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六話 魔法戦

タイトル変えました!



「…………」

「フェルル。しっかりして」

「……ん」


 私はぼうっとしていた意識をなんとか振り払った。

 あれから、私は少し変だ。もう起きてから二時間経ち、もうすぐで魔法戦が始まると言うのに。


「ごめんねぇ。……ちょっと、気になる夢を見ちゃって」

「うん。……でも、今は魔法戦」

「分かってるよー」


 ラヴァンドに諭され、私は一つ息をついた。集中しなくては。これから魔法戦が始まるのだ――。


「フェルルよ。魔法戦とはなんだ。斧で殴っても良いのだろうな?」

「ルールは説明何回もされてるよねぇ?魔法戦は、他のクラスのチームを、どんな方法でも良いから、殺さないで気絶させれば良いんだよぉ。で、たくさん倒したクラスが勝ち。分かったかい?」


 短く説明をしてやると、うむ、とジョーヌは意味もなく厳かに頷いた。私はまた深いため息をつくと、久々に使う魔道具を起動させた。ラヴァンドも出来立ての魔道具を起動させ、剣の形にしてから、私の魔道具を指して尋ねた。


「……それ、何?魔道具?」

「まあねぇ。昔に作った魔道具だよー?勝手に魔法を撃ってくれるんだよねぇ」


 二つの魔道具が、私の周りをふわふわと浮遊した。

 ランプのような形だ。それも間違いではなく、中には雷が入っている。暗いところでは光源になるだろう。私はまだ、雷魔法はマシに使えるので、苦手な魔法の連発を、この魔道具で大幅に肩代わりできる。


「……フェルル。そろそろよ」

「うん。あ、みんな。鐘が鳴ったらスタートだから、そうしたら、園内で戦闘しても良いからねぇ」


 魔法戦は、園内で行われる。園内には教師が張った結界があるので、校舎が壊れることはない。他クラスと遭遇したら、即戦闘だ。特に、Aクラスの人と出会わないよう、気をつけた方が良いだろう。

 一応、ジョーヌのために、そう言っておいた。


「うむ。知っているぞ。まさか、今知ったなんてことはないから、安心するのだ」


 絶対嘘だ。この場にいる全員が思った。しかし、ジョーヌのおかげで緊張がほぐれた。

 私達がいつものように、構えたその時。


 ゴーン、ゴーンと銀を流すような鐘の音が、辺り一面に広がった。

 鐘の音が響いた途端、私の魔道具は、一方向に向かって雷を撃ち出した。

 この魔道具は、近くにいる敵に攻撃をしてくれる。

 つまり、私達の近くに敵がいる――!


「なんだよ。バレてたか?Dクラスの奴だろ?どのクラスを倒しても配点が同じなら、Dクラスを狙った方が良いよなぁ!」

「……随分といい性格してるねぇ。凄いなぁ。私ならそんな人間のクズみたいなこと、できないよー?」


 敵を煽って場所を正確に炙り出した。出て来た敵のバッチにはAクラスの紋章があった。

 開始早々冷や汗が流れる。最悪だ。Aクラスの人に待ち伏せされるなんて。


「フェルル。下がっていて。Περσεφόνη《ペルセポネ》  」


 ラウゼの最高火力の魔法が火を噴いた。低温火傷をするほどの物凄い冷気。それを発する氷がなんと何十粒も敵に押し寄せた。


「……お前、噂のDクラスの中で一番強い奴か。確かに強い……が。俺の仲間がいること、忘れてないか?」


 敵はニヤリと笑った。ふと、後ろからひんやりとした冷気を感じた。急いで振り返る。


「えい」


 気の抜けた間抜けな声。ラヴァンドは敵の魔法を魔道具の剣で断ち切った。ラヴァンドは魔力が強いが、今日が初めての戦闘だ。私が支援してあげなければ、辛いだろう。

 私は魔道具と共に援護の雷を撃ち出した。


「そこに居るのは分かっているぞ!」


 ジョーヌも、あともう1人の敵に攻撃をした。横目で見るに、中々の接戦だ。ややジョーヌが有利だろうか。さすが、脳筋。物理は強い。物理は。


「   Αιγίς《アイギス》  」


 ラウゼはかなり余裕なようで、時折こちらに援護もしてくれる。流石だ。

 こちらはと言うと、援護があって、ようやくと言う感じか。ラヴァンドは技術を身につけたらもっと強いのだろうが、今は高い魔力を利用して、剣を振り回しているだけに過ぎない。もちろん私はほとんど戦力外なので、頼りにはならない。


