出てこなかったか!?」

「はあ~、うっさいわ!後でぜーんぶ説明したる!その前にさっさと負けてくれや!」


 叫んだ後、アレクスは傍らのグーラに視線を向ける。


「よしグーラ、ワイらもやってみるで!ステッドとクモラがやっていたような合体や!ワイと心を同じくするんや!」

「で、でも……できるかなぁ……」

「できるかやない!やるんや!やるしかない!安心せい、ワイの直感ではおそらくイケるはずや……!」


 アレクスの檄を受けて、不安そうだったグーラも決意を固めたか、ギロリと闘志に満ちた眼差しをした。やがて二人の姿が白と黒の光に包まれる。


 俺は何が起きているのかが分からなかった。

 こうして存在を一つにするのは俺とクモラの特権だと、そう思っていたからだ。


 やがて、元のアレクスとグーラの姿はどこにも見えなくなっていた。

 ――代わりに緑色の目玉をぎょろぎょろとさせた、紅い鱗の爬虫類が姿を現していた。巨大なカメレオンのような様相だった。


 俺は床に伏したまま、驚きに目を見開いた。


(え!?う、うそ、マジ!?この合体する謎の現象、俺とクモラ以外でもできるのか!?)


「え、な、なにそれ、キッショ……」


 ハンナは驚き以上に嫌悪感が先行しているようだった。


【キッショとはなんや!まあええわ、やはりワイの読みは正しかった!ワイは今、暴食の化身グーラと存在を一つにした状態になっとる!爆発的な力の脈動を感じるで!】


 アレクスは得意げな声音で言っている。

 反してハンナは敵愾心を露わにすると、鋭く錫杖を向けた。


「ふん!ワケ分かんないけど、さっきと同じように私の光魔法で効果を打ち消せるはず!覚悟しなさい、エセ商人!」


 そうして光魔法を放とうとした時、驚きに硬直した。

 なんと一瞬の隙に、アレクスの姿はどこにも見えなくなっていた。


(い、いない……!?いったいどこへ!?)


 ハンナが慌てているのも束の間、彼女の体がぐいっと宙に引っ張り上げられた。

 やがてアレクスが姿を現す。天井だ。いつの間にか大聖堂の高い天井にまで登っていて、そこから緑の長い舌を伸ばしてハンナの肉体をぐるぐる巻きに拘束していたのだ!


「な、なぁーっ!?いつの間にそんなところに!?」

【ワーハハハハハ!この姿やと壁や天井を縦横無尽に動き回れるようやな!おまけに周囲の風景に擬態することで、姿を見えんくできる!】


 もはやハンナは完全に身動きを封じられていた。彼女は窮地を脱するべく魔法を唱えようとする。


「クソがぁ!いい気にならないでよね!こんなの、私の魔法で……」


 そこでいよいよ、ハンナの瞳に絶望の色が見え出した。


「……!う、嘘でしょ……?魔力が練れない……この妙な脱力感、もしかして魔力を吸われている!?」

【どうやらこの姿やと、魔力を食うこともできるみたいやなー。さすがは暴食の化身と一体化した姿やで!】


 ハンナはとうとう打つ手がなくなったのか、ジタバタと見苦しく暴れ始める。


「ちくしょう!放せ!放しやがれ!分かったわ、私が身動き取れないのをイイコトにいやらしいことをするつもりなんでしょう!?エロ同人みたいに!」

【アホか!お前に需要なんてあるわけないやろがい!身の程を知れや、カス!】

「な、なんですってーー!」



 ハンナが天井のカメレオンと口論している中、俺とクモラはなんとか起き上がっていた。

 俺たちに気付いたアレクスが声を上げる。


【ステッド、クモラ、今の内や!この状態も長くは続かん!今の内にケリを着けるんやーー!】


「ああ!分かったぜアレクス!」


 俺とクモラは、二人してまったく同じように駆け出した。

 その途中で再び一体化した漆黒の姿に変わる。そのまま飛び上がって、宙で拘束されているハンナに手をかざした。


(このまま単純に闇の波動を当ててもいいのかもしれない。けど俺はもっと良いケリの付け方を思いついた。上手くいけばコイツを改心させられるかもしれないしな……試しにあの魔法を使ってみよう!)


 今から使うのは闇魔法の派生魔法。

 属性こそ闇だが、闇魔法とはまた別の魔法だった。


 夢魔法:”夢十夜(ゆめじゅうや)”――!


 淡い藤色の波動にハンナは晒される。

 程なくして、暴れていた体もおとなしくなり、ハンナは深い眠りの淵へと(いざな)われていった。


 ――――

 ――


 暗い闇の中に、ハンナの意識がある。


(どこよここ……?何が起こったの……?)


 やがて光が差した。

 光の見えた方向では、優し気な顔をした男女が、愛しさに満ちた眼差しを向けている。次第に、自分が温かなゆりかごの中から、それを見上げている状況だと気が付く。


(こ、この人たちは……?)


 ――うふふ、今笑ったわこの()。きっとパパに逢えたのが嬉しいのね。

 ――かわいい笑顔だ、日頃の疲れも吹き飛ぶよ。ところで名前はどれにしたんだい?

 ――ハンナよ。私たちの愛しい天使。

 ――そうか、よーしハンナ!世界は魔王だなんだと怖いことばかりだけれど、絶対にパパがお前を守ってみせるからな!

 ――まあ、アナタったら……


 話しているのが若かりし頃の、自分の両親だと気が付いた。

 自分が教会にお勤めに出ている頃に、故郷の街が魔物に襲われて、それ以来ずっと再会を果たせていない両親。今は生きてはいなくとも、きっと昔にこんな一幕があったのだ。


 ハンナの体は舌の拘束を解かれて、床に寝かせられていた。

 夢のゆりかごに揺られながら、一筋の涙を流し、うわ言のように呟いていた。


「パパ…………ママ…………」

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