表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

五話 休日のトラブル

三章 五話 休日のトラブル


「フェルル……酔いは醒めた?」

「酔いが覚める……?何のことだい……?」


 目が覚めたら、クロノスが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

 私は不思議に思い、昨日を思い返す。


「…………あ」


 かあぁぁ、と火が上るように顔が赤くなった。

 全部、思い出してしまった。

 昨日のあの恥ずかしい言動を!

 私はクロノスの顔をまともに見れず、頭を抱えた。


「昨日のフェルル、ほんと可愛かったよな?もちろん、今も可愛いけどな?」


 クロノスが無理矢理目を合わせてくる。

 私はぷいっと顔を背けた。


「うるさいよぉ……」

「あれ?昨日、本当は嬉しいって言ってなかった?」


 意地悪な笑みで笑うクロノスが、憎らしい。

 けど、要らないことで嘘はつきたくないし、あれだけ喋って仕舞えば嘘をついても意味がない。


「ね、フェルル。ほんとのこと、教えてよ。ボクのこと、好き?」

「あ……う……そ、それは……」


 クロノスが妖艶な笑みを浮かべる。私は心拍数が上がるのを感じた。

 私らしくもなく、顔がほおが少し熱を持つのを感じる。まだ少し酔っているのかもしれない。


「私は……キミのことが……」


 私が答えようとしたその時――朝ごはんだよー!と言う何とも気の抜ける声が響き渡った。

 その声を聞いて、私たちは顔を見合わせて小さく笑った。


「ご飯、食べに行こうか」

「そ、そうだねぇ」


 さっきのことはなかったかのように、クロノスはドアの外へ手招きしてきた。

 ああ、おかしい。いつもはこんなことにはならないのに。

 だんだんと元に戻る頰を押さえながら、私は歩き出した。

 これは、まだ酔っているからだ。そうに、違いない。


 

「私、今日は出かけるからねぇ」


 朝食の席で、私は久しぶりの柔らかいパンを齧りながら言った。

 すると、ラヴァンドがついて行きたい、と意見してきた。


「ごめんねぇ、今回は真面目に勉強したいんだよぉ。だから、一人で行きたいんだ」

「……そっか。……うん、分かった。……頑張って」


 ラヴァンドのうっすらと笑みが浮かんだ顔は、愛らしい。まるで、妹みたいだ。――身長は私の方が低いけれど。

 ジゼットはみんなに飲み物を入れて配ってから、どこか冷たい目で私を見ている。やっぱり、私のことが嫌いらしい。分かっていることだけど、そんな目で見られるときついものがある。


「わ、ジゼット!よく分かってるー!僕はオレンジジュースが一番好きなんだー!」

「あ、私はコーヒーか。よく好きなものが分かるな」


 先輩やユーストが嬉しそうに声を上げる。

 ジョーヌにはぶどうジュース、ラヴァンドにはカフェラテ、クロノスには紅茶。

 私は自分の飲み物を見て、絶句した。


「キミには私がこんなのを飲みそうに見えるのかい?」

「――甘いものが好きではないのか?お前は甘いものを好んで食べている気がするが」


 私の飲み物は、リンゴジュースだった。

 この中で一番甘い、そんな飲み物。苦味がなくて、子供が飲むことが多いこれを、ジゼットは素知らぬ顔で渡してきた。


 リンゴジュースは、エクスゼウスではポムジュースと呼ばれている。

 私は密かにそれが好きだった。でも、こんな子供じみたものが好きなのは恥ずかしく、紅茶ばかり頼んでいた。


「まぁ、そうかもねぇ。……ありがと」


 初めて、彼に対して素直にお礼を言った。全てはのジゼット・グロック。彼の信頼を得るために。

 ジゼットは特に反応せず、気を使う必要はない、とそっけなく言った。


 ユーストは、私たちの様子を不思議そうに眺めていた。



「さて、まずは書店かなぁ?」


 街中に出た私は、早速本屋へ向かった。

 ジゼットには回復魔法のため、と言い張ったが、本当はユーストを殺す時の手段を探すためだ。


 メルクリウスの魔法と、私が使えるエクスゼウスの魔法は、使う魔力が違う。

 極端に言えば、人体には二種類の魔力が流れているのだ。

 そして、メルクリウス人はメルクリウスの魔力を使うのが得意で、エクスゼウスも同様に、自国の魔法を使う方がうまくいく。

 人種によって、多い魔力の種類が違うからだ。

 私はメルクリウス人とエクスゼウス人のハーフだから、どっちも同じくらい上手く使えるはずだ。


「えーっと、魔術書……魔術書……あった!」


 町の中の小さな本屋で、私はいくつかの魔術書を見つけた。

 初級と書かれていて、回復魔法も載っている魔術書を試しに開いた。


「えーっと、ん?長っ!いくら何でも、長すぎる……」


 なんと、メルクリウスの魔法は詠唱が恐ろしく長かったのだ。

 例えば、エクスゼウスでは Πλουτώ《プルト》だけで済む水魔法が、メルクリウスでは、フェルール・エスピエグリーが命ずる。清らかな水よ、我の願いに応え、敵を打ち抜け。と言う無駄に長い詠唱になるのだ。


