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二話 没落貴族と詐欺師

毎日投稿を目指します



 女子寮に着くと、色々なクラスの女子が、何やら揉めていた。

 私は近くの女子に事情を聞こうとして、直前で辞めた。私が詐欺師の苗字だと言うことはすっかりバレている。良くて悲鳴を上げられるか、追い出されるかだろう。

 エルゼは事情を察してくれたのか、近くに居た女子にそっと話しかけてくれた。


「何かあったのですか?」

「実は寮の部屋分けに文句がある人が、先生に言っているんだ。あ、寮の部屋のルールを知らないの?」

「ええ、まだ話を聞いていないのです」


 その少女は、エルゼの仮面に驚いた様子もなく、言った。よく見ると、ネクタイの色が青色だ。青色は、確か2年生だったか。


「じゃあ、教えてあげる。この寮は一部屋に二人入るんだ。先生が決めるんだけど……相性の悪さや、仲の悪さは考慮されないから、文句を言う人が多いんだ」

「成程。では貴女も文句を言いに?」

「いや。私は違う」


 二年生の先輩はにっこりと笑った。


「私はこの寮の寮長でね、今から文句を言う人の話を聞かねばならない。あ、部屋の場所はそこの紙に書いてあるから、読んでおいてね。鍵は部屋の中にあるから、部屋に入ったら毎回鍵を閉めるように」

「はい。了解しました。感謝します。寮長様」


 エルゼがお堅くそう言うと、寮長は困ったように眉を下げた。


「そんなに堅くならなくて良いよ。お友達も、私のことが怖いのだろうか?」


 寮長はエルゼの方を見てから、私の方を見て、言った。どうやら私はエルゼの友達と見られているらしい。


「いえ、そんなことはありませんよー。私人見知りなものでして、話すのが苦手なんですよ」

「ふふ、よかった。それじゃあ、また機会があったらよろしくね」


 先輩は小さく笑うと、みんなが騒いでいる方向へ行ってしまった。なんと言うか、寮長になるのも納得な性格だ。優しそうだし、下学年を見下すこともない。

 良い人だったねぇ、なんて話しながら、先輩の言っていた紙を見た。寮の地図に名前が書き込まれている。

 名前を指で辿って行って、一つのところで止まった。

 一番端っこにある、二人部屋だ。そこにはエルゼと私の名前が書いてあった。

 

「……私達、同じ部屋だねぇ」

「ええ。よかったですわ」

「……まあねぇ」


 エルゼは嬉しそうに言ってくれたが、こちらからすると、今からおそらく出自のことを聞かれるわけで。あまり余裕がなく、なんとなく流してしまった。

 雑談をしながら廊下を歩いて行くと、一番端に突き当たった。この端の部屋が、私達の部屋なのだろう。

 ドアノブを引くが、ガチャガチャと音を立てるだけで終わった。どうやら鍵が掛かっているようだ。


「どうしようか。鍵が掛かってるねぇ」

「鍵はかかっていないと言っていたのですが」

「はぁ……いじめってやつだったりする?」


 私がエルゼに問うと、エルゼは無言で目を……と言うか顔を物理的に逸らした。

 その可能性が高いだろう。私にしたのかエルゼにしたのかはわからないが。


「しょうがないなぁ。エルゼ、ちょっと待っててねぇ」

「何をするのですか?」

「まぁ、見てたらわかるよぉ。エルゼも私の真似をして入ってねぇ」


 私はドアの前に手を置いて、くるんと手を回した。


 「  Χάος 《カオス》 」


 そうすると、ドアの前に小さな異空間ができた。その中に手を伸ばす。

 次に目を開けると、私は部屋の中に入っていた。

 数秒経つと、エルゼが驚いた顔で辺りを見渡していた。いつも無表情な口元がほんの少し開かれている。少し、驚いてくれたのだろうか。


「これは、一体……?」

「これは私の適正魔法の空間魔法だよ。まぁ、これと近くにある荷物を移動させることくらいしか出来ないけどねぇ」

「……空間魔法は、難しく貴重な魔法だと聞いた事が有ります。それと同時に魔力を大量消費するとも」


 エルゼの発言に、私は苦笑した。


「だから、一日に三回が限界なんだよねぇ……。はぁ、

ただでさえ魔力量が少ないって言うのに、なんでこんなのが適正魔法なんだろうねぇ」

「……」


 エルゼは無言で下を向いた。何か適正魔法に後ろめたいことでもあるのだろうか。朝の測定でもいきなりDクラスになっていたし。

 もしかして、エルゼは適正魔法が使えない……とか?


