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四話 菫は平和を祈る。

久しぶりの投稿。ようやく少しプロットがかけました。



「つい……た」


 ユーストの言う通り、丁度一週間後、なんとか小さな町までたどり着いた。

 最初は元気だったユーストも、今では少しぐったりしている。ご飯が食べれなくなり、お腹がひどく空いたからだ。


「よし、僕とジゼットは町長にこの町にしばらく居ていいか、許可をとってくるね!みんなは休んでていいから!」

「分かった。…………わたし、もう無理そう。寝る」


 その場でラヴァンドが寝かけているので、慌ててラヴァンドを支えようとした……が、腕力が無過ぎて私まで倒れそうになる。


「わぁ、危ない。フェルル、ラヴァンドを私に預けて。君も休むんだ。最近寝れてないよね?」

「…………ん。……分かったよぉ」


 先輩とジョーヌ、それからジゼットは異様に元気だ。ジゼットは軍人で、ジョーヌは過酷な環境で育ったから……みたいだけど、先輩はなんでだろう。

 ただの学生な筈だけど。


「まさか、こんな過酷だなんて……」

「フェルルは箱入りなくらいに運動できないし、してないからな」

「うるさいよぉ」


 クロノスがにやにやと笑ってきたので、私はジロリと睨んだ。

 この旅の途中、魔力切れをしてクロノスや先輩におんぶしてもらってばかりだった。

 ジョーヌにおんぶしてもらったら、腕力が強過ぎて足が折れかけたので、一回してもらった以来、してもらっていない。


 運動、しないとなぁ。


 これまで避けていた運動が裏目に出るとは。私はため息をついた。

 お風呂に入っていないので、体の臭いが気になって仕方がない。

 早く町に入りたいけど、入れなかったらお風呂にも入れないし、ご飯がなくなって人肉を………………。

 う、吐き気がしてきた。

 私は思考を停止した。


「お腹が空いたぞー!早く飯が食べたいのだ!」

「今回ばかりは、ジョーヌに同感だねぇ」


 そんな会話をしていたら、暗い顔でジゼットとユーストが帰ってきた。


「あ、ただいま……。」

「く、暗すぎだよぉ。一体何があったんだい?」

「停めてくれはするけど、ユーストが――――」

「い、言わないで!」


 ユーストがぷくっと頬を膨らませてジゼットをポカポカと殴った。

 地味に痛そうだが、ジゼットは真顔で腕を組み、厳かに頷いた。


「まぁともかく、交換条件で一週間泊めてくれるらしい。」

「そ、そうかい…………ところで、この町の町長は女好きと聞いたけど……」

「な、なんで知ってるの!?」


 ユーストが目を丸くさせて、驚いた。ただの風の噂ではあるが、当たりのようだ。

 そして、明らかに交換条件とはユーストが関係ありそうだ。

 ユーストの顔がそれを物語っている。


「この町の町長がユーストに一目惚れした……らしい。もう分かってそうなので言っておくが、ユーストが毎日町長の家に行くことが交換条件だ」

「うわ、気持ち悪っ……。しかもコイツ男だよぉ?」

「それは承知らしい」

「なんで言うのー!?ジゼットの意地悪!」


 クロノスよりも気持ち悪い行動に、私は思いっきり引いた。勿論、ユーストが女でも引く行動だ。

 確かに、ユーストはその辺の女の子よりもよほど可愛い。惚れる気持ちもわからなくはない……けど!

 私はラヴァンドをじっと見た。

 ラヴァンドがそいつに出会ったら、確実に目をつけられる。

 もしかしたら、クロノスも……?否定できない現実が嫌である。


「とにかく!宿屋に行って休もうよー!僕早くご飯が食べたいなー!」

「賛成だ!早く行くぞ!」

「――あまりお金がない。たくさんは食べないでくださいよ、勇者サマ?」


 ジゼットがそう言っても、ジョーヌとユーストははしゃいだ様子で宿屋へと走っていった。

 それを見て苦笑する。さっきはぐったりしていたのに、食べ物をちらつかせたらこの様子……無駄に元気がある。


「お金ってどのくらいあるんだい?」

「……お前が私に聞くなんて、珍しいな。そうだな――持って二ヶ月といったところか」

「少ないねぇ」


 中々話さないジゼットと話すのは、少し疲れる。私はお金の残金を聞き、また詐欺を再開する覚悟もしなくてはならないかもしれないと思いかける。

 (うわ、私ったら何考えてるんだか……。真っ当な仕事だってあるのに……)