「こんなの、使い物にならないよぉ……」


 私はページをめくりながらため息をついた。

 しかし、一つ興味深い記述が見つかった。


「加護に近い魔法は省略することも可能……だって?」


 加護とは、エクスゼウスで言う適正魔法だ。

 魔法を強化するものでしかないエクスゼウスとちがって、武術の加護や生活に役立つ加護もあるのが特徴だ。

 普通は加護が適正魔法、片方しか使えない。

 

 そういえば、私ってハーフだし、加護も適正魔法もどっちも使えるのだろうか。

 今まで思いつかなかったことが思い浮かんだ。


「この本は買ってみるとして……加護を測れる役所に行ってみようかなぁ」


 私は加護を測れる役所――冒険者ギルドに向かうことにした。

 本を安くはない値段で買ってから、私は冒険者ギルドに向かって歩き出した。


「あ、もしかして、冒険者ですか?」

「はい、魔法使いです」


 中は思ったより人が少なく、がらりとしていた。カウンターで暇そうに座っていた受付嬢が、パッと顔を輝かせて言った。

 私は勇者一行の仲間であることは伏せて、頷いておいた。


「何のご用件ですか?」

「私、魔力が増えているか見たくて。魔力測定機はありますか?」

「はい、ありますよ。こちらの機械に触れてください」


 流石に加護を見にきたと言うのはおかしいので、よくある内容を言いながら、機械を見て少し目を大きくした。

 さすが、機械と武術のメルクリウス。エクスゼウス型のものより最新の形だ。

 そっと機械に手を翳すと、直ぐに紙が出てきて、受付嬢はそれを取り出した。


「えーっと、こちらになります」

「ありがとうございます」


 私は紙に書かれた情報を見て、目を瞬かせた。


 魔力が、高い。


 私のコンプレックスの一つである魔力が、低くない。

 全身の神経が魔力の数値に目が行った。

 これで、加護が強ければ完璧だ。そうでなくても、充分満足な数値ではあるけれど。


「花精霊の加護……?」

「え、お、お、お客様……。花精霊の加護をお持ちで……?」


 私の紙を図々しく覗き込んだ店員が、明らかに狼狽えた。

 と言うか、怯えてる。私は困惑しながら頷いた。


「そ、そうですが……」

「も、申し訳ございません!」


 店員がカウンターから腰を最大まで曲げて頭を下げた。

 数少ない客が、私たちをジロリと見つめた。

 私はさっきよりも困りながら首を横に傾げた。


「な、何のことですか……?」

「王女様だとは知らず……!確かにそのお目は女王様のものと瓜二つ!顔立ちもよく見れば似ていました!何と言っても王女様だけが持つ加護をお持ちとは!それなのに気づかないとは……!申し訳ございません!無礼な態度を……!」

「いや、何のことですか?私は王女ではないです」


 私が断言すると、受付嬢は目を潤ませながら、またぺこりと頭を下げた。

 私はポカンとした顔になりそうになり、顔を慌てて引き締めた。


「すみません。お身分を隠していらっしゃったんですね。このことは内密にしますので」

「あの、女王様のことを見たことがあるんですか」


 もう面倒になった私は、無視を決め込むことにした。

 受付嬢はぶんぶんと頭を縦に振った。


「それは勿論!私たち平民は、15歳の誕生日に一度女王陛下にお会いできるんです!女王陛下の威厳と言ったら!私は陛下のようになりたいと一目で憧れました!」

「……は、はぁ……そうなんですか。……王女の情報は、どのように伝わっているのですか?」


 目を輝かせて熱弁する受付嬢に若干引きながら、私は王女の情報を聞いた。


「王女様は、十三年前に行方不明になられている、と教わりました。エクスゼウスにてご隠居されている噂でしたが、ここにいらっしゃったんですね!」


 十三年前に、行方不明……。私がエクスゼウスに行ったのも、十三年前…………。


 やっぱり私、ヴィオレットの娘なのでは?