「……フェルル様。貴女は、詐欺師の娘なのですか」

「……。」


 どうやら、下を向いた理由はそれだけではないらしい。私にそんなことを聞くのに罪悪感があったのだろう。


「ずいぶんいきなりだねぇ。まぁ、そうだよ。私は詐欺師、イヴォワール・エスピエグリーの娘、フェルール・エスピエグリー」

「やはり、そうですか」


 エルゼは特に怖がる様子を見せない。嫌悪感も見当たらなかった。逆にそれが怖くて、心臓がバクバクと嫌な音を立てた。

 みんなのように私を嫌ったのではないか。

 そんな考えが頭をよぎった。私はニコニコと嘘笑顔を作って、言った。


「だから、私は人を騙す事が出来るんだよー?あんまり近づかない方が、身のためだと思うなぁ」

「それはお互い様でしょう」


 エルゼはピシャリとそういうと、常につけていた仮面に触れた。


「貴女、既に察しているのではないですか?」

「いや、何が?」


 私が分かりやすく首を横に傾げると、エルゼは言った。


「私の、正体です」

「ふーん」


 私はニヤリと口角が上がるのを感じた。きっと今、私は恐ろしく悪どい顔をしている事だろう。


「元貴族令嬢の、没落貴族って所かなぁ?父が死んで後継者争いから逃げて追われてる……とかどう?」

「……っ!」


 エルゼはぴくりと反応をして、これまで無表情を貫いていたエルゼの口元が驚愕に染まった。恐らく全て当たったのだろう。

 ハッタリをかけてみたが、正解のようだ。


「そこまで理解していたなら、正解でしたね。では、改めてフェルール・エスピエグリー様」

「改めてって、何……」


 私は聞き返そうとして、言葉を止めた。

 エルゼが笑っていたからだ。目は見えないが口角が嬉し気に上がっていた。ほんの少しの変化なのに、とても大きな事のように感じた。


「これでお互い様でしょう。追われている没落貴族に詐欺師の娘。どんな危険があってもおかしくはない」

「まぁ、そうだねぇ」


 私がなんとなく相槌を打つと、エルゼはそっと手を差し出した。


「協力者……いえ、友達になりませんか?お互いに助け合いましょう。私も一人でこの秘密を隠し切れるほど、優れているとは自負していません」

「……友達?」


 今度は私が驚く番だった。嘘をついていないか、動作や声のトーンを何度も確認するが、嘘をついて居る様子はない。


「なんで、怖くないの?私のこと。詐欺師の娘だよ?キミも騙されてしまうかもしれないじゃないか。逆に、今までどうして無事なんだい?不用意に人を信じすぎるのはどうかと思うけどねぇ」

「……悪意を持って騙す人が、そんな事を言いますか?」


 エルゼは困ったように、首を軽く傾げた。私は反論できず、押し黙った。


「それに、疑問に思っていたのです。貴女は何故、偽名で入学届を出さなかったのか。しかし、今わかりました。貴女は、怖いのでしょう」

「怖い?いったい何のことかなぁ?」


 無駄だとわかっていたが、しらばっくれると、エルゼは腕を組んで、言った。


「人を騙すことが、怖いのではないですか?」


 図星だった。このまま嘘をついてはぐらかすこともできる。だが、私はそれをしたくなかった。

 私は、人を騙す事ができる。

 でも、だからと言って騙していいわけではない。騙したのが分かってしまったら、信用をなくして嫌われる。

 父が何気なくやっていたそれが、犯罪であり、嫌われる事だと知った時、私は人を騙せなくなった。

 それほど、詐欺師の父が処刑された日は、恐ろしいものだった。

 だから、少しの嘘も、つくのが辛くなった。

 例えそれが優しい嘘であっても、嘘をつくだけで後ろめたく、どこか苦い感情が広がってしまう。

 唇を噛み締める。今日は口紅を塗っていたから、何とも言葉にし難い、甘い香りが口の中に広がった。


「はぁ……降参、降参。そうだよ、私は人を騙すのが怖い。エルゼ・スノーホワイト。キミ、中々やってくれるねぇ。いいよ。今日から私達は友達。お互い秘密は話さないし、バレそうになったら隠すのを手伝う。それで良いかい?」


 何だか気恥ずかしくて、早口で捲し立てた。

 すると、エルゼは笑顔のまま、言った。


「私の本当の名は、ラウゼリーナ。ラウゼリーナ・エル・ブランシェです。どうかよろしくお願いしますね」


 エルゼがすっと手を差し出してきた。何の手か一瞬理解できなかったが、握手がしたいらしい。

 私も、エルゼの手を握り返した。そうしてから、ニコリと笑顔を作った。


「改めて、よろしくねぇ。ラウゼって呼んだ方が良いかい?」

「どちらでも。どちらにせよ、外で呼ぶのはやめてくださいね」


 エルゼ――ラウゼがそっけなく言うが、別に冷たくしたいわけでは多分ない……と思う。やはりラウゼは声色が変わらなくて、感情を計りにくい。


「じゃあ、ラウゼって呼ぶねぇ。……で、今更なんだけど」

「何でしょう」


 ラウゼが不思議そうにそう言うので、私はドアの方を見ながら、答えた。


「ドアの鍵、ないままなんだけど、どうする?」

「……あ」


 結局見つからず、合鍵を寮長先輩に貰ったのであった。


 

 



 


 

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