表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

三話 宝石の呪い

ラウゼの過去編です。



 私、ラウゼリーナは恵まれていた。

 優しいお母様。厳しくも威厳のあるお父様。可愛らしい弟。お金のある家。きっと、この世の全ての幸せを、私に注ぎ込んだような、そんな幸福感を感じていた。


 けれど、途中からだった。私の人生が狂い始めたのは。

 未だに思い出せる。私のお父様が暗殺された日のことを。我が領地は反乱も起きず、治安の良いことで有名だった。だからだれも反乱の心配など、していなかったのだ。

 我がブランシェ家は、王家の血を少し継いでいた。だから、殺された。クーデターのようなものだったのだろう。王家は全盛期よりも年々勢力を縮めてしまっていた。その為増税が増えて、市民の不満は募っていたのだ。

 しかし、王家を殺すには警備が固い。ならば、平和ボケをした我が領地を狙うのは当たり前のことであった。


「次の継承者は誰に?」

「弟君様?それともラウゼリーナ様だろうか?」

「やはりラウゼリーナ様だろう。あのお方は頭脳に優れ、魔力も高い。適正魔法も宝石魔法だ。領地が発展することは間違いない」


 お父様が死んだ後、後継者の事で我が領地は荒れた。

 お母様は他領から嫁いできたので、継承権を持っていなかったのだ。

 私は継承権を持っていたが、弟は私よりも後継に積極的だった。

 今思えば、私に嫉妬していたのだろう。

 弟は私に嫉妬の目を向けることは多々あった。

 両親も、今思えば私ばかり可愛がることもあった。


 私は家を継ぐつもりはなかったので、弟が領主になった。弟のやりたいことを邪魔するつもりはないからだ。

 しかし領主になった途端、弟は態度を変えた。

 私と母を殺そうとしたのだ。

 弟は私達を憎んでいた。弟はお父様が大好きであった。ゆえに、私達が何もできなかったことに対し、許せなかったのだ。

 弟はまだ幼い。自分がしたことの恐ろしさをわかっていなかった。それなのに、権力を握ってしまったのだ。誰も、王様以外逆らえない、そんな権力を。

 私とお母様は、弟から逃げることにした。


 お母様は、根っからの貴族だ。

 父、母と共に公爵であり、苦労なく育ってきた。だから、弱かった。

 平民に落とされても生きることは出来ないと思えるくらいに。

 しかしお母様は私のために朝も夜も働いた。


「お母様、今日も遅いです。何かあったのですか?」

「何もありませんよ。……大丈夫。大丈夫。平気です。大丈夫」

 

 そんなある日、お母様は自殺した。

 遺書すら残さず、首をつって、死んだ。前からお母様は様子がおかしかったのに。私はお母様が遅いことに心配するだけで、何もできなかった。


「私はこれから先、どうやって生きれば良いのでしょう」


 私はお母様の残した食料とお金でなんとか生き延び、しかしそれさえも尽きた時、大家に家をを追い出され、貧民街で飢餓に苦しむことになった。

 お腹が空いた。骨が浮き彫りになった。それでも貴族だった誇りのせいで、盗みだけはどうしても出来なくて。

 死にそうになった私は貧民街の外の孤児院へ、駆け込んだ。

 孤児院の院長は、暖かく出迎えてくれ、私は安心して眠りについた。

 しかし、孤児院の生活は、寂しいものだった。私は平民の友達が作れず、いつも一人だった。

 そんな私にも一人の女の子が、話しかけてくれた。


「はじめまして!あたしティアって言うの!よろしくね」

「ご機嫌宜しゅう。私はラウゼリーナ・エル・ブランシェと申します。よろしくお願い致しますわ」

「えー。固いよー!あたしたち同じくらいの歳なんだから、仲良くしようよー!」


 ティアは本当にいい子だった。眩しいくらいに明るくて、太陽みたいな子だった。


「あ、そーだ。ブランの適正魔法ってなあに?あたしは、適正魔法がないの!」

「私は宝石魔法が得意ですわ」

「宝石?見せて見せてー!」


 彼女の要望に応えて、私は石を宝石にして見せた。綺麗なルビーだ。彼女によく似合う。私はルビーをティアにあげた。私は宝石を売ろうとは、いつも思えなかった。

 そのせいで、飢えていたけれど、間違いだとは思わなかった。


「わぁ!綺麗!」

「次は何色がいいでしょうか?」

「えーっとね、あたし青がいい!そうしたら、ブランとお揃いでしょ?この赤いのは私の目の色で、青はブランの色!ね?素敵でしょ!」


 ティアはもう一つ作った宝石を、私の手の中に押し付けた。そうやってから、自分の貰った宝石を並べた。

 形が似ているのもあって、本当にお揃いみたい。

 私達はそれをペンダントにして、いつも着けていたものだ。


 ある日、ティアは私に言った。


「大きくなったら、一緒にエクスゼウス魔法学園に行こう!」と。

 孤児の私は、エクスゼウス魔法学園に入学する以外の道はほとんどない。だから不安に思っていたけれど、ティアがいるなら一安心だ。

 同じ学校に行こう。そう言うくらいには私達の仲はよかった。

 