 そう考えて、頭を横に振った。

 それはない。ないに決まってる。王女が私だったら、父様が詐欺師なのはどう考えてもおかしいし、ヴィオレットが若すぎる。


「そ、それじゃあ……。このことはくれぐれも、内密に。いいね?」

「はい!勿論です!」


 一応口止めをしてから、私は逃げるように冒険者ギルドを去った。尊敬の眼差しが痛い。

 私は王女じゃないのに……。


「それにしても、花精霊の加護ねぇ……」


 新聞をついでに買ってから、近くにあったベンチに腰掛け、私は魔術書を開いた。

 花精霊、というくらいだ。花や草を使う自然魔法が得意なのだろう。

 自然魔法のページを開けてみる。


「回復魔法もあるんだ……。あ、身体能力を上げるのもある。便利そうだねぇ。敵を縛るのも一応あるんだ。あとは花の場所にワープ……とか」


 そこまで読んで、あれ、と気づく。

 

 攻撃魔法、なくない?


 私はもう一度読み返した。攻撃用らしき魔法は敵を縛るものだけだ。他は仲間のサポートに役立つものしかない。


「新聞読もう。うん。一回辞めよう」


 詰みかけた気がしたので、私は気分転換に新聞を開いた。エクスゼウスとの戦闘のことが大量に載っている。

 そこには魔王ラウゼリーナのことも載っていた。

 未だに実感が湧かない。ラウゼが女王で、敵国から魔王と呼ばれているなんて。


「なになに……魔王軍の多くは化け物で構成されている。悪の手から人類を救えるのは我らしかいない。

 悪の国、エクスゼウスから我が領土を取り戻すのだ!…………胡散臭いねぇ」


  新聞に載っているものは全て、国民の士気を高めるものだけだ。すっかり読み飽きた私はラウゼが載っているところだけ切り取って、残りはゴミ箱へと捨てた。


 もうやりたいことは全て制覇した。そろそろ日が暮れそうだし、宿に戻って魔法の練習でもしたいところだ。


 

 十分ほどで宿の前まで辿り着いた。

 しかし、ユーストたちが何かを話し合っていた。

 私は疑問に思い、みんなの元へ向かった。

 こんなところで話し合うなんて、よっぽどのことだろう。


「あ、みんな。どうしたんだい?あれ?カエルラ先輩はどこに?」

「カエルラは……うぅ……ごめんなさい……」


 私が尋ねると、ラヴァンドが泣きそうな顔で下を向いた。

 助けを求めるようにクロノスを見る。クロノスは事情を話そうと口を開きかけたが、ジゼットに制止された。


「私が説明する。カエルラは町長に連れ攫われたんだ。ラヴァンドの代わりにな」

「どういうこと?」


 連れ攫われる?町長に?

 私の脳が思考を停止した。


「町長が、ラヴァンドに一目惚れしたんだ。それで無理矢理自分の家に連れ込もうとして、カエルラが代わりに連れ去られた。カエルラも美形だ。町長の様子を見るに、美形であったら何でもいいらしい」

「つまり、カエルラ先輩が連れ去られたのを止めなかったってことかい?」

「あぁ。ここで止めるのは冷静な判断とは言えない。私たちは泊めてもらっている身だ。ここから出て行けと言われたら、困るのはカエルラだけでは済まない」


 冷静な判断だ。冷酷な判断とも言える。

 ジゼットは氷のような、冷たい表情で言い放ち、腕を組んだ。

 私は無言でジゼットを睨みつけた。


「勿論のこと――彼女を見捨てるつもりはない。私とユーストが町長と交渉をして、連れ戻す気はある。ある……が」

「直ぐには難しい、だよねぇ?」


 私はため息をついた。

 ユーストとジゼットが物珍しそうに私を見てくる。

 そういえば、二人に対してこんなに素の自分を見せるのは初めてだ。

 けれど、そうでもしてないとやっていられない。


「まぁ…………偽の権力を振り翳したら、出来なくもない、か……」


 私は一つの作戦を思いついた。

 ジゼット以外のみんなが期待の眼差しでこちらを見てくる。

 私は一つの作戦を話し始めた……。




「私に触るな……っ!」


 カエルラはパシリと手を叩いた。

 町長はされたことが信じられないとばかりに、赤くなった手を、見返した。


「こっちに来るな……!私は……わたしはっ!」


 ポタポタと汗が零れ落ちる。

 その汗はまるで涙のように見えた。

 カエルラは自分の腕を握りしめて、あぁ、と呟く。


「…………こんな時に限って」


 頭の中で、悪魔の声が囁く。

「殺しちまえよ」

「大丈夫。あとは俺たちが殺すから」

「メルクリウス人を許すのか?」

「生きとし生けるもの全てを殺し尽くせ」

「すべてを殺せ」


「――――あぁ、何で我慢なんてしていたんだ」


 カエルラは元の青い目を赤くさせて、目を濁らせた。

 全てを悪魔に委ね、カエルラは無表情で町長を見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