 これではクロノスのことを言えないくらいの犯罪的思考だ。


「そういえばジゼットは大佐なんだよねぇ?それなのにどうしてお金がないんだい?」

「私の給料は全て、借金の返済に使っていた。だから、持ち金は多くない。お前たちこそ、少ないと思うが」

「私たち、学生だからねぇ?しかも、ラヴァンド以外親がいないから、特にお金がないんだよぉ」


 私は一つ嘘をついた。

 真実の中に、一つだけ。

 本当のことを言うと、私はお金がないわけじゃない。

 父様が死んだ時の援助金が多額も残っているし、色々と魔道具を売っていたのでそのお金もある。


 私はこの町でどうしても買いたいものがあった。だから、嘘をつかざるを得ない。


「そうか。それを忘れていた。しかし、この一週間はできるだけ稼いでもらう。それで異論はないな?」

「ないけど……一日だけ、休みをくれないかい?」

「――――何故だ?甘ったれたことを言うなら、すぐに撤回しろ。今はそんな状況じゃないからな」


 ジゼットの厳しい言葉にクロノスが止めようと手を伸ばす。私はそれをそっと止めて、元から考えていた言い訳を並べた。


「私はメルクリウス型の回復魔法を勉強したいと思ってる。このままじゃ、役に立たないからねぇ」

「その理由なら、特に言うことはない。――――だが、これは心に留めておけ。

 前のお前の一日と、この一週間の一日は何倍も価値が違う。無駄なことはするなよ」


 ジゼットは鋭い眼差しで、私を睨みつけた。

 私は真剣な顔を作って、こくりと頷いた。

 ジゼットは私たちを――中でも特に私を――信用していない。

 私の本音がバレないように気をつけなければならない。


「みんなー!宿が取れたよー?あれ?なんでそんなに暗いの?」

「なんでもないですよ。早くご飯を食べに行きましょう」


 ジゼットは無愛想な顔でユーストを他の話題へと誘導した。

 嬉々として酒場の方へ向かうユースト。――彼は成人しているのだろうか?とてもそうは見えないが。

 メルクリウスでは、成人が18歳じゃなくて、15歳なんだっけ?なら、私もギリギリお酒が飲める。


「フェルル」

「何」


 私はクロノスに話しかけられて、振り向いた。クロノスは、ため息をつきながら言った。


「キミ、ジゼットに警戒心有りすぎ。せめて見せかけでも無いようにした方がいいぜ?」

「そう見えるかい?」

「少なくとも、ボクにはな。ラヴァンドたちは気付いてないみたいだけど」


 私はクロノスの有難い言葉に渋々返事を返した。


「う……分かったけど。…………」

「けど?」


 クロノスに気づかれるのはイラつくし、ユーストを裏切るのを気づかれたら最悪だ――なんて言えず、私はなんでもない、と言葉を濁した。



「それじゃあ、お疲れの一杯!かんぱーい!」


 ユーストはお酒を湯水のように、一気に飲み干した。

 いい飲みっぷりだ。私はワインをちびちびの飲みながら、あまりの苦さに口をぎゅっと小さくさせた。

 に、苦い。お酒を飲むのは五回目くらいだけど、やっぱり苦手だ。

 しかも、私はお酒に弱い。少し飲んだだけでぽうっとしてくる。


「フェルル……お酒……苦手?」

「う……まぁ、ね。そ、そうかも……」


 ちょっと恥ずかしいので、しどろもどろになりながら打ち明ける。するとラヴァンドは、賛成するようにこくこくと頷いた。


「私も……苦手。苦い……から」

「ふふ。二人ともまだ、エクスゼウスでは子供だから、仕方がないよ」


 当たり前のように度数の高いお酒を飲むカエルラ先輩は、励ますように私の肩にポンと手を置いた。

 カエルラ先輩だって、子供なのに……。

 子供扱いが恥ずかしくて、少し赤くなる。

 もう酔ってきたかも。いつもじゃ、顔の赤さなんてコントロールできるのに。


「あー!フェルル、珍しいねー!そんな顔するなんて!」

「確かに、お前は余裕そうな顔ばかりだからな」


 よっぽど変な顔だったのか、みんなの目が丸くなっている。無言でクロノスが抱き寄せてきたので私はその手をバシッと叩いた。


「美味い!美味いぞ!」


 みんながお酒を飲んでいる間、ものすごい勢いでジョーヌは食べ物を食べ尽くしていた。

 ユーストはそれを見て、僕も食べるー!、と言いながらご飯を食べ始めた。


 この二人はものすごく子供っぽい。


「はぁ……ユースト様?これから予定を話すんじゃなかったんですか?」

「あ、そうだったー!予定を話すねー!」


 ジゼットがカバンから端麗な文字が書かれた予定表を出した。

 ユーストも予定表を出したが子供が書いたような、ひどく見にくい字だったので、私は無言でジゼットの予定表に目を向けた。


「あれ?なんでみんな僕のを見ないの……?ま、いっか!

