プロローグ
初投稿
肩でなんとか荒い呼吸をする。目の前に滴る鮮血から、目を逸らす。
「おかしいよ。こんなの」
瞳からは絶えず涙が流れ出て来る。そんな中、私は手を握りしめながら、じっとその時を待った。
「誰も、悪くないのに。友達なのに。なんで、どうして」
独り言なのに、無駄に大きくなってしまう。これではまるで、語りかけているように聞こえるだろう。
私の予想は合っていたのか、私の友と撃ち合うもう一人の友だった少女は、ハッとこちらの方を息を呑んで見つめ、見つめ、そして隙を晒した。
「フェルル」
彼が、私に呼びかけた。握りしめた手を離して手を前に出した。そして、小さく呟いた。
「 Χάος《カオス》 」
ひゅん、と彼が瞬間移動をした。彼女はようやく我に帰り、いなくなった彼を探そうとしたが、すでに遅い。
月夜に光る紅いステンドグラス。それに照らされ鈍く輝く白銀の選ばれし剣。偽物のはずの剣が、私には本物に見えた。
「――――っぁ」
ステンドグラスの紅よりも赤黒い血が、地面を濡らした。彼女の腹からは、血に彩られた切先。心臓を刺さなかったのは、せめてもの情けか。
――――そして、それがこれからの人生を変えるなんて、思わないだろう。
「……ラウゼ」
私はそっと彼女の手を握った。彼女の手は小さく震え、氷のように冷たかった。――きっともう、助かりはしないだろう。少し安堵したような、恐ろしいことをしてしまったような感情の狭間で揺れた。
「あははー、ごめんね。私、バカだからさ。……こんな方法でしか、キミを止めれなかった」
私の瞳から絶えず流れる涙が、彼女の手を濡らし、更に冷たくさせた。
「ばかじゃ、ない。……貴女は……正しいことをした、の。だか……ら。自分を……責めないで。それ……から。ひとつだけ……。ねぇ……、今、見ている……のでしょう?」
彼女は力なく微笑みながら、私の方を見た。私は彼女が何を言っているのか分からなくて、小さく首を傾げた。
「貴女は……これから先、大変な目に遭う。ごめん……私、多分全部忘れちゃう……けど。自分のことを……大切にして……欲しい。周りを信用して……頼るの。お願い……。ごめんなさいね……私は……貴女……の、味方ではいられない……」
私は彼女の死体にそっと触れた。
――――これで、大丈夫。彼女は死なない。でも、死んだように見える。私は隠れてくく、と笑った。
そして、仲間の方を向いたときには、偽りの涙を流した。
みんなが、私を励ます。私は泣きながら隙を見計らっていた。
こいつらを、殺す隙を。