 勝手に魔法を撃ってくれる魔道具を操作しながら、私はふと思いついた。――まて。

 魔法戦は4体4の戦いだ。今、敵は三人しかいない。つまり、あと一人いるはずだ。


「……っ」


 いない。辺りを見渡しても、どこにも見当たらない。

 私は唇を噛んだ。魔道具すら反応しないのだ。私が探せるわけがない。しかし、気付いたのはまだ良かった。

 ラウゼに支援魔法で伝えよう。そう思い、支援魔法を発動させようとした。

 そう。気付いたのは、良かった。しかし、遅すぎたのだ。


「やぁ、可愛いおじょーさん」

「……ハ?」


 ほんの少し瞬きをした間、気づいたら私は空中にいた。耳元で中性的な声がした。妖しい魅力のあるアルト。声だけでは男女の区別がつかない。

 私は、一瞬何が起きたのか分からなかった。


「本当に可愛いなぁ。……ボクに捕まったことにまだ気づいてないなんてね」

「っ!!離せっ!何すんだよぉっ!」

 

 ようやく正気に戻った。私は高度数十メートルほどのところで童顔の少年に横抱きにされ、捕まっていたのだ。

 角度によって色が変わる金の髪、赤と青のオッドアイの可愛らしい顔立ち。美少年とは彼のような人に言うのだろう。

 しかし、目には底知れぬ薄暗さが透けて見えた。


「へぇ。それがキミのほんとの話し方?随分と乱暴だね」

「うるさいよぉっ。早く降ろせっ!」

「いいよ、別に。でも、こんなところから落としていいの?」

 

 少年は可愛い顔を凶悪に歪めた。下を見ると、あまりの高さに身がすくんだ。箒では飛べない高度だ。少年は背中に黒い羽を生やして、この高さを飛んでいた。私は空間魔法が使える。しかし、この高さからだと上手くコントロールできない。

 私が黙り込むと、少年は何が楽しいのか、笑い出した。


「いいよいいよ。今の言葉、取り消しても。ね?」

「……はぁ。素直に取り消すよぉ」


 私はジロリと少年を睨みつけた。少年は無駄に艶やかな笑みで受け流した。


「それにしても、キミ。思ったより素直だなぁ」

「は?」

「ケッケッ、だってキミ」


 少年は気持ち悪い笑い声で笑ってから、ニコニコしていた顔を豹変させた。

 私は猫のように全身の毛を逆立てた。狂気のこもった恐ろしい笑みを、彼は浮かべていた。

 彼は私にそっと、しかし鋭い声で耳打ちした。


「詐欺師、だろ?違う?」

「…………違う。みんな苗字のことですぐにつっかかるけど、彼は私のただの遠い親戚なんだよねぇ」


 なんとか平静さを保って、私は言い返した。

 本名で入学した以上、そう訊かれるのは覚悟していた。嘘はつきたくはなかったが、彼はとても信用ならない。嘘をつかないと校内に噂が広がってしまうだろう。


「大丈夫。誤魔化さなくて良いさ。ボクも犯罪者だから、キミとおんなじ。ね、ほんとのこと、話してよ。そしたら、キミを解放してあげる。もちろん、低い場所でね」


 クスリと次は妖艶に微笑まれた。甘い言葉だ。甘くて優しい言葉ほど信用できないものはない。

 彼が犯罪者という真偽までは判別できないが、私はもとから戦力外だ。魔法戦は四人が気絶したら負けなので、私が加わっても足手纏いなだけで、戦況は変わらない。彼を上に留めさせることもできるし、解放させない手もある。