 これからはここの酒場でアルバイトをさせてもらうことになってるから、一週間はそれをやりつつ、それぞれ鍛錬もしよう!あと、装備の買い揃えもしないと!」


 ユーストは、ビシッとジゼット以外の私たちの服を指差す。

 確かに今の私たちの服は、とても冒険するとは思えない服装だ。

 ちゃんと動きやすかったり、体を守れる服を買った方がいいだろう。


「それからは、砂漠の町を目指して歩くよ!

 そこからは未定だけど、最終的にはエクスゼウスの王都に向かって魔王を倒すのが目標!」

「なるほど……ねー。了解だよー」

「あれ?フェルル、酔ってきてない?」


 酔ってくる……?そうかも?

 私はふわふわする頭でそうかもー、と頷いた。

 他のみんなを見ると、ラヴァンドは頭が痛くなるタイプの酔いらしく、頭を抱えていた。

 クロノスは全く赤くなっていない顔で、水を飲ませてきた。


「ん…………ごめんねー。わたし、お酒に酔いやすいからー……」

「いや、可愛いから良いよ?」

「そっかー……。嬉しいよ。ありがと……。いつもは言えないけど、本当は嬉しいんだよ……?」


 ふんわりと笑みが込み上げてくる。

 クロノスはその笑みを見て、何故かピクリと固まった。


「素直なフェルル…………これも良いな」

「そういえば、二人は付き合ってるのー?距離感近いよねー!」


 私と同じく完全に酔ってきたユーストは、そんな質問を投げかけた。

 どこかで聞いたことのある質問だ。

 あ、そうだ。一回ラウゼが聞いてきたことがあった気がする。


「いや、付き合ってないけど、付き合ってるも同然。この距離感は……そう。うん……そうだよね?」


 ラヴァンドがガバッと起き上がり、ものすごい勢いで聞いてきた。

 目が血走りそうだ。血走るラヴァンドは想像できないけど。

 

「……えー。嫌いか好きかだったら断然好きだよー?クロノスは性格悪いけど、わたしなんかを好きなんて言ってくれるし。あと、わたし、クロノスのこと…………う、眠い……」


 そう話していたら、意識が遠くなってきた。

 眠い……お酒に酔いすぎたらしい。私は眠気を享受して、テーブルに突っ伏した。


「え、ちょっとー!止められたら気になるよー!」


 そんな声が聞こえた気がしたけど、私は関係なく、眠りの中に入った。




「やぁ、今日もゆっくりとおやすみ」

「うん……。そうだねー」

「あれ?フルール、どうしたの?」

「わたし、フェルルだよー」


 ふんわりする頭でヴィオレットの問いに答える。

 ヴィオレットは不思議そうに首を捻って、納得したように頷いた。


「もしかして、お酒を飲んだの?」

「うんー。ワイン一杯だけねー」


 私はふらっと椅子に座った。

 ヴィオレットはあわあわと紅茶を入れて、私に差し出した。


「ほ、ほら!お茶を飲んで、落ち着いて!」

「ありがとー。ヴィオレットは、優しいねー」


 私はにっこりと口角が上がるのを感じた。ヴィオレットはパチパチと何回も瞬きをした後、ふふ、と微笑んだ。


「そういえば、前聞けなかったけど……ヴィオレットって、わたしの母様……なのー?」

「………………それは、言えないよ?それを言ったら、キミはあっという間に真相に辿り着いてしまうもの」


 ヴィオレットは困ったように笑って、私にクッキーを食べさせた。

 私はぼんやりとする頭で、クッキーを噛み砕いた。

 ヴィオレットはふと思い出すように呟いた。


「けど、何かあったら、自由に私の名前を使うと良いよ?私はキミの味方。どんなふうに使っても、怒ることはないから」

「んー……そうなのー?嬉しいよー」


 私は紅茶を飲みながら、へにゃりと笑った。

 ヴィオレットは、何故か私の頭を撫でてきた。


「可哀想な子……。願わくばどうか、フルールが本当の性格を出せるような、平和な世界へ。

 ――そのために、私が変えてみせるから……待っていてね」


 ヴィオレットの言葉はよく聞こえなくて、私は首を傾げた。

 ヴィオレットはそんな私を見て心の底から笑うように、微笑みかけた。

フェルルは詐欺師の娘じゃなかったら、ふわふわ系の女の子でした。

次回になったらフェルルは100%恥ずかしがります。

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