 私はティアが大好きだったし、彼女のような素敵な人と仲良くできて、本当に誇らしかった。

 しかし、ティアが孤児院を経営している夫婦の娘と知った時、私に深い嫉妬心が芽生えた。


 ティアは孤児ではなかったのだ。


「お母さーん!あたしね、今日ね!いいことがあったの!」

「あら、何があったの?」

「お父さんにも聞かせてくれよ?仲間外れは寂しいぞー!」

「あはははは!お父さんったら!」


 私は耳を塞いだ。聞きたくない。幸せな家族の会話なんて。私だって、もしお父様が殺されなければ、幸せだったのに。

 それなのに、ティアだけ幸せで、世界はなんて不平等なのだろう。私は悪いことをしたの?

 確かにお母様が苦しんでいることに、気が付かなかった。でも、仕方ないじゃないか。私は子供だ。まだ、十一歳の子供だ。

 それに、弟さえいなければ、幸せだったのに。私達は追い出されることはなかった。お母様が死ぬことはなかった。私が飢餓に苦しむこともなかった。

 神様。不平等です。どうか、私に救いを。

 願っても叶うことはない。わかっていた。だから余計に許せない。ティアが、憎い。

 よくない感情だとわかっていても、それでも。


 ある日の夜のことだった。その夜は月がよく見える晴れた日で、私はティアを呼び出していた。

 ティアと無性に話したくなったからだ。


「ティア。ティアって、嫌なことも言われるでしょう?院長先生の娘だもの。憎まれることだってある。大変ではないの?」

「うん!大変だよ!でも、憎まれるくらい素敵な父さんと母さんをもって、幸せだなぁっておもうよ!」


 ティアは、元気よく答えた。私は醜い憎悪に囚われる中、それを感じさせないよう、ニコリと笑った。


「すてき」


 本心から思った。私がティアだったらよかったのに。


「本当に、すてき」


 ティアが、眩しいよ。

 醜い感情がない、貴女が眩しい。

 だからこそ、私はその眩しさに引き寄せられるみたいに、ひどく焦がれるのだ。


「貴女のこころが宝石になったら、それはそれは綺麗でしょうね」

「……?ブラン?」


 私はその気は無かった。ただの例えだった。悪意などなかった。

 でも、現実にしてしまったのだ。


「あれ、なんか、変だ。どうしたんだろ。あたし」


 私がそう言った途端、ティアはおかしくなった。急に心臓を抑えて、蹲ったのだ。私は心配して、背中をさすった。


「大丈夫?ティア」

「あれ?あたし、ティアって言うの?此処は?」

「……ティア?」


 ティアはキョロキョロとあたりを見回した。


「どうでもいいや。そんなこと」

「ティア!どうしたの?」


 ティアは、ぼうっと焦点の合わない目で遠くを見つめた。


「………………あ」

「ティアっ!ティアっ!」


 ティアは、あ、とだけ呟いた。蹲ったままぴくりと指の先が動き、そのまま硬直した。

 目は開いている。しかし私を見ていない。

 心臓は確かに動いている。しかし脳は動いていない。


「………………あ」

「?」


 ティアは私に何かを手渡した。

 それは眩い輝きを放つ、小さい宝石だった。

 太陽よりも眩い光を放ち、私達のこころを暖かくしてくれる。これを見るだけで、ぽかぽかほかほかあったかくなるような、そんな宝石。

 暗い部屋が、宝石で昼のように明るくなる。

 私はそれがティアのこころの宝石であると、察した。


「あああ……ああ……」


 私が宝石にしてしまった。ティアのこころを、宝石に変えてしまった。ティアは廃人になってしまった。

 宝石魔法なんて、素敵じゃない。呪いだ。こんなもの消えてしまえ。何故私はあんなことを言ってしまった。何故。何故。


「嫌だ。嫌だ。こんなもの夢だわ。そうに違いない。きっと目を開けたら幸せな日常が帰ってくるのよ。ああ。私ったら起きるのが遅いなぁ。なんで呑気に寝ているの。早く起きて、元の幸せな日常に戻らないと。ええそうよ。そうよ」


 私はむしゃくしゃして、自分の顔を両手で覆った。

 ほら。これで何も見えない。あんなことなんて、起きてなかったのだ。

 ピキ。

 私の顔を、何かが覆った。覆ったところに手が触れると、冷たく硬い。それはどんどん大きくなり、やがて片目が見えなくなった。

 何が起きているのだ。そう思うが、これで死ねるのなら、丁度良い。

 私は死を享受することを心に決めた。


「……なんで」


 決めた途端、侵食が止まった。偶然あった鏡には、宝石に蝕まれた醜い己の姿。そして、倒れているティアの姿。


「――ごめん……なさい。ごめんなさい。わざとじゃ無いの。ごめんなさい。許して……どうか」


 私は動かなくなったティアに、謝り続けた。何十分もそうしてから、私は部屋に背を向けた。

 このままいても、私は捕まってしまう。私はティアを殺した。ティアのこころを殺してしまった。

 宝石を握りしめる。死ぬのは、怖い。

 ごめんなさい、ティア。私は、逃げます。

 私は孤児院から逃げ出した。

 


「それから私は逃げるために、各地を転々として、ティアとの約束を守るために、この学園に入学したわ」

「……ラヴァンドとの、関係は?」


 私は感想を述べることは、しなかった。

 ラウゼはきっと、それを望んでいない。


「ティアは、ラヴァンドのことよ。ラヴァンドのフルネームを知っているかしら」

「え?ただのラヴァンドじゃ無いの?」


 自己紹介のとき、ラヴァンドは「ただのラヴァンド」と言っていた。私はクロノスのような孤児かと思い、事情を聞くことはしなかったが、どうやら違うらしい。


「ええ。彼女の真名は、ラヴァンド・ティアレス。私も何故、ただのラヴァンドと名乗っているか、分からないわ。」


 記憶を失った時に、両親に捨てられた……とか?いや、ラウゼが嫉妬してしまうくらいに、愛に満ち溢れた家族だったのなら、それは無いか。

 では何故、ティアレスの名を名乗らないのだろうか。

 ティアレスの名を名乗った方が、これから先うまくいく。苗字のある者は優遇される社会だからだ。私はともかく、基本的にそうなのだ。


「へー。ボクも知らないなー」

「…………は?」


 ギギギギギ。そんな音が鳴りそうなほどに硬い動作で、私達は後ろを振り返った。


「え?なんでそんなびっくりしてんの?食堂なんかで話してたら聞かれても仕方がないだろ?」

「……いつから聞いてたんだい?キミに遠慮と言う言葉はないのかい?」


 クロノスはあっけらかんと言い放つ。きっと彼にとって、ラウゼの事情も、ラヴァンドのこともどうでも良いことなのだろう。

 自分で言うのもあれだが、彼は私に執着している。あの小さな出来事をきっかけに。


「あ?最初からに決まってんだろ?こう見えてボクは早起きなんだよ。遠慮?まぁ、あるんじゃないの?で、それはともかくラヴァンドの事情?だっけ?そんなの本人に聞けばいいじゃん。なんで聞かないの?」

「どうしても聞きづらいのです。彼女は私に話しかけられることを嫌がるもので」


 ラウゼは冷静に答えた。クロノスが現れてもあまり驚いた様子はない。ひたすらに無表情だ。

 クロノスはやはり、感情の起伏が薄いのだろう。だから他の人の感情の動きを読み取れない。

 ラウゼはラヴァンドに話しかけるのが怖いのだ。

 クロノスはそのことを、私が不可解なほどに理解できない。


「ふーん、そうなんだ?ま、早いうちに解決した方がいいぜ。ラヴァンドはキミのこと、憎んでんだろ?」

「……えぇ」


 ラウゼは重苦しく、頷いた。


「……それもそうですね。ラヴァンドに謝ります。此方も覚悟を決めねばなりませんね」

「私、何もできないけど応援してるから。私は二人に仲良くして欲しいもん」


 私は悪戯っぽく笑って、そう言ってやった。

 ラウゼは口角を上げて、上品に微笑み返してきたのだった。


「そういうことなので、今から謝りに行きますわ」

「え?」


 私が振り向いた頃には、ラウゼは消え去っていた。いや、よくみたらすでに遠くにいる。

 判断が早すぎる。私はクロノスと顔を見合わせ、急いでラウゼを追いかけた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