 だから、私は嘘をつき続けることにした。


「何言ってるんだい?私は犯罪者なんかじゃない。キミも嘘をつくのはやめようよぉ?」

「ね、ほんとにいいの?それで。ほら、下を見てみろよ。三人とも、キミを助けようと頑張ってる。そんな状況で、ボクがキミを人質にしたら……どうなると思う?」

「キミ、性格悪いって言われない?」


 彼は、私の甘さを見抜いている。

 私は仲間を見捨てることができない。そこにつけ込まれてしまった。


「……はぁ、わかった。けど、私の質問にも、答えてもらうからねっ!あと、今は魔法戦の最中だよぉ?他の時にしないかい?」

「いいよ。お望み通り、キミが聞きたいこと、ひとつだけ話してあげる。けど、すっぽかしたら……どうなるか分かってるよな?」

「うるさいなぁ。分かってるよぉ」


 私がそう言ってやると、彼は私を横抱きにしたまま、少しずつ高度を下げた。

 ラウゼたちが心配気に見ているのが見えた。敵はなんとか倒したらしい。近くに気絶した三人が転がっていた。


「フェルル!何もされなかった?大丈夫?怪我はないかしら?」

「そんなに一気に聞いても答えきれないよー?……まぁ、心配させてごめんねぇ」


 ラウゼが早口捲し立て、心配そうに私の体をペタペタと触って確かめた。私は大袈裟ぶりにため息をつく。

 しかし、心配させてしまった罪悪感も刺激された。

 小さな声で謝っておいた。


「…………フェルルから、離れろ」


 ラヴァンドが、鋭い目つきで私を抱えている彼に剣を突きつけた。その目つきは、ラウゼに向けるものと同じだった。

 彼はそっと私を離すと、降参だというように両手を上げた。彼が彼の仲間の元に向かう直前、私はまた彼に耳打ちされた。


「今日、12時に屋上で待ってる。他言はするなよ?……来なかったら……分かってるな?フェルール・エスピエグリー」

「そんな何回も言わなくても、分かってるよぉ」


 私はしつこさにゲンナリしながらも、しっかりと頷いた。彼は仲間と共に、現れた時と同様に瞬きをする間に消えていた。


「フェルルよ。本当に平気だったのか?」

「えぇ、本当に。彼は何を言っていたの?」


 二人の質問に、私はニコリと明るく笑いながら答えた。


「雑談だよぉー?あ、それよりも魔法戦!早く他のクラスを倒そうねぇ!」

「うむ。それもそうだな」


 二人はあっさりと信じた。他言はするなよと言われたから、嘘をついたけれど、苦い感情で胸が埋め尽くされた。


 

 それから私達は戦ったが、三戦目であっさりと負け、Dクラスは最下位となった。




「……」


 先生が怒っている。教卓の前で、静かに怒っている。

 先生の怒りはあまり迫力がない。しかし、怒った後のお仕置きは厳しく、私達は先生を極力怒らせないようにしていた。


「皆さん。私は、悔しいです。この結果が。皆さんが全力でこの二ヶ月間、頑張っていたことを知っています。だからこそ、悔しいです。皆さんは違いますか」


 しかし、先生の怒りは私達に対してではなかった。


「ごめんなさい。私の力不足のせいで、皆さんは負けました。もっとわかりやすく教えられるように、私も努力します」


 先生は、自分に対して怒っていた。私達は初めて見た先生の姿に黙りこくった。


「先生」


 ジョーヌの友達のプリュオが、気まずい空気を打ち破り、はきはきと進言した。


「俺はこのクラスが好きです。まだ二ヶ月しか居ないけど、でも、好きです。先生は俺たちが仲良くなれるように、わざとヘイトを買っていませんか?」

「…………」


 先生は無言になった。それはつまり、肯定だった。

 プリュオは人を観察するのが上手い。

 誰がどんな思惑を持っていて、どんな性格なのかを掴むのが上手い。


「先生も、仲良くしてくださいよ」

「……プリュオ君」


 先生は首を横に振った。


「人とは、文句を言い合い、励まし合うことで仲良くなります。しかしそれは、悪者が必要と言うことです。私がいなければ、誰が悪者になりますか?」

「……それは」


 プリュオは言い淀んだ。先生は冷静な、しかし慈愛のこもった目で私達を見た。


「私は昔、Dクラスと言う理由で、この学園でいじめられていました。だから、私は復讐をする事にしたのです。Dクラスを世界一幸せで楽しくて強いクラスにすると。私の夢を叶えさせてください」


 先生の言った夢は本当に難しく、しかしもしかしたらできるかも知れない、夢だった。


「それではみなさん、今日の授業は一度無しにしましょう。お疲れ様でした」


 先生は足早に去っていった。私達は先生の去った教室で、顔を見合わせた。

 そうしてから、みんなでいった。


「次の魔法戦は、勝ってみせる」


 と。

フェルルは弱いけど、ちょっと強くなる...予定。